『マイ・ホームタウン』熊谷 達也

●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり

 もしも期間限定かつ場所限定って言う条件付きならどんな生活がしてみたいか。

 んなもんたっくさんあるよな。例えば石油産油国の大富豪の娘になって想像を絶する贅の限りを尽くすとか、ハリウッドの超有名女優になってパパラッチに追いかけられながらセレブリティな生活を送るとか...

 いや、私はそんな物欲にまみれたギラギラ的生活ではなく、お金は無くても楽しいことが山ほどあった昭和40年代の宮城県登米町の小学生の彼らとの生活が送りたい。

 だいたい小学生のオトコの子って本当になんであんなにアホなんだろ。朝から晩まで遊び呆けてて。冒険だ探検だって危ないことばっかりして。
ホントにホントにホントに...羨ましいぞ。

 小学生の「私」と稔と巌夫は毎日学校が終わると同時に空き家に忍び込んだり山でアケビを採ったり川で岩魚を釣ったりと毎日忙しい。小学生のオトコに必要な物はそういう自然とそして「キケン」な香りなのだ。

 河童を捕まえるために底なし沼に漕ぎ出したり、洞窟探検に行って真っ暗闇の中で道に迷い山姥の里に辿り着いたり、雑木林の中で迷子になり狐に化かされたり...
 そう何よりこの小説を魅力的にしているのは、かつての日本にはどこにでもいたであろう「もののけ」のようなものたちだ。きっとそういう不思議な生き物が普通にいたんだよ、そしてそれらたちとかすかに接することのできた最後の世代が彼らなんだろうな。

 そう言えば、もののけって山に似合うのはナゼだろう。これが海辺の物語だとこういう風にカラッといかない気がする。海坊主とかジゴクの釜の蓋とか何となくおどろおどろしくって真剣に怖い。
 とある知り合いが夜に海釣りをしていたら波間からぬうっっと「何か」が出てきて友達を海に引きずり込んでしまった...って言ってたな。これはマジで怪談だ。夜の釣りには気を付けよう、まぁ、行かないけどさ。
 うん やっぱり山がいいな。狸になら化かされても致命傷は受けない気がするし、葉っぱのお金も見てみたいし。

 とにかく期間限定場所限定なら、昭和40年代の宮城県登米町に行って夏休みを思いっきり楽しむのだ。真っ黒に日焼けして野山を駆け巡りわくわくしたりドキドキしながら毎日を過ごすんだ。
そして限定が解除された時にふと忘れてしまった何かを思い出して懐かしさに鼻の奥をツンとさせたりしたいもんだ。

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精文館書店中島新町店 久田かおり
精文館書店中島新町店 久田かおり
「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。