『学問』山田詠美

●今回の書評担当者●正文館書店本店 清水和子

ずばり今年の新潮社は凄い! 村上春樹、馳星周、そして山田詠美です! 出版社大賞をあげたい位です。

私はいつも活字を読んでいないと苦痛です。自分の買ったレシートでも何でも活字を見ていないと落ち着きません。映画も音楽もすきだけど、活字は(本は)只の字面なのに高い所に持ってかれたり、突き落とされたり、凄い本は活字が跳びはねて見えたりします。加えて、読書はとても個人的なものです。活字中毒かも知れないけど、それを差し引いても何故本を読むのか? 私にとって精神の背負い投げ、としか言いようがありません。世間の化物の様な重圧、自分の凝り固まった概念、それを鮮やかに投げ飛ばすのは、いつだって山田詠美なのです。けれど、新刊が出る度に、同時代に生きていて今読む事ができる歓びと、今迄全部凄かったけど今回はどうだろう、と不安の気持ちの半々でいつも読み始める迄全く落ち着けません。

そして今回も背負い投げされたー! この2年振りの小説。まずタイトルが素晴しい。漢字二文字。読書欲を掻き立てられます。舞台のモデルは静岡県。転校の多かった山田詠美が、小学生時代に実際に住んでいた所でもあります。小学生の仁美は、転校先でテンちゃん、ムリョ、チーホと出逢います。ページを開くとのっけから仁美68才享年の記事。しかしそれに触れる事なく仁美達4人の新しい世界が展開してゆきます。小学生、中学生、高校生。その章の間に、4人プラス1人の死亡記事が挿入されます。人はいつか死ぬ。そんな濃いこちらの気持ちお構いなしにきらめく時間が目の前に現れます。単なるボーイミーツガールの話ではないです。人は人にどれだけ心を預けられるのか? 人が人をすきになるのは千差万別、欲望も恥もまた然り。「欲望の愛弟子」とはなんて凄い文字の羅列だろう。この4人の過ごした時期は、色々あるけど本当にきらきらしてるなぁ〜。自分の思い出として持って帰りたい位だ。生と性と死。テンちゃん、心の底から格好良いです。仁美との出逢いからして心を撃ち抜かれました。おもらししてしまった仁美に、男はしょんべんだけど女はおしっこだから大丈夫だ、と慰め、無理に自分もちょろちょろ「しょんべん」して見せる。そしてこれでおあいこだ、と言い放つのです! なんて奴なんだ! 私も一生付いていく、と思いました。テンちゃんだったら支配されてもいいや。そうやって思えるのは尊い人間関係だと思います。

様々な人に読んで欲しい小説です。この世界、文章、言葉を脳に心に体に、じゅわーんじゅわーんと浴びていただきたいです。

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正文館書店本店 清水和子
正文館書店本店 清水和子
名古屋の正文館書店勤務。文芸書担当。名古屋は良い所です。赤味噌を笑うものは赤味噌に泣くぞ!と思います。本は究極の媒体だ〜。他の書店に行くのも図書館に行くのもすき。色々な本がすきです。出勤前にうっかり読んでしまい遅刻しそうになり、凄い形相で支度してることもしばしば。すぐ舞い上がってしまうたちです。(特に文学賞発表のときなど)すきな作家の本の発売日は、♪丘を越え行こうよ〜の歌が頭の中でエンドレスに流れてます。誕生日占いが「落ち着きのないサル」だったので、心を静めてがんばりたいです。