9月17日(金)
鳥は生まれて初めてみたものを親だと思う「すりこみ」という現象があるそうだが、もしかしてサラリーマンにも「すりこみ」があるんじゃないか。
なぜそんなことを突然考え出したのかというと、新連載として始まった『荒なみ編集部日誌』に書かれている僕の姿が、あまりに僕が初めて就職したときの上司、H先輩に似ていたからだ。
猫なで声で近づいてきて、ほんとに悪いんだけど…なんてつぶやきつつ、実はすでにすべてが決まっていて逃げられない状態になっている。このパターンで僕は何度もH先輩に泣かされて来たのだ。
あの頃。
金曜日の夕方、突然会社の近くの喫茶店に呼び出され「ごめん、明日、名古屋に行ってくれない」なんて言われて、「えー」と不満の声を漏らすと「この前焼肉食ったよな、特上カルビ…」と脅されたんだ。それで仕方なく了解の返事をした後、小声で「1週間ね」なんて言われたこともあった。また医学書の出版社は学会に付いていってその場で展示販売するという仕事が多いのだが、その場で突然「あとはヨロピク」なんていって手をヒラヒラさせてエレベーターの向こうに消えられてしまうこともあった。
その時、僕は、入社1週間目で、どうやって販売したらいいのかもまったくわからなず泣きそうになったのだが、社会ってこういうもんなんだろうなと自分に言い聞かせ頑張ったのだ。しばらくしてわかったのはH先輩はそのとき木の実ナナの舞台を見に行っていたってこと。
ただし、こんな風に扱われても僕は決してH先輩が嫌いにならなかった。いや逆にとっても好きな先輩といえた。なぜなんだろうか? うーん、たぶん人間味があって、キツイ仕事をさせられた後、しっかりうまいモノを食わせてくれて、そしてしっかり褒めてくれたのだ。うれしかったんだよなぁ、H先輩から褒められると…。
荒木の連載を見ながら、ちょっとおびえつつも、まんざらでもない気分にひたっていると、何だか向こうからH先輩の声が聞こえてきそうだ。
「す、ぎ、え、ちゃ~ん」
そうそう荒木よ、大人が「ちゃん付け」で呼んできたときはすげー危険なんだぜ。