『イスラム飲酒紀行』高野秀行

●今回の書評担当者●うさぎや自治医大店 高田直樹

 ビールが旨すぎる季節。 呑まないと一日が終わらないという人も多いでしょ。

 そんな事言ってる自分も、これまた毎日呑んでいる。日本酒もイイ。焼酎もイイ。最近はマッコリの恐ろしさも知ってしまった。でも、やっぱりビールがイイ!毎日午後3時ぐらいから「早くビール呑みてぇ...」と思っている。子どもを寝かして、嫁さんも寝て...まずビール。呑みながらちょこっと残業...。残業がなければもっと旨いかも。

 そんなこの季節にピッタリなのが、この『イスラム飲酒紀行』。
 UMAを追っかけたり、アヘンの里に行ったりと毎回とんでもない紀行で魅せて、世界の奥深さを教えてくれる高野さんの新刊だ。今回はタイトル通り「禁酒」が当ったり前のイスラム圏に行った際に「いかに呑むか」を綴った紀行、ルポルタージュ。

 ある国では、ホームレス状態に陥りながらも人間ワイングラス方式による奇妙な飲酒スタイルを開発し、挙句の果てに周囲にぶちまける。またある国では、酒を求めて地元の学生と知り合い異国の奥地までズッカズカ入り込みまんまとドンチャン騒ぎにありつく。とにかくその行動力・バイタリティーが桁外れ。桁外れにカッコイイ。

 報道などを通して"見えている"イスラム圏の勝手なイメージがあった。"敬虔なムスリム""重い戒律""紛争多発""暴動""想像もつかないような風習"...などなどなどなど、何かと敷居が高そうだった(自分だけ?)。

 でも、その深部に突入したからこそ見えてくる、人々の人間臭さや自然体な姿、ごくごくフツーの温かさに「やっぱり皆フツーの人たちなんだよなぁ」と変に感心してしまった。 日本に比べれば沢山の色んな決まりごとがありそうだけど、そこに暮らす人たちはそれらタテマエと、人間としての自然なホンネを微妙なバランスで保って、しなやかに生きていた。そういう意味でも日本人よりもずっとタフかも。

 それにしても高野さんはスゴイ。 どこに行っても「まずはビール魂」を貫く。さらに「地元の人たちと、地元の人たちの呑み方で、ワイワイ呑む」のを信条にしている所が更にカッコいい。「ホテルでコソッと」とか「外国人旅行者用」とかの酒では満足しないのだ。だから、裏路地にでも知り合ったばかりの人の家にも、真夜中のオアシスにでもグリグリ入り込んで行く。そして痛飲。

 並みの紀行本では、飽き足らない人にはうってつけだろうし、酒を生きる糧にしている人たちにもとっても面白く読めるだろう。今後も高野さんが行く"世界"が愉しみ。

 次はどこで呑むのかなぁ...。

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うさぎや自治医大店 高田直樹
うさぎや自治医大店 高田直樹
大学を出、職にあぶれそうになっていた所を今の会社に拾ってもらい早14・5年……。とにもかくにもどうにかこうにか今に至る。数年前からたなぞう中毒になり、追われるように本を読む。でも全然読めない……なぜだ! なぜ違う事する! 家に帰っても発注が止められない。発注中毒……。でも仕入れた本が売れると嬉しいよねぇ。