1月28日(月) 大森望の2012年解説文庫リスト

締め切りを大幅に遅れて大森望からリストが届いたので、ここにあげておきます。来年は締め切りを忘れないように。

「大森望」
1月『完全な首長竜の日』乾緑郎/宝島社文庫
1月『バルバラ異界3』萩尾望都/小学館文庫
1月『吸血鬼が祈った日』赤川次郎/集英社文庫
3月『NOVA7 書き下ろし日本SFコレクション 大森望責任編集/』河出文庫
3月『ラブ・ケミストリー』喜多喜久/宝島社文庫
3月『家電探偵は静かに嗤う。』原作:藤見泰高、漫画:岩澤紫麗/チャンピオンREDコミックス
3月『前田建設ファンタジー営業部』前田建設工業/幻冬舎文庫
3月『よろず一夜のミステリー ─水の記憶─』篠原美季/新潮文庫
4月『さよならが君を二度殺す』黒井卓司/角川ホラー文庫
6月『拡張幻想 年刊日本SF傑作選』大森望・日下三蔵編/創元SF文庫
7月大森望責任編集『NOVA8 書き下ろし日本SFコレクション 』河出文庫
7月『沈黙のエクリプス』下 ギレルモ・デル・トロ、チャック・ホーガン/ハヤカワ文庫NV
7月『トータル・リコール ディック短篇傑作選』フィリップ・K・ディック/ハヤカワ文庫SF
7月『ユアボイス』新津きよみ/PHP文芸文庫
8月『ブラックアウト』コニー・ウィリス/早川書房
8月『生きてゆく力』宮尾登美子/新潮文庫
11月『きまぐれ星のメモ』星新一/角川文庫
11月『ゆんでめて』畠中恵/新潮文庫
11月『製鉄天使』桜庭一樹/創元推理文庫


「ひとこと」
 全部ひっくるめると19本。編者あとがき、訳者あとがき等をはずすと、純粋な解説は13本で、昨年より微減。そのうち漫画の解説が2冊。いちばん意外な仕事は、宮尾登美子のエッセイ集『生きてゆく力』の解説。じつは宮尾さんとは半世紀以上前からのつきあいというか、私が生まれて初めて会った作家なんですが、くわしい事情は現物でたしかめてください。
 ところで各社文庫の電子書籍版では、解説をカットするのがあたりまえになってますが(しかも、ほとんどの場合、買う前にはそのことがわからない)、解説者としてはたいへん不本意です。なんとかならないんでしょうかね、あれ。訊いてくれたら(たいていの場合は)無料使用を認めるのに。

1月23日(水) 300本への道

 ちょうど1年前の当欄で、私が解説を書いた文庫の総数は、2011年の年末で290点であると書いた。先週の当欄に、2012年の解説文庫リストを載せたが、その数が11本。それでは300本を超えたのかと思うところだが、そうではない。

 私が勘違いしていた。もともとは北海道の山下さんが「北上次郎解説文庫リスト」を送ってくれたのがきっかけである。それが2007年暮れのことだ。それまで私、自分が何本の解説を書いたのか、まったく知らなかった。山下さんがつくってくれたリストを見ながら、そうか、それではこれをもとに完全リストをつくっていこうと思った。一から調べるのは大変だが、山下さんがここまでつくってくれたのなら、あとはこぼれたものを埋めていけばいい。

 というわけで、それから折りに触れ、おお、これも私も書いていたという文庫を古本屋の棚に見るたびに足していき、2008年からは当欄にも「解説文庫リスト」を載せ、そうしてリストを充実していったのだが、1978年7月刊の集英社文庫、生島治郎『殺しの前に口笛を』(これが私が書いた解説文庫の1冊目だ)から2011年末までの290本のなかに、純粋には「解説」と言えない文庫が含まれていることになかなか気がつかなかった。

 著者インタビュー(大藪春彦『凶銃ワルサーP38』徳間文庫)、鼎談(これは『素敵な活字中毒者』集英社文庫と、『幻!』徳間文庫で、お相手は椎名誠と鏡明、志水辰夫と森詠)、著者との対談(清水義範『普及版世界文学全集第1期』集英社文庫)、序文(アンソロジー『海を渡った日本人』福武文庫)、扉文(北村薫『六の宮の姫君』創元推理文庫)、再録(山田風太郎『甲賀忍法帳』角川文庫と、中山可穂『ザグラダ・ファミリア』集英社文庫。それぞれ富士見版と新潮版からの再録だ)と、解説とは言いにくいものが8本含まれていたのだ。そういうものまで山下さんは丁寧に拾ってくれていたのである。本当にありがたい。勘違いして単純にカウントするほうがおかしい。

 さらに、単行本や新書などに書いた解説を除くと、解説を寄せた文庫は、結論を書いてしまえば、2012年の年末で288本である。300にはまだまだ届かない。1978年から35年間で288本なら、年平均8本。たいしたことはない。私よりも多い人はいくらでもいるだろう。

 本年からしばらく一年の前半が他の仕事のために身動きが取れなくなりそうなので、今年からの文庫解説はおそらくここ数年の実績(だいたい年に10本)の半分くらいになりそうなので、あと12本書くには2年、場合によっては3年かかりそうだ。それまで元気でいたい。いや別に、解説を書くために生きているわけではないのだが。

1月16日(水)書評家3人の2012年解説文庫リスト

「杉江松恋」
1月 『花淫れ』池永陽(角川文庫)
3月 『三毛猫ホームズの恋占い』赤川次郎(角川文庫)
   『風のダンデライオン 銀河のワールドカップガールズ』川端裕人(集英社文庫)
4月 『鍵のかかった部屋』貴志祐介(角川文庫)
6月 『奪取』真保裕一(双葉文庫)
7月 『空想オルガン』初野晴(角川文庫)
   『密室殺人ゲーム2.0』歌野晶午(講談社文庫)
8月 『焦茶色のパステル』岡嶋二人(講談社文庫)
9月 『PRIDE 池袋ウェストゲートパーク10』石田衣良(文春文庫)
   『靄の旋律 国家刑事警察特別捜査班』アルネ・ダール(集英社文庫)
10月『ダブル』深町秋生(幻冬舎文庫)『無貌伝 双児の子ら』望月守宮(講談社文庫)
   『夢は荒れ地を』船戸与一(集英社文庫)
   『自白』ジョン・グリシャム(新潮文庫)
11月『毒草師 白蛇の洗礼』高田崇史(朝日文庫)
12月『ゴンベン』小川勝己(実業之日本社文庫)
   『見当たり捜査25時 大阪府警通天閣署分室』姉小路祐(徳間文庫)

2012年は前年と同じ17本を書きました。中でも印象深いのはダール『靄の旋律』です。この文庫解説を書いたことがきっかけとなり、作者がスウェーデンから来日した際には大使館でのレセプションで司会を務めることになりました。また〈IWGP〉シリーズの十作目にあたる『PRIDE』では、作者の希望があり、ハードボイルド史を概観したときにシリーズはどのように位置づけられるか、ということを盛り込んだ内容の解説を書きました。非英米圏のミステリーをなじみのない日本の読者に紹介すること、ミステリーの文学史を遡ってわかりやすい概説を書くこと、二つは正反対
の方向を持つ仕事ですが、それを解説という形でともに手がけられたのは書き手の冥利に尽きました。私の解説って、時間軸の上に居座って遠眼鏡を読者に差し出すような仕事なんだと思っています。


「池上冬樹」
1月 『かれん』安達千夏(角川文庫)
    『魔物 御隠居忍法』高橋義夫(中公文庫)
2月 『GEQ 大地震』柴田哲孝(角川文庫)
3月 『お父やんとオジさん』伊集院静(講談社文庫)
    『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ(ハヤカワ・ミステリ文庫)※2006年刊行の新装版
4月 『アンダードッグ』海野碧(実業之日本社文庫)
5月 『戦争の足音 小説フランス革命9』佐藤賢一(集英社文庫)
   『夜明けの橋』北重人(新潮文庫) ※単行本の解説に加筆
7月 『兇弾 禿鷹5』逢坂剛(文春文庫)
8月 『痺れる』沼田まほかる(光文社文庫)
9月 『夜明けのコーヒーを君と一緒に』森村誠一(中公文庫)
   『新・野性の証明』森村誠一(角川文庫)
   『逸脱 捜査一課・澤村慶司』堂場瞬一(角川文庫)
10月 『特捜部Q 檻の中の女』ユッシ・エーズラ・オールスン(ハヤカワ文庫)
11月 『検事の本懐』柚月裕子(宝島社文庫)
    『ベスト・アメリカン短篇ミステリ2012』ハーラン・コーベン&オットー・ペンズラー編(DHC)

国産小説の解説が目立つが、海外ミステリとの関係で論じていることが多い。とくに『アンダードッグ』『兇弾』『逸脱』、それから意外に思われるかもしれないが、『新・野性の証明』も海外ミステリの文脈で論じてみた。いい作家といい作品しかとりあげない主義なので断った文庫解説もあります。

「北上次郎」
1月 『戦友の恋』大島真寿美(角川文庫)
2月 『つばくろ越え 蓬莱屋帳外控』志水辰夫(新潮文庫)
3月 『書店ガール』碧野圭(PHP文芸文庫)
5月 『武士猿』今野敏(集英社文庫)
6月 『英国太平記』小林正典(講談社文庫)
7月 『月の影 影の海』小野不由美(新潮文庫)
   『弩』下川博(講談社文庫)
9月 『教室に雨は降らない』伊岡瞬(角川文庫)
10月 『オープン・サセミ』久保寺健彦(文春文庫)
12月 『完黙』永瀬隼介(実業之日本社文庫)
   『サトリ』ドン・ウィンズロウ(黒原敏行訳/ハヤカワ文庫NV)

昨年の当欄で、私の文庫解説の総数は290本であると書いた。それで2012年に書いた文庫解説が11本なら、300本を超えたことになるが、実はまだ越えていない。この話を書き出すと長くなるので別稿をたてるが、ようするに計算違いをしていたのである。300本へはまだまだ遠い。