第19回 青茶いろいろ

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 さぁ、奥深くも険しく楽しく恐ろしい、青茶の世界にぐぐいっと踏み込みますよ(と言いつつ、この後の黒茶編は、さらに奥深くも険しく楽しく恐ろしい世界なんですが)。


 *鉄観音
 烏龍茶の中で一番知名度がある、といえば鉄観音でしょうか。名前がいいですよね、なんか強そう。
 鉄観音の由来は「安溪のある農夫が観音岩に茶樹が生えている夢を見て、行ってみたら本当に生えてた」というものや、「鉄観石の間に生えてた木を移植して育てたから」など。いずれにしても、元は野生茶樹だったのを、長い時間をかけて、性質と品質を高めてきたからこそ、今の鉄観音の美味しさにつながるわけですね。
 鉄観音は、一枚の茶葉が「トンボの頭」と形容される、ぐるぐるっと緊密に丸まった形をしています。茶器の中に落とすと、コンコンとかカンカンという硬質な良い音が。この固くしまった茶葉は、お湯の中で大きくほぐれて、ほぼ一枚の葉っぱに戻ります。厚みのあるどっしりとした茶葉で、良いものは何煎でも重ねることができます。
 豊かで広がりのある芳醇な味わい、観音韻という特徴的な香り、喉の奥から戻ってくる蜜のような甘さ。
 やはり、青茶界の頼れるボスです。

 *黄金桂
 名は体を表す、解りやすい中国茶。茶樹の名前は黄旦、水色も黄金色で、梨や金木犀に例えられる香り、黄色づくしですが青茶です。
 香りの高さは「透天香」、天にも届く香り、と言われるほど。着香された金木犀とは違う、もっとほのかで控えめで、でも圧倒的に奥深い香り。
 春茶の品質が高いのですが、でもやっぱり、なんとなく秋に飲みたいお茶です。

 *鳳凰單欉
 これもとてもわかり易い名前です。
 鳳凰水仙という茶樹一株(單欉)だけで作りました、それ以外の茶葉は一切混ぜていません、ということ。でもとてもバリエーションが多く、芝蘭香、蜜蘭香、桂花香、杏仁香、黄枝香、八仙など、80を超える種があります。むしろ混ぜないことで、それぞれの茶樹の個性がはっきりと出てくるのかもしれませんね。
 飲めば飲むほど面白い、自分好みの鳳凰單欉に出会うまで、あれもこれも、と試してみたくなるお茶です。

 *凍頂烏龍
 花粉症に効く、なんて触れ込みで有名になりましたね。
 この凍頂烏龍茶、そもそもは台湾東部、鹿谷郷凍頂山で生産される青心烏龍種のこと。が、今はいわゆる高山茶だったら凍頂烏龍茶と名づけてしまうことも。中には、品質の悪いもの、混ぜものをしたもの、烏龍茶ではないものまで。ブームの功罪ですね。
 ではなぜ、花粉症に効くと言われているのか。メチル化カテキンという成分が、多く含まれているから、なんです。カテキンはお茶に含まれるポリフェノールの一種、その中でも一番多いエピガレートカテキンがメチル化したもの。メチル化とは、様々な基質にメチル基が置換または結合すること......なるほど、わからん。
 でも、どうもこのメチル化カテキン、凍頂烏龍茶だけではなく、青心烏龍種そのものに見られる特徴らしいんです。そして大変優れた品種である青心烏龍種は、凍頂烏龍茶を始め、多くの優れた高山茶として台湾全土で育てられています。なので、ことメチル化カテキンの効果を求めるのなら、凍頂烏龍茶に限らず、台湾産の良い烏龍茶をたくさん飲めばいいんじゃないかしら。
 個人的には、お茶には薬のようなすごい即効性はないけれど、その分毎日じっくり飲んでいることで、10年後20年後、心と体に違いが出てくるんじゃないかな、と思っています。◯◯に効くから飲む、ではなく、美味しいから飲んでいたら何となく調子がいいような気がする、でも十分じゃないかな、と思うのです。
 さておき、長い時間をかけて守られ育てられ磨き上げられた凍頂烏龍茶。一過性のブームに左右されず、落ち着いてゆっくり、その味わいと向き合ってみてくださいな。

 *文山包種
 今は台湾の台北市文山区で作られる包種茶は、とても古い歴史を持ち、かつては福建省安渓が原産地でした。大陸では一度すたれた製法が、台湾で再び注目され復活したのです。
 包種茶とは、その昔、お茶屋さんが一両(150g)ずつお茶を包んで、各お店の朱印を押していたことから。中に包まれるのは、種仔と呼ばれる茶樹の葉。種仔を包むから、包種茶なのです。
 緑茶に近いごく軽めの発酵、明るい黄緑色の水色、喉越しはあくまで透明で、清香と呼ばれる高く長く香る余韻があります。

 *東方美人
 文山包種が緑茶に近い青茶ならば、東方美人は紅茶に近い青茶です。発酵度が比較的高く、水色も琥珀色から紅色。なんとも言えない果物や蜜のような芳醇な香り、飲む人を虜にする甘く深い味わい。
 この唯一無二の味わいを生み出すパートナーは、ウンカと呼ばれるごくごく小さな羽虫です。ウンカがごく若い茶葉を噛むことによって、お茶の葉の香気成分が変化するんです。もともとは害虫として嫌われていたウンカですが、ある時商品としては売りものにならない茶葉を製茶してみたところ、今までにない素晴らしい味と香りのお茶が生まれました。まさかそんな作り方、と最初は疑われ、膨風茶(ホラ吹き茶)と呼ばれていたことも。
 19世紀末~20世紀ごろに英国に輸出された際に「オリエンタルビューティ」と名付けられ、人気が出ます。この訳語が、東方美人。ホラ吹きから一気に出世した、お茶界のシンデレラなのです。
 ウンカの吸汁を利用した茶葉には、他にあのダージリンティなどもあります。
 茶樹にとっては害虫であるウンカ、その被害から身を守るために茶葉の中で起こる変化。偶然の産物から生まれた、自然と人の手が作り上げた奇跡のようなお茶です。