6月17日(月) ルイジアナ・ママ

夢でまた逢えたら
『夢でまた逢えたら』
亀和田 武
光文社
1,680円(税込)
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 亀和田武と坪内祐三が東京堂書店で公開対談をするというので覗くつもりで神保町まで出掛けたが、その前の所用がなかなか終わらず、ようやく駆けつけたときは終了10分前だった。この公開対談は、亀和田武の『夢でまた逢えたら』(光文社)の刊行を記念して行われたものだが、この本はホント、面白い。

 二人の掛け合いは絶妙で、もっと早く来ればよかったと後悔したが、神保町の「八羽」で行われた打ち上げではもっと後悔。亀和田武の顔を見ているうちに、突然そうだ、亀ちゃんがずっと昔に、なんとかルイジアナ・ママという本を書いたけど、あの解説を書きたいと思ってしまったのである。そうするともう止められず、そうだ、書かせてよと、つい発言してしまった。

 亀和田武のびっくりしたような顔がクローズアップされて迫ってきた。「もう書いてるじゃん」。えっ、オレ、もう書いてるの?


 横にいた浜本茂が、「目黒さん、それ、ぼくたちは信じますけど、普通の人は信じてくれませんよ」と言う。亀和田武のその本は、正式には『1963年のルイジアナ・ママ』という。とっくの昔に徳間文庫に入り、そのときに私が文庫解説を書いているという。『1963年のルイジアナ・ママ』がものすごく面白い本であったという記憶はあるが、それがずいぶん昔に文庫になったこと、そして私が解説を書いたことは、まったく覚えていない。言わなければよかったなあ。

 しかし話はまだ終わらない。その徳間文庫版を急いで購入したのである。その文庫が届くまで浜本が送ってくれた本の雑誌29号(1983年2月)の新刊ガイドのコピーを見ると、

「私はレコードなどこの二十年間に三枚しか買ったことのない人間で、しかも最近十五年間は一枚も買ってないというのに、この本を読んでレコード屋に走りました。何を買いに行ったかは恥ずかしいので書かないけれど、読者をそういうふうにさせるとはすごい」

 と私は書いている。この文章を読んだときにはまだ気がつかなかった。実は私、生まれてからこれまでレコードを3枚しか買ったことがない、というネタでこれまで何回か原稿を書いている。1枚目はビートルズのLP「マジカル・ミステリ・ツアー」で、2枚目が日吉ミミのドーナツ盤。3枚目が『1963年のルイジアナ・ママ』を読んで買いに走ったショーケンのLP「大阪で生まれた女」。それぞれに些細なドラマがあるのだが、それはこの際、どうでもいい。

 この3枚だけ、というネタで何回か私は原稿を書いてきたのだが、さきほどの本誌ガイドのページを読むと、これまでに3回しかレコードを買ったことがない人間が4枚目を買いに走ったと書いているのだ。そうとしか読めない。えっ、そうだったの? つまり、ショーケンのLP「大阪で生まれた女」は私の買ったレコード3枚目ではなく、正しくは4枚目なのである。

 そんなのどっちでもいい、と言われるかもしれないので急いで付け加える。どっちでもいいんです、たしかに。ただ私は、これほど長い間、3枚しかレコードを買ったことがないと誤って記憶してきたことに驚いたのである。それでは、あと1枚とは何か。

『1963年のルイジアナ・ママ』の巻末に寄せた私の解説に、最初に買ったレコードの話が出てくる。それは、マリー・ラフォレのLPだ。「太陽がいっぱい」の主題歌が収録された彼女のLPを買い、何回も聴いたと私はその解説で書いている。そこで私はこう書いている。

 授業をさぼって喫茶店でたむろしていた頃、いつも店内に流れていた「ブルージンと皮ジャンパー」という歌も高校時代の忘れられない歌の一つだが、こちらはレコードを買いには行かなかった。レコードを聴くことと購入することの差は何なのだろう。今でもよくわからない。

 そうだ、あったよ、「ブルージンと皮ジャンパー」。あのけだるい音楽が突然耳に蘇ってくる。