11月12日(金)
夕方、営業を終え会社に戻ると、ワープロ以外で絶対書けない「憂鬱」な雰囲気が社内を取り巻いていた。どっぷりと沈んだ空気、誰も彼もが下を向いているではないか。あわてて、どうしたの?と浜田に質問すると、ハァーと深いため息の後、その理由を教えてくれた。
「杉江さんはいいですよね、今日書店員さんの送別会でしょ。私たちは、ジャイ・リサなんです。え? ジャイ・リサがわからないんですか? そうか、杉江さん呼ばれたことないですもんね。えーっと、ジャイ・リサはジャイアン・リサイタルの略ですよ。そうそう、前にブックファーストの林さんがなぜか呼ばれちゃって、危うく全商品返品になりそうになったんですから…」
ジャイアンリサイタルはわかったが、ジャイアンが誰かわらかない。
「ジャイアンですか? そんなのわかるじゃないですか? 金子さんがいなくなってから社内でバンドやっているのは一人しかないんですから。それにジャイアンですから、権力者ですよ」
なるほどなるほど、ここのところ仕事中に妙にどこかへ消えていくのを不信に思っていたのだが、浜本のバンドのライブが今日だったのか?
「浜本さんのバンドが悪いわけじゃないんです。ギターの人なんてプロですし、人気漫画家のYさんがヴォーカルでそれはそれで格好いいんです。でもその真ん中でドタドタドラムを叩いているジャイアンが…。うー、背筋が凍る」
というわけで6時30分になると、浜田、松村、助っ人の及川という本日の生け贄がうなだれつつライブ会場へ向かうのであった。
ちなみに、当然このジャイ・リサに通うことが本の雑誌社の出世の道である。来春あたりは、浜田が営業部長、松村が編集部長、そして及川が助っ人次長あたりになっているであろう。いやはや。