WEB本の雑誌

10月4日(月)

 9月30日(木)にジュンク堂書店さんで行われた椎名のトークショーに立ち会った話を書いたのだが、実はその日、本の雑誌社の薄給日で、ちっとばかり金を持っていたのが運の尽き。いやはや給料日にジュンク堂なんて行っては行けません! 15分で11冊購入。なんと半分以上、既刊。小遣いの半分が消えてなくなりました。おい! オレは今月どうやって暮らせばいいんだ?

 しかしそのとき買った本から、初めに取り出して読み出した『名無しのヒル』シェイマス・スミス著(ハヤカワ文庫)が予想以上にというか、すんごい面白くて小遣いの心配なんてすっかり飛んでしまった。

 著者シェイマス・スミスといえば『Mr.クイン』や『わが名はレッド』の著者で、どちらも『このミス』の上位に入った犯罪小説の名手である。しかしこの『名無しのヒル』はそういったミステリーではなく、中身は佳多山大地さんが解説で書かれているとおり「アイルランドの激動する1970年代前半を描いた普通小説」であり、またはカバー裏に書かれているとおり「明日なき日々から脱走を試みる青年の激しい生きざまを描き出す、獄中青春小説」なのである。

 主人公ヒルは親友とともに彼女の家に向かう途中IRAと間違われ予防拘禁されてしまう。そしてその後何年もの間、脱走を試みる(あるいは夢想する)以外やることのない収容所生活を強いられる。だから物語はほとんどその収容所のなかの生活が語られるので、つい暗い暴力的なものを想像してしまうが(もちろん暴力はある)この『名無しのヒル』はそうではなく、収容所内で出会った旧友や面会に来るおばあちゃんや彼女の過去の暖かい挿話されるので、決して読んでいて苦しい物語にはならない。

 背景にはもちろんアイルランドVSイギリス、IRA VS イギリス軍、カトリックVSプロテスタントなんて一見難しそうな状況がある。しかしそれは物語のなかでわかりやく説明してくれるから僕のようなバカでもその世界に入り込める。

 その技は『黄金旅風』のうまさに似ているところがあるし、それからかなり絶望的な場所に置かれているはずの主人公・ヒルのそれでも何事にも屈することなく明日を夢見る力強さは、なかなか新刊を出さず読者のクビをやたらに長くさせている金城一紀の世界観に似ていると思う。もちろんまもなく新譜を発売するU2のファンにはたまらない物語であろう。

 いやはや参った。
 もうそろそろ『おすすめ文庫王国』のベスト10を決める社内討論会があって、今年は『バッテリー』あさのあつこ著(角川文庫)が僕のなかでダントツの1位だったから、『バッテリー』を推せばイイと考えていた。ところが、いやはやここに来てその『バッテリー』と同じくらいこの『名無しのヒル』に痺れさせられてしまったのだ。

 参った参った。どうしよう。
 でも、幸せ!!!!


 追)
 先日出した問題「『犬は本よりも電信柱が好き』から、本の雑誌社の単行本としては、とても変わったことがあります。それは何でしょうか?」の答えは、バーコードが入ったということです。

 書店様、取次店様、今まで迷惑をおかけしておりまして、申し訳ございませんでした。