『カワイイ地獄』ヒキタクニオ

●今回の書評担当者●サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸

「カワイイ」を求めて夜の世界に身を投じる女の子達を描いた連作短編集。

 カワイイを求める女の子達を醒めた目で、時に優しく見守るバー「寒猫」の女主人「小夜子」さんをキーとして少女たちの物語はリンクしてゆく。「寒猫」は赤坂見附の奥まった所で30数年前にオープンしたバー。寒そうに丸まっている野良猫の事を「寒猫」と言う事から名付けたが、そんな名前にした所為なのか店には野良猫のように街を逞しく生きる女の子たちが集まってくる。

 亡き父の代わりに道場再建を夢見る娘
 カワイイを求めて借金まみれになる娘
 田舎を嫌悪し東京に憧れる女の子
 全身整形でオンナの身体を手に入れたニューハーフ

 カワイイ以外の価値観は存在しないその世界は男には想像つかないほど歪だ。
 その世界をカワイく武装してしたたかに生きぬいてゆく女の子達は強い。

「カワイイカワイイって言ってるワタシ、カワイイでしょ?」

 自分だけは違う!そう思っていた娘も......。『カワイイ地獄』後味はビターです。

「本」を取り巻く環境はじわじわと悪化の一途を辿っている(当社比)。アベノミクスはまだここまで届かない。何とかしなきゃ! 何かをしなきゃ!

 そんな思いに駆られこの春、フリーペーパーを初めて作りました。

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 しかも他の書店と共同で!

 こんな事は入社当時繰り返し聴いていたGAUZEの
「♪敵を作れ! 敵を作れ! 作って負けない自分を作れ!」って歌詞を真に受けて視野を狭くして生きづらくなってたアホな自分に教えてやりたい。「今も悪くないよ」って。

 記念すべき創刊準備号に選んだのが、この『カワイイ地獄』ヒキタクニオ著でした。

 想いを込めてスタートした3書店合同フリーペーパーでしたが、他の2店舗の推薦本がサクサク売れるのに対し開始3日間の売上冊数が0冊。マズい......これはシャレにならん。

 そこで投入したのはウチが誇るPOP職人による「イラストPOP」。

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 イメージは読んだ時から頭に流れていた曲「YBO²/ドグラマグラ」FoolsMate初代編集長の北村昌士さん率いるバンドの1stEP。夢野久作の小説から引用したおどろおどろしい歌詞に変拍子を多用したリズムが「カワイイ地獄の世界観にバッチリはまってルンだよ!」と興奮気味に音源を聞かせた所「......ヤ、ヨクワカンナイッス。でもやってみます」で、出来たのがコレ......なんだよ~、俺の想い伝わってるじゃん!「!?......ソ、ソッスネ」

 視覚効果抜群のこのPOPを是非店頭で御覧下さい。

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サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
1967年秋田生まれ。嫁と猫5匹を背負い日々闘い続けるローン・レンジャー。文具から雑貨、CDにレンタルと異業態を歴任し、現在に至る。好きなジャンルは時代物(佐幕派)だが、CD屋時代に学んだ 「売れてるモノはイイもの」の感覚は忘れないようにノンジャンルで読んでいます。コロンビアサッカーとオルタナティブロック愛好家。特技・紐斬り。