第二十回 府中(静岡)-豊橋-伊良湖 その1

  • 真夜中の弥次さん喜多さん (1) (Mag comics)
  • 『真夜中の弥次さん喜多さん (1) (Mag comics)』
    しりあがり 寿
    マガジンハウス
    2,400円(税込)
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  • 東海道中膝栗毛 上 (岩波文庫 黄 227-1)
  • 『東海道中膝栗毛 上 (岩波文庫 黄 227-1)』
    十返舎 一九
    岩波書店
    1,067円(税込)
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 江戸時代に疫病が流行したとき、関所によって、その蔓延を防いでいたという史実がある(日本でコレラが全国に広まったのは明治期以降)。人々の移動を制限する関所なんてないほうがいいに決まっている。しかし防疫の面でいえば、関所(の機能)は有効だった。
 移動手段の発達は暮らしを豊かにする。同時に、感染拡大を引き起こす一因にもなる。
 現在、新型コロナウイルスのオーバーシュートによるロックダウンを懸念し、ステイアットホームしているため、街道歩きは中断している。
 まさかこの数ヶ月のあいだに、旅行どころか、東京から郷里に帰省することさえ憚られる世の中になるとは......。何度となく書いているが、四年前に父が亡くなり、三年前に母が倒れ、ひと月以上入院した。街道歩きをはじめたのも母の遠距離介護の予行演習をかねている。
 新型コロナウイルスの場合、人の行き来そのものが感染リスクを高めてしまう。万が一のことを考えると、しばらく旅行をする気になれない。そしてこの連載自体、今の時期にはどうなのか......。そう考え、更新を止めていた。
 時は昨年の秋に戻る。
 二〇一九年九月のはじめ、長野を歩いたあと、わたしは帯状疱疹になり、しばらく家で静養していた。
 十月になって回復し、街道歩きを再開しようとしたところ、台風十九号の影響でそれどころではなくなった。歩こうとおもっていた地域がことごとく被害を受けたのだ。これまで歩いてきた川沿いの町も台風の被害に遭っている。
 街道歩きを中断しているあいだ、街道本の収集に励んでいたのだが、「街道」という言葉に引きずられると、どうしても江戸の五街道中心の本ばかり目についてしまう。しかし「路」というキーワードで探すとまた別の世界が見えてくる。
 信濃路、木曽路、近江路、大和路......。
 こんなにあったのかというくらい「路」の本がある。「路」の写真集もある。とくに大和路に関する本は想像以上に多い。
 十月下旬、地図を見ながら、奈良行きの計画を立てていたところ、その前に静岡に行く用事が出来た。妻の親戚一同が集まる安倍川の近くの家が引っ越しの手伝いである。
 静岡駅までは妻といっしょに電車で向かった。妻はスマホを持っているので、電車やバスの時間をすぐに調べる。便利だ。しかしわたしはその便利さを必要としない人間である。スマホも携帯も持っていない。だから旅先で困る。でもそれが当たり前だとおもっている。
 静岡といえば、府中宿。『東海道中膝栗毛』の十返舎一九の出身地(現・静岡市葵区)だ。
 弥次さんこと弥次郎兵衛は江戸を出るとき、数え歳で五十歳(満四十九歳)だった。
『真夜中の弥次さん喜多さん』のしりあがり寿も十返舎一九と同じ静岡市葵区の出身だ。
 しりあがり寿が『COMICアレ!』で『真夜中の弥次さん喜多さん』の連載をはじめたのは一九九四年――三十六歳のときなのだが、十返舎一九が『東海道中膝栗毛』を書いたのは何歳のときか?
 十返舎一九は明和二(一七六五)年生まれで『東海道中膝栗毛』は享和二(一八〇二)年の正月に出版。そうなのだ、十返舎一九も三十六歳のときに書きはじめているのだ。

≫≫≫ その2へ続きます。