1月16日(水)書評家3人の2012年解説文庫リスト

「杉江松恋」
1月 『花淫れ』池永陽(角川文庫)
3月 『三毛猫ホームズの恋占い』赤川次郎(角川文庫)
   『風のダンデライオン 銀河のワールドカップガールズ』川端裕人(集英社文庫)
4月 『鍵のかかった部屋』貴志祐介(角川文庫)
6月 『奪取』真保裕一(双葉文庫)
7月 『空想オルガン』初野晴(角川文庫)
   『密室殺人ゲーム2.0』歌野晶午(講談社文庫)
8月 『焦茶色のパステル』岡嶋二人(講談社文庫)
9月 『PRIDE 池袋ウェストゲートパーク10』石田衣良(文春文庫)
   『靄の旋律 国家刑事警察特別捜査班』アルネ・ダール(集英社文庫)
10月『ダブル』深町秋生(幻冬舎文庫)『無貌伝 双児の子ら』望月守宮(講談社文庫)
   『夢は荒れ地を』船戸与一(集英社文庫)
   『自白』ジョン・グリシャム(新潮文庫)
11月『毒草師 白蛇の洗礼』高田崇史(朝日文庫)
12月『ゴンベン』小川勝己(実業之日本社文庫)
   『見当たり捜査25時 大阪府警通天閣署分室』姉小路祐(徳間文庫)

2012年は前年と同じ17本を書きました。中でも印象深いのはダール『靄の旋律』です。この文庫解説を書いたことがきっかけとなり、作者がスウェーデンから来日した際には大使館でのレセプションで司会を務めることになりました。また〈IWGP〉シリーズの十作目にあたる『PRIDE』では、作者の希望があり、ハードボイルド史を概観したときにシリーズはどのように位置づけられるか、ということを盛り込んだ内容の解説を書きました。非英米圏のミステリーをなじみのない日本の読者に紹介すること、ミステリーの文学史を遡ってわかりやすい概説を書くこと、二つは正反対
の方向を持つ仕事ですが、それを解説という形でともに手がけられたのは書き手の冥利に尽きました。私の解説って、時間軸の上に居座って遠眼鏡を読者に差し出すような仕事なんだと思っています。


「池上冬樹」
1月 『かれん』安達千夏(角川文庫)
    『魔物 御隠居忍法』高橋義夫(中公文庫)
2月 『GEQ 大地震』柴田哲孝(角川文庫)
3月 『お父やんとオジさん』伊集院静(講談社文庫)
    『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ(ハヤカワ・ミステリ文庫)※2006年刊行の新装版
4月 『アンダードッグ』海野碧(実業之日本社文庫)
5月 『戦争の足音 小説フランス革命9』佐藤賢一(集英社文庫)
   『夜明けの橋』北重人(新潮文庫) ※単行本の解説に加筆
7月 『兇弾 禿鷹5』逢坂剛(文春文庫)
8月 『痺れる』沼田まほかる(光文社文庫)
9月 『夜明けのコーヒーを君と一緒に』森村誠一(中公文庫)
   『新・野性の証明』森村誠一(角川文庫)
   『逸脱 捜査一課・澤村慶司』堂場瞬一(角川文庫)
10月 『特捜部Q 檻の中の女』ユッシ・エーズラ・オールスン(ハヤカワ文庫)
11月 『検事の本懐』柚月裕子(宝島社文庫)
    『ベスト・アメリカン短篇ミステリ2012』ハーラン・コーベン&オットー・ペンズラー編(DHC)

国産小説の解説が目立つが、海外ミステリとの関係で論じていることが多い。とくに『アンダードッグ』『兇弾』『逸脱』、それから意外に思われるかもしれないが、『新・野性の証明』も海外ミステリの文脈で論じてみた。いい作家といい作品しかとりあげない主義なので断った文庫解説もあります。

「北上次郎」
1月 『戦友の恋』大島真寿美(角川文庫)
2月 『つばくろ越え 蓬莱屋帳外控』志水辰夫(新潮文庫)
3月 『書店ガール』碧野圭(PHP文芸文庫)
5月 『武士猿』今野敏(集英社文庫)
6月 『英国太平記』小林正典(講談社文庫)
7月 『月の影 影の海』小野不由美(新潮文庫)
   『弩』下川博(講談社文庫)
9月 『教室に雨は降らない』伊岡瞬(角川文庫)
10月 『オープン・サセミ』久保寺健彦(文春文庫)
12月 『完黙』永瀬隼介(実業之日本社文庫)
   『サトリ』ドン・ウィンズロウ(黒原敏行訳/ハヤカワ文庫NV)

昨年の当欄で、私の文庫解説の総数は290本であると書いた。それで2012年に書いた文庫解説が11本なら、300本を超えたことになるが、実はまだ越えていない。この話を書き出すと長くなるので別稿をたてるが、ようするに計算違いをしていたのである。300本へはまだまだ遠い。