『台所防災術』坂本廣子、坂本 佳奈

●今回の書評担当者●農文協・農業書センター 谷藤律子

  • 台所防災術―がんばらなくても大丈夫
  • 『台所防災術―がんばらなくても大丈夫』
    坂本 廣子,坂本 佳奈
    農山漁村文化協会
    1,620円(税込)
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 この度の熊本大震災で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。また、残念ながら亡くなられた方々に哀悼の意を表します。

 この原稿がアップされる頃には少しでも事態が好転していることを願うが、避難暮らしがそうすぐに解消されることはないだろう。そんなわけで今回のおすすめ本はこちら。

 著者の坂本廣子・坂本佳奈親子は阪神淡路大震災時、自宅で被災した。その経験をふまえ「食」を守る防災を重点的にまとめた1冊。

 避難所のニュースを見ていると配られるのはおにぎり、カップラーメン、乾パン......もちろん緊急時に大切な食糧だがいつまでもこれだけで過ごせるわけではない。非常時でも、いや非常時だからこそ「あたたかいもの」「栄養バランスのよいもの」をとることが大事になる。そこで活躍するのが缶詰と乾物。缶詰はともかく、普段の料理でも乾物って、もどす手間がおっくうであまり使わない......が、乾物、ほんと素晴らしい。基本的に常温保存可能、必要時に必要な分だけとりだして食べられる。ひじき、わかめはミネラル、カルシウムが豊富だからストレスが増えがちな避難生活にも最適。

 ちなみに東北の大震災時、宅配便などがすべて止まったなか、普通郵便だけはいち早く復旧していたのをご存知ですか。私は震災1週間後には仙台で半壊の住宅にいる友人に上限切手240円分で食糧を送った。乾物なら送れたんです。ひじき、とろろこんぶ、お麩など軽いものを何通かに分ければバランスが偏ることもない。これは東北震災時のことでいつでもは通用しないかもしれないが、軽くて輸送しやすいことも乾物の利点。

 これらを使った坂本親子のレシピ、「カンピョウ丼」「麩チャンプルー」「チャプチェ」などもう被災しなくても食べてみたいくらいおいしそう。料理写真の器も紙やアルミ、ペットボトル製などで、こちら作り方も掲載されています。器にはあらかじめビニールなどを仕込めばそこだけ使い捨てて洗う手間もなし、水も節約できるといった知恵も。
調理方法も水を節約しながらも衛生的に、省エネでできる調理などが細かく書かれていて、普段から活用していればいざという時もすぐ動けるだろう。

 食べることは生きる基本だ。被災すぐは配給される食糧をとることでやっとだと思うが、少し落ち着いてきたら「おいしく、あたたかいもの」を食べることをあきらめないでいただけたらと思う。そして一日も早い熊本の復興を心よりお祈りしております。

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農文協・農業書センター 谷藤律子
農文協・農業書センター 谷藤律子
版元の農文協直営、日本で唯一の農業書専門店です。農林漁業・地域行政・環境・ガーデニング・食文化など農に関する分野を幅広く集めています。出 版界には長くいるものの、本社事務職勤務から当店への転属により書店員業はやっと2年生。となり同士でも別世界にように違う本屋ワールドは見るも の新しく、慣れないながら日々精進中です。また、書店員のほか個人で作詞家としても活動しています。趣味は沖縄芸能で、三線を抱えて被災地の仮設 住宅やデイサービスなどを仲間たちと旅一座でまわっています。
<農業書センター公式サイト>http://www.ruralnet.or.jp/avcenter/