『今日のヒヨくん』やまもとりえ

●今回の書評担当者●ブックデポ書楽 長谷川雅樹

  • 今日のヒヨくん 新米ママと天パな息子の ゆるかわ育児絵日記
  • 『今日のヒヨくん 新米ママと天パな息子の ゆるかわ育児絵日記』
    やまもとりえ
    KADOKAWA
    1,050円(税込)
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  • れもん、うむもん! ―そして、ママになる―
  • 『れもん、うむもん! ―そして、ママになる―』
    はるな檸檬
    新潮社
    864円(税込)
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  • ヨチヨチ父 とまどう日々
  • 『ヨチヨチ父 とまどう日々』
    ヨシタケシンスケ
    赤ちゃんとママ社
    972円(税込)
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 私事で恐縮ですが、子どもが生まれました。これまでは仕事が終われば時間の許す限り本を読んで、ゲームをして、クイズの例会に出かけていって......という自由気ままな生活だったのですが、それがガラリ一変。四六時中泣き叫ぶ我が子の世話に必死な毎日です。今月からは共働きのためさらに朝早く起きての保育園生活もはじまり、「私の時間」という今となっては夢みたいな概念は遥か彼方に消し飛びました。もっと本を読んでおくべきだった......。

 私事はさておき、書店では、育児をテーマにしたコミックエッセイが人気です。正直子どもが生まれる前は、なぜ人気なのかいまいちわかってなかったのですが、子を持ってわかりました。今や新刊が出るたびに心が躍り、すべての先輩ママ・パパたちに最敬礼しながら棚に置かせていただいています。今日はそんな育児コミックエッセイのなかから3点ご紹介を。

■『今日のヒヨくん』やまもとりえ(KADOKAWA)
 クルマが大好きな「ヒヨくん」の出生から2歳になるまでの日常を描いたコミックエッセイ。ブログで連載されており、現在もお兄ちゃんになったヒヨくんがリアルタイムで描かれています。可愛いヒヨくんとの笑いのたえない家族の日常が、読んでいて自然と笑みがこぼれてくる一冊。とにかくヒヨくんが可愛すぎる!

 出生後の子育てによる寝不足と疲れでイライラし、うまく子育てできない自分を責めたり、パパにきつくあたったりしてしまっていたママが、ある日ヒヨくんの無邪気に笑っている姿を見てふと「子どもの笑顔のためには自分が笑顔になることが大切で、そのためには多少ズボラでも、機嫌のいい自分でいることが大切なんだ」と気付くエピソードがほんと秀逸。涙ボロボロでした。自分もそうありたい、子どもにも、ママにも笑顔になってもらえるようにするぞと、勉強させていただきました。

■『れもん、うむもん!』はるな檸檬(新潮社)
 2016年の終わりに文芸書ベスト10を選んで当店でミニフェアをやっていたのですが、こちらの書籍、選ばさせて戴きました。まえがきの「出産は、しんどかったです」という言葉からはじまる本著は、著者のはるな檸檬さんが出産・育児に直面した際の心情が包み隠さず表現されています。「産後うつ」=「駄目なママ」という自分でつくりあげてしまったイメージにとらわれ悩んでいる方、「自分には子どもなんて、育てられないんじゃないか」と不安に感じる方、今、子育てで疲れているすべての方に、読んでほしい一冊です。くり返しますが、文芸書として秀逸な一冊、コミックエッセイのなかのコミックエッセイだと思います。

■『ヨチヨチ父』ヨシタケシンスケ・著(赤ちゃんとママ社)
『りんごかもしれない』『ふまんがあります』などの絵本で有名な著者の、パパとしての育児生活をつづったイラストエッセイ。「パパ」側の心情を切り取るのが上手すぎる。「わかるわー!!」と膝ポンポンしながら読ませていただきました。ほんわかした絵ですが、そこに書かれたコトバの納得感、切り取る場面のエッジの鋭さにただただ感服。全国のパパ必読のバイブルとして推薦します。子育てはママが一番大変、「おっぱい」を持たないパパはどうあっても子どもにとっては「ママじゃない何か」であるという項、ほんとわかりますわ......。

 以上、3点ご紹介しましたが、まだまだご紹介したりない。ほんとどの本も、どの子も、どの家族も、いいんですよね......。

育 児コミックエッセイがこれだけ人気になったのは、「子育ては大変だ」ということを言える世の中になった、ってことがあるからなのではと思っています。

 とにかく子どもは「こわれもの感」がひどいわけです。「死なせてはいけない」というプレッシャーが半端じゃない。何かあったら親の責任。親が眠かろうが、疲れていようが、家庭・仕事でストレスで精神的にまいっていようが、子どもはミルクが欲しい・からだの不調を感じたら即泣く、特に理由が無くても「眠い」というだけでギャン泣き。つらいなんて言っていられない24時間365日×n年が続くという現実がのしかかり、追い込まれるのが育児の現実。

 さらには、「子育ては親の義務である」からして、「しんどい」なんて態度をちょっとでも見せようものなら世間から「親失格!」って後ろ指をさされる「気がする」、いや、そもそも世間関係なく自分としても生んだ責任を果たさなきゃ、いい親でなくては子供がかわいそうと思う、だから「しんどい」なんて言えない......つらい......という重圧に、むかしは育児雑誌の投稿欄を読む以外は、理解ある親やママ友が周囲にいない場合は、ママはただただ孤独ななか、時が過ぎるのを待つしかなかったように思えます。

 でも、育児コミックエッセイのおかげで、「みんな程度の差、家庭ごとの差はもちろんあるが、『しんどい』ということは、みんなそう」だとわかるようになりました。

 この「みんなそう」なことを知ることができるのって、ほんと安心するんです。私はずいぶん救われました。おそらく育児コミックエッセイって、ブログやSNSで個人的な発信がしやすくなった数年前から急激に伸長したジャンルだと思うんですが、テクノロジーの発達によるこの「みんなそう」の共有により、みんな癒やされ、みんな子育てがんばっていこうぜ、って思える世の中になったってことは、ほんといいことだと思う。

 そして、そのがんばりかたは家庭ごとそれぞれにあるんだな、ってことも、育児コミックエッセイは教えてくれるのです。素晴らしい。著者の皆さまほんとごくろうさまです、ありがとうございます。

 まだ私は新米パパなんで、わかったような口をきいてるだけで、パパとしてはまだまだ全然、わからないこともたくさんあります。いや、「わからないこと」が「わからない」ので、それ以前の問題でしょう。でも、妻に感謝、じいちゃんばあちゃんに感謝。笑顔をみせてくれる我が子に感謝ということは忘れないようにしよう、と思う次第。がんばろ。

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ブックデポ書楽 長谷川雅樹
ブックデポ書楽 長谷川雅樹
1980年生まれ。版元営業、編集者を経験後、JR埼京線・北与野駅前の大型書店「ブックデポ書楽」に企画担当として入社。その後、文芸書担当を兼任することになり、現在に至る。趣味は下手の横好きの「クイズ」。書店内で早押しクイズ大会を開いた経験も。森羅万象あらゆることがクイズでは出題されるため、担当外のジャンルにも強い……はずだが、最近は年老いたのかすぐ忘れるのが悩み。何でも読む人だが、強いて言えば海外文学を好む。モットーは「本に貴賎なし」。たぶん、けっこう、オタク。