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12月18日(金)

お登勢 (角川文庫)
『お登勢 (角川文庫)』
船山 馨
角川書店
980円(税込)
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リヴァトン館
『リヴァトン館』
ケイト モートン
武田ランダムハウスジャパン
3,150円(税込)
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 阿佐田哲也の小説を再読する必要が生じたので書棚から取り出そうとしたら、あれれれ、どこにもない。なんと一冊もないのだ。ということは、まとめてどこかにしまってあるということだろうが、それがどこなのか皆目わからないのだ。

 そうやって書棚を探索していたら出てきたのが、船山馨『お登勢』。しかもそれが次々に出てくる。まず出てきたのが、角川文庫版。奥付記載は平成十三年五月で「改定初版」とある。「本書は昭和四十五年五月に小社より刊行された文庫本を復刊したものです」と書いてある。次に出てきたのが、講談社文庫版。こちらの奥付記載は、2001年4月だ。「NHK金曜時代劇 お登勢原作」という帯がついていて、お登勢を演じる女優の顔写真付き。

 これだけではない。最後に出てきたのが、またまた講談社文庫版。といっても女優の顔写真がついたものとは違って、こちらは「大衆文学館」の一冊(といっても上下巻だが)として刊行されたもの。奥付記載は1997年6月だ。

 まったくなあと思ったのは、実はこの『お登勢』、2年前にある原稿を書くときに探しても見つからず、そのときに『船山馨小説全集第8巻』(河出書房新社/昭和50年)を古本屋で買ってしまったのである。この巻に「お登勢」が入っているのだ。

 そういえば、この『お登勢』以外にも同じ本がたくさん出てきた。荻原浩『母恋旅烏』の小学館文庫、藤原伊織『てのひらの闇』の文春文庫、井上靖『夏草冬濤』の新潮文庫上下なども3冊ずつ出てきた。必要が生じたときに探しても見つからず、その度に買いに走ったのだろう。

 最近いちばんショックだったのは、ケイト・モートン『リヴァトン館』(栗原百代訳/ランダムハウス講談社)。2009年の10月に出た本だが、本体3000円もするのだ。それなのに、えいっと勇気を出して買ってきたのに、帰宅してから本棚を見ると、とても見えやすい位置に(つまり後ろのほうで見えにくい位置ではないということだ)、その本体3000円の本があるではないか。すでに買ったことを忘れるわけがないから、おそらく版元から送られてきたのだろう。それをすっかり忘れて、買ってきてしまったというわけだ。

『お登勢』や『母恋旅烏』や『てのひらの闇』や『夏草冬濤』などが3冊ずつあるのはいい。探しても見つからなかったので買いに行ったのだ。どこかにはあると分かっていたけど、探している時間がないので仕方がなかった。つまり確信犯である。でも、『リヴァトン館』はそうではない。3000円など、特券3枚買えばすぐになくなってしまう額ではあるけれど、なんだか悔しいのである。

12月9日(水)

 よしだまさしさんから「途中下車の古本屋」という冊子が送られてきた。冊子といっても100ページもある立派なものである。よしだまさしさんがこれまでに書いた古本エッセイをまとめたもので、14本中7本が本の雑誌や「おすすめ文庫王国」(本の雑誌社から年1回出ている増刊)に書いたものなので、既読のものが少なくないのだが、こうしてまとめて読むととても面白い。

 表題となっているのは書き下ろしの部分で、南浦和から新宿御苑まで、よしだまさしさんの通勤途中にある古本屋さんを紹介するガイド&エッセイ。巻末に収録の「おくぎ旅館襲撃レポート」は、古本仲間と旅に出かけた報告で、どちらもいやはや面白い。「山形古本奇譚」という信じられない話も載っているが、いちばん笑ったのは「古本極道大西範彦氏の書棚拝見」。その古本極道の大西さんという方は、マニアの方だと思うのだが、その人の家によしだまさしさんが尋ねて行くレポートだ。

 私が思わず吹き出してしまったくだりを引く。

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 入ってすぐ左の棚には文庫がズラリと並んでいる。国枝史郎伝奇文庫が並び、少年倶楽部文庫が並び、講談名作文庫が並び、山田風太郎が並び、鮎川哲也が並び、鮎川哲也が並び、鮎川哲也が並び、鮎川哲也が──あれ? 鮎川哲也の同じ本が4冊ずつある!
「ブックオフで何も買う物がないのもシャクなんで、ダブリ承知で買ってしまうんですよ」
「帯欲しさに買ってしまうこともありますし」
「あと1冊で2セット目が揃うとなると、我慢できないじゃないか」
 そ、そうですね。
「でも、鮎川哲也はこの奥のほうにワンセット揃ってるんです。そっちがベストメンバ ーですね」
 なんと、これ全部がダブリですかあ!
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 私に言わせれば、よしだまさしさんも古本極道といっていい超マニアなのだが、そのよしだまさしさんが驚いている姿がいい。世の中にはまったく信じられない人がいるものである。この冊子、小部数の冊子にとどめておくのはもったいない。もっと多くの人に読んでもらいたいと思う。分量的にも新書1冊分は優にあるので、新書版元の関係者はぜひ検討されたい。

12月2日(水)

 日曜日の夜、読書に疲れたのでお茶でも飲もうと居間にいくと、テレビがついていて、それをぼんやりと見ていたら、あれれれ、画面の中にゼンジがいる!
 上原ゼンジは学生時代から本の雑誌社のアルバイトをしていて、卒業後、社員になった。単行本の編集をしていたが、数年勤めたあとに退社してフリーになった。その後は新宿の酒場などで時折遭遇したものの、具体的に何をしているのか詳しく聞いたことがない。テレビではカメラマンのマエストロとして登場し、いろんな技術的なことを指導していたが、知人をテレビの中に見ると不思議な感じがする。本の雑誌社に在籍していた当時よりずいぶんと太っていたが、元気そうだ。いや、それだけの話なんだけど。

 無駄話ついでにもう一つ。最近いちばんびっくりしたのは、浜本宛の郵便物が私の自宅に届いたことだ。郵便物は普通、「郵便番号」「住所」「宛て名」の3つがついているが、その「宛て名」が「本の雑誌社 浜本茂様」なのである。「郵便番号」は笹塚の本の雑誌社の住所のものなのである。これで「住所」が「中野区南台4−52−14」なら、その郵便物は本の雑誌社のほうに届いたはずだが、それが私の自宅の住所になっていたので、届いたというわけ。

 しかし、合っているのは住所だけなのだ。郵便番号も違っていて、浜本もここにはいないのに、どうしてその郵便物が私のもとに届くんでしょうか。まったく不思議である。差し出し人は、私も浜本もよく知っている知人の会社で、続けてその会社から同じ色の封筒に入った郵便物が私のところにも届いたので開けてみると、その会社の忘年会のお知らせだった。だからたぶん浜本宛の封筒もそのお知らせだろうと判断し、彼に直接電話してそのお知らせを伝えたが、パズル雑誌ニコリ様、浜本宛の郵便物を送るときは再度ご確認ください。今度からは住所を訂正していただけると幸いです。

 無駄話をもう一つ。今週の月曜は早川書房に出かけて、翻訳ミステリ応援団という座談会に出席したが、その前に神保町の新刊書店に寄っていくと、SFマガジンの特大号が平積みされていて、その定価が2500円。一瞬買おうと思ったものの、その定価にびびって平台に戻してしまった自分が情けない。こないだの土日に競馬で幾ら負けたと思っているんだ、このくらい平気だろ、という声はするのだが、馬券以外の出費は極端に慎重になる性格なのである。トマス・M・ディッシュの「リスの檻」が載った号を最後にSFマガジンは買ったことがないのだが、平台の前で迷ってしまうのは、小川一水『天命の標』とか、山本弘『地球移動作戦』とか、杉山俊彦『競馬の終わり』とか、最近SFがまた面白くなっているからだ。
 SFマガジンのバックナンバーをこつこつと一冊ずつ歩いて集めた日々が懐かしい。ようやく揃ったバックナンバーはもうずいぶん前に処分してしまったので手元にはないけれど、創刊号から週刊誌綴じの10数冊分を、早稲田の古本屋で購入した日の記憶はいまでも鮮やかだ。

 その週刊誌綴じの10数冊分を最後に残しておいたのは、創刊号は絶対にバラで入手できないと言われていたからだ。創刊号さえ手に入れられれば、あとはバラで揃えることも可能なのだが、問題はその創刊号なのである。SFマガジンの読者欄に「創刊号求む」と投稿したら(いまから35年ほど前の投稿欄には私の本名が載っているはずだ。正確な月号は忘れてしまったが)、京都の人からすぐに手紙がきたものの、値段がおりあわず、そのときも未入手。で、週刊誌綴じの10数冊分以外は全部揃えたものの、そこでバックナンバー集めはぴたっと止まってしまった。

 そのころは毎年暮れに全集を一つずつ買うのが習慣になっていて、その年は森鴎外全集を買うつもりで2万7000円をもって早稲田の古書店に出かけたら、その目当ての書店の数軒前の店で、SFマガジンの創刊号から10数冊分が出ていてびっくり。私の持ってない10数冊分が、私の持っていた2万7000円で出ていたのだ! あのときと興奮と嬉しさはいまも覚えている。

 という話は以前書いた記憶があるな。それをたったいま、思い出した。月曜の座談会のあと、神田の居酒屋で飲んだとき、私の話を全部聞いたあとで、「それ、前に聞いた」と田口俊樹に言われたが、今度からは途中で止めてね。

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