『美しく不思議なウミウシ』今本淳

●今回の書評担当者●三省堂書店営業本部 内田剛

 全国津々浦々のウミウシファンの皆さま、大変お待たせいたしました。2007年、日本初のウミウシ写真集として世を驚かせた『不思議ないきものウミウシ』、そしその衝撃も冷めやらぬ3年後に刊行された『かわいいウミウシ』に続く、大好評のウミウシ写真集第3弾がついに発売。もう驚かないぞ(と敢えて平静を装ってみる)。

 アルパカやハシビロコウの写真集なら持っている自分にとってウミウシが"かわいい"かどうかは個人的趣向もあるので評価に迷う(名前がカワイイ点だけは認めよう)ところであるが、"不思議"であること間違いなし。ウミウシ以上にこの写真集の存在自体が不思議なようにも思えるのだが、シリーズ化されている以上はニーズも大いにあるはず。できれば迫ってみたいウミウシの魅力とそのいい意味でのツッコミどころ満載の一冊に迫ってみた。 

 まずは奥付をチェックすると「2014年3月25日」刊行。おや、素朴な疑問としてこういう水中生物のビジュアル本とあればもっと暑い季節の方がシーズンのはず。日本全国的にまだ水も温む前のこの季節になぜ、と思ったらこれには明解な理由が。一般的には秋から春にかけての冬場がウミウシ探しのシーズンとのこと。なるほど。この異様なカラフルさは真夏のイメージであったが実際は真逆。冷たい水を見たら、真っ先にウミウシを思い出そう。

 ウミウシ撮影歴13年半。日本に生息するウミウシの半数の約550種類を撮影し、今回3冊目のウミウシ写真集を世に送り出した著者の今本淳氏、ご本人にも触れないわけにはいけないであろう。著者紹介によると1967生まれ(僕とほぼ同世代)の小田原市出身(たぶん海側と予測)で約10年前から奄美大島在住(期待通り納得)。「日本で見られる全てのウミウシを撮影する」を目標に鋭意活動中、とあるからほんの数行からも人並みはずれたウミウシ愛が伝わってくる。その他、「うみうしくらぶ」(!)会員であったり、DVD「海の宝石 ウミウシ」(探さなきゃ)撮影担当だったり、HPも「私が出会ったウミウシたち」(調べなきゃ)などなど活躍の舞台は多岐に渡る。そんな氏の愛情あふれた写真が満載のこの一冊。ウミウシの感情や言葉までもとらえているようで面白くないわけがない。

 表紙と裏表紙はもちろん主人公であるウミウシがドーンと。確かに一見キレイではあるがどこが頭か胴体か。奇妙な物体に見えなくはない。帯によれば「撮り下ろし満載!」(そうでしょう)。「初単行本化!!全76点」(そりゃ!!!)。「新しい仲間も収録!!」(うーん...)。その凄さが次第にわからなくなるから逆に興味をひかれる。

 しかしページをめくれば加速度的にそのウミウシ愛が随所に感じられる。ただの写真集でないことは一目瞭然だ。ページ毎のウミウシには解説コメントだけでなく体長、撮影場所及び水深、カメラ機材、学名と和名など、きっちりと基本データが添えられている。さらに特筆すべきは実際の大きさを表示したシルエット(イラスト)である。大きさを具体的に知ることによって、一気にウミウシとの距離感が縮まったような気が。これは非常に重要なポイント。

 まさか海の牛だから巨大な姿を想像していたわけではないが、10mm、15mm、50mm......といった表記が続き、意外と小さな姿が目に浮かんでカワイイの意味もぼんやりわかってきた。「原寸大で大集合!」の特集もあって楽しめる。ゾウアメフラシなんて60cmから70cmと大きなサイズもあるそうで。人間同様に多種多様だ。

 ウミウシに対する素朴な疑問もばっちりで、勉強になるなぁ。「何の仲間?」「名前の由来は?」「寿命は?」「名を食べるの?」「どうしてこんな色なの?」「食べられるの?」など誰もが感じる謎の答えがこの中に。教えてしまいたい気持ちがウズウズしながら、あえて回答は伏せておきましょう。ぜひ本書をお楽しみに。

「艶やか」という表現がぴったりのアデヤカウミウシ、「ピカチュウ」の愛称で知られるウデフリツノザヤウミウシ、表紙に採用されたゾウゲイロウミウシ、日本で最も一般的なアオウミウシ、仮面ライダーのようなホシゾラウミウシ、ガンダムカラーのリュウモンウミウシ、まさに名前そのままイチゴジャムウミウシ・・・などなど解説と写真と名前を交互に見ているうちに次第にウミウシの表情が活き活きと。なんだかこっちに向かって動き出してくるかのような錯覚をおぼえました。これも偏に著者のウミウシ愛のなせるわざなのでしょう。だんだんと魅せられてきました。

 写真そのものも前作を超えるお気に入りショットの掲載や高性能カメラ(最高のウミウシ専用水中カメラ!)導入によるレベルアップ。さらにはコラムも充実で、これさえ読めばウミウシは眺めるだけでは飽き足らず、実際に探して撮影したくなること間違いなしです(たぶん)。まだまだ続編はありそうだが取り急ぎシリーズ3冊揃え、さあ、夏が来る前にウミウシに会いに海へ急ごう!

(急告)次回のこの書評コラムにて重大発表が予定されています。
    そのヒントはこれまでの書評に隠されているとの噂も。
    しかし期待は無用です。平常心でお待ちください。

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三省堂書店営業本部 内田剛
三省堂書店営業本部 内田剛
うお座のA型で酉年。書店員歴うっかり23年。 沈黙と平和をこよなく愛する自称〝アルパカ書店員〟 不本意ながらここ最近、腰痛のリハビリにはまっています。 優柔不断のくせに城や野球など白黒つくものが好き。 けっこう面倒な性格かもしれませんが何卒よろしく。