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6月1日(火)


 娘と義母との変則的な生活が始まった。

 娘がつい僕に向かって「ママ」と呼ぶ。僕もつい「あのさ」と誰もいない台所に声をかけそうになる。その瞬間、室内の空気の動きが止まる。

 仕事を休むわけにはいかないので、義母に娘の面倒を頼み、いつもどおり出社する。もし内勤だったら娘を会社に連れていけたのになんて考えるが、逆にわりと融通が利く外回りなので直帰を増やさせてもらうことにした。そうすれば8時までの面会時間に間に合い、娘に好きなだけ「ママ」と呼ばすことが出来るだろう。

 妻と胎児は、あれだけの血を流しておきながらも、どうにか持ちこたえ、順調に回復しているようだ。本日の診察では、エコーに小さな胎児がしっかり心臓を動かしている姿が映ったと、だいぶ落ち着きを取り戻した妻がうれしそうに話していた。

 もし本当にこのまま順調に回復し、無事生まれるようであれば、このガキはきっと運の強い子になるだろう。そんな話を空調の効いた病室でぼそりぼそりと話した。

 本日も娘はとっても物分かりよく、「ママ、バイバイ。また来るね」と手を振り、あっけなく病室を後にした。

 ところが家に帰って、お風呂に入れていると突然火がついたように大泣きしだす。それまで金魚すくいセットで機嫌良く遊んでいただけに、ビックリして「どうしたんだ?」と強く問いただしてしまう。するとその声の大きさに驚いてしまったようで、娘は一段と大声で泣き出し、激しくクビを振る。

 やっぱり情緒が不安定になっているのかななんて思いながら頭を撫でてやると「違う違うの、とっても淋しいの」との思いがけない返事。「淋しい」なんて言葉、そして概念を知っていたのか?

 その言葉を聞いた瞬間、情けないことに僕も我慢していた涙が止まらなくなり、その後しばらく一緒に風呂場で泣いてしまった。