7月10日(火)


 朝食を食べていたら、突然床屋に行きたくなった。そうか、新宿に行くのなら本の雑誌に顔を出すか。ちょうど本の雑誌の8月号が出来上がってくるころだから,それを貰いに行くのもいい。でも8月号が搬入されていたら編集部はどたばたしているから、そんなときに顔を出すのはまずいような気がしないでもない。で、浜田に電話。「今日はどたばたしているよね」「いいですから来てください。もう机の上が大変なことになっているんですから」。郵便物がたまっていると杉江や浜田から連絡を貰ったまま、このところまったく顔を出していなかったのだ。


 町田に引っ込んだ最初のころは週に一度は本の雑誌社まで行っていたが、だんだんその時間が取れなくなり、2週に一度が3週に一度になり、最近は月に一度。町田に引っ込むと都心に出かけていくのが億劫になるというのもあるが、仕事に追われているとその時間がなかなか取れないというのが本音。


 で、久々に顔を出すと、ホントに机の上は郵便物が山のようになっていて、もうあふれんばかり。編集部宛に送られてくる週刊朝日を数えてみると5冊あったので、5週間来ていなかったことが一目瞭然。ようするに1カ月半ぶりということになる。それにしても、私が町田に引っ込んだのは2月なのである。それからもう5ヵ月たっているのである。それなのに私宛の郵便やら献本やらがいまだに本の雑誌社宛に送られてくるとは。まあすぐに取りにいかない私もいけないのだが、これではせっかく新刊を送っていただいても、もう遅すぎる。買っちゃった本が出てくるたびに、ふーっとため息をつくのである。

 松村の机の後ろにある大きな白板を見ると、7月30日のところに「誕生日、杉江36歳、松村33歳」とあったので、「へーっ、君たち、同じ誕生日なの?」と言うと、「それ、もう10回目です」と杉江。浜本の長男の誕生日も記載してあり(何日だったか忘れたけど)、そこに7歳と書いてあったので感慨にふける。編集部に遊びにきた長男に、「君は幼稚園で友達いるのか」と尋ねると、下を向いたまま首を横に振ったのがついこの間のことに思えるが、人んちの子は早く育つ、というのは本当だ。その話をすると、「そういえば、目黒さん、なんでも欲しいもの買ってやるとそのとき言ってましたよ」と杉江。「じゃあ天体望遠鏡がいいなあ」と浜本。まずい状況になったので、「じゃあね」と編集部を出て、新宿へ。

 いつもの床屋で散髪を済ませたあと、新宿紀伊國屋書店本店へ。新刊をチェックしてから2階の文庫売り場で、高橋克彦『風の陣 天命篇』(PHP文庫)を購入。これは「風の陣」の第三部で、第四部は九月刊とのこと。第五部は連載中だから、いったい全何巻になるのやら。おお、そうかと思い出して、時代小説の既刊本を二冊購入。先日、知人の日記を読んでいたら、この二冊が面白いと書いてあったのである。自分の書棚のどこかにあるはずだが、探すより買ったほうが早い。未読のような気がするから、折りを見て読みたい。

 しかし高橋義夫『狼奉行』(文春文庫)は、本店の棚になく、仕方なくジュンク堂にまわるがここにもなし。ただいまこの文庫本を探しているのだが、どこにもないのだ。高橋義夫『狼奉行』は第106回(1991年下半期)の直木賞を受賞した作品で、1995年に文庫化されている。今年の5月に出た高橋義夫『猿屋形』(文春文庫)の見返しにもいちばん上にその『狼奉行』は記載されているので、絶版ではないはずだが、不思議に見つからない。先日は町田の書店と古本屋を回ったものの、そこにもなく、都心の大書店ならあるだろうと思っていたのだが、オレを避けているとしか思えない。高橋義夫の本はあっても、この『狼奉行』だけがないのだ。もっとも町田と新宿の書店をまわっただけなので、違う街の書店に行けばあるのかもしれないが。ついこの間まで見かけていた本で、たまたまいま切れているだけと思われるが、なんだか悔しい。