『信じる力』大畑大介

●今回の書評担当者●ダイハン書房本店 山ノ上純

 子供の頃から、からっきし運動が苦手だった私は、スポーツをやるのも観るのも全く興味が無く、日曜日になる度にゴルフや~マラソンや~ラグビーや~サッカーや~とチャンネルをくるくる回す父親を横目に「何が面白いんやろ?」と思っていました。そんな私が急にスポーツに目覚めたのは高校生の時。もちろん、運動神経が急に発達する訳も無く、目覚めたのは「観ること」ですが。

 忘れもしない1987年のラグビー関東大学対抗戦。雪の中行われた伝統の早稲田VS明治。その中でひときわ目を引いたのが、名門早稲田で1年生からレギュラーで出ていたスクラムハーフの堀越正巳選手。なぜか急にファンになって、ラグビーのルールを勉強する日々(笑)。

 「早稲田のラグビー部のマネージャーになりたい!」という夢を一瞬抱くも、己の学力を振り返り、あっさりと断念。それでも大学生になったらラグビー部のマネージャーに...と思っていたくせに、なぜかアメリカンフットボール部のマネージャーになっておりました。そしてまた、アメフトのルールの勉強です。

 それでも、堀越選手はずっとファンでしたし、なんと言っても大学卒業後は私の望んでいた通りに(?)、地元・神戸製鋼のチームに来てくれたんですから。その堀越選手もそろそろ引退か...という頃に、彗星のごとく現れた選手が一人。これまた地元・京都産業大学で凄い走りをする14番・大畑大介選手。彼が在学中には、早稲田を69対18で下すという大事件を起こしてくれました。そんな大畑選手がこれまた神戸製鋼に!もうたまりません。

 大畑選手は神戸製鋼だけでなく学生時代からオールジャパンでも大活躍、正月番組のスポーツマン№1決定戦で2度優勝と、もう本当に観ている者を退屈させないアスリート。テストマッチで通算69トライの世界記録保持者でもあります。

 そんな彼もここ数年は怪我に悩まされ続け...大怪我をしては治して復活。復活してはまた大怪我。普通ならもうとっくに引退していてもおかしくないくらい満身創痍だったはずなのに、その度に苦しいリハビリを乗り越え、あの素晴らしい走りを魅せてくれました。そんな彼が2010年のシーズン開幕前に、今シーズンで引退すると表明。そして2011年2月、試合中に膝を怪我し、事実上の引退となりました。スポーツ選手である以上、いつまでも現役でいることは不可能だとは分かっているけれど、やはり彼のいないフィールドは寂しいです。

 そんな彼が最近出版した本『信じる力』。ひたすら前向きな彼の考えが詰まっています。なぜシーズン前に引退宣言したのか、最終的に怪我で終わったことについてどう思うのか、そしてこれからの大畑大介は...。

 彼は、自分のヒーローは「大畑大介」だと言います。何も知らない人が聞けばどれだけ鼻持ちならない奴だと思われるかも知れない。でも、やっぱり彼はヒーローです。これからの「大畑大介」からも目が離せません。

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ダイハン書房本店 山ノ上純
ダイハン書房本店 山ノ上純
1971年京都生まれ。物心が付いた時には本屋の娘で、学校から帰るのも家ではなく本屋。小学校の頃はあまり本を読まなかったのですが、中学生になり電車通学を始めた頃から読書の道へ。親にコレを読めと強制されることが無かったせいか、名作や純文学・古典というものを殆ど読まずにココまで来てしまったことが唯一の無念。とにかく、何かに興味を持ったらまず、本を探して読むという習慣が身に付きました。高校.大学と実家でバイト、4年間広告屋で働き、結婚を機に本屋に戻ってまいりました。文芸書及び書籍全般担当。本を読むペースより買うペースの方が断然上回っているのが悩みです。