WEB本の雑誌

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8月30日(木)

昨夜は、なぜか毎月下版前になると風邪をひく浜本から突然ピンチヒッターの原稿を頼まれた。事前注文の〆切前も決算前も風邪を引かない僕は、一気に書きあげ、帰宅。すでに家族は寝ていたので、目黒さんの号泣本『渾身』川上健一(集英社)を一気に読む。

うーん……。陸奥三部作や<バッテリー>シリーズのように目黒さんと一緒に騒ぎたかったのだが、僕にはあまりピンと来ず、涙の1滴もでなかった。残念。

物語のクライマックスであり、しかも構成上無茶な!と思うほどページをさかれて描かれる奉納相撲のシーンには、確かに胸が熱くなったのだけれど、ストーリー自体が僕には甘過ぎた。

お口直しに読み出した『メキシコの青い空 実況席のサッカー20年』山本浩(新潮社)がやめられなくなり、そのまま一気読み。

マラドーナが生きながらに伝説となった、あのワールドカップメキシコ大会イングランド戦の5人抜きゴールを「マラドーナ……、マラドーナ……、マラドーナ、来たー、マラドーナァー」と実況し、こちらも伝説となったNHKのスポーツアナウンサー山本浩が、そのときの放送とともに振り返る、20年間のサッカーの歴史。

ドーハも、アトランタ五輪予選も、ジョホールバルも、98年ワールドカップも、すべてこの山本節によって見てきた僕にとっては、こちらのほうこそ号泣の一冊。ゴチック体で書かれたそのときの実況コメントを読むと一気にその時代、その瞬間が甦り、泣けてくる。

ジョホールバルでは、あの岡野雅行が延長戦に入るピッチを犬のように走り回っていた姿。そしてその後できた大きな日本代表の円陣に向かって、山本浩アナウンサーはこう話出したのだ。

「このピッチの上、円陣を組んで、今、散った日本代表は、私達にとっては『彼ら』ではありません。これは、『私達』」そのものです。」


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ちなみに本筋とは関係ないけど、このなかで描かれる、こちらも放送中にセルジオ越後と正反対のことを言いつづけケンカ状態になった伝説の解説者・松木安太郎には大笑い。まったく同じような本を松木中心で作ったら、それはもうエンタメ・ノンフの傑作になること間違いなしなんだけど。

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直行で立川へ。

本屋大賞を一緒にやっているオリオン書房ノルテ店の白川さんに、最近出版業界について考えてることを一方的に話してしまい、ご迷惑をおかけする。でも、この闇は抜けることができるのだろうか…。

サザン店のHさんと昼食後、しばし営業。そしていつもより早く会社に戻る。

本日は、なんと高野秀行さんと大槻ケンヂさんによる「マンセー・ムーノー人間」対談なのだ。これを進行できるのは、唯一社内でムーノーのある僕だけだろうと無理矢理名乗りをあげて、立ち会う。

それがもう大笑いの対談で、進行どころじゃなくただ腹を抱えているだけに終わってしまった。その「マンセー・ムーノー人間」対談は「本の雑誌」11月号に掲載の予定です。

8月29日(水)

昨夜、営業を終えて会社に戻ると、顧問の目黒さんから電話がかかってきた。その声は妙に枯れていて、一瞬夏風邪かと思ったが、そうではなかった。

「杉江、川上健一の新刊『渾身』(集英社)読んだ? オレ今、読み終わったんだけど、号泣だよ、号泣。何でもない話なんだけど、すごいんだよ。それだけ」

電話があっけなく切れたが、そこまで言われたら読まないわけにはいかないだろう。だってこんな興奮は目黒さんと僕でシビレにシビレた高橋克彦の陸奥三部作『火怨』『炎立つ』『天を衝く』(すべて講談社文庫)か、あさのあつこの『バッテリー』シリーズ(教育画劇、角川文庫)以来なのだから。

そういえばそんなやりとりを目黒さんが『笹塚日記 ご隠居篇』で振り返っていたっけ? と会社の見本本を持ち出し、最終日のところを読み出したら、思わず涙が溢れてきてしまった。

嗚呼、あの頃、楽しかったなぁ。目黒さんと面白い本の話をして、意見があわないと「お前にはまだわからないんだよ」なんていじけちゃうんだよなぁ。書店さんに教わった新刊情報とか伝えるとしっかりメモするくせに、発売時期にはすっかり忘れていたりして。そうそう、目黒さん絶賛の本があって、本人はその本が文庫になったときに解説を書く気満々だったのに、その約束を編集者さんが忘れていて、目黒さんがその文庫を手に持ったまま呆然としていることもあったっけ。

今、気づいたんだけど、結局、僕の本の雑誌社における友達は目黒さんしかいなかったんだなあ。目黒さんがいなくなってから半年、どんな面白い本を見つけても話す相手がおらず、仕方なくこの日記に本の話をやたら書いていたりする。何だか毎日に張り合いがないのである。

なんてことを考えていたら、新宿で『渾身』を探すのを忘れて帰宅してしまった。ウワッ! 号泣だよ、号泣。

 そして本日、会社に出社し、新宿の紀伊國屋書店新宿本店さんを訪問がてら、忘れずに購入し、高田馬場を経由し、渋谷のブックファーストさんを訪問。

散々世話になったコミック売り場のSさんや、仕入れのHさんなどと話していると「ラスト8週」なんて言葉が聞こえてくる。そうなのだ、ここに、ブックファーストがあるのも、あとちょっとなのである。

じっくりそんなことを考えながら売り場を廻っていると、そこかしこで担当者さんの最後の最後のやぶれかぶれ好き勝手フェアが開催されていることに気づく。ウワー、むちゃくちゃブックファースト渋谷的で面白いよ! おそらくこのラスト8週のあいだ、日本で一番面白い本屋さんであろう。必見! でも号泣だよ、号泣……。

8月28日(火)

 5日間の夏休みを終え、久しぶりに出社。
 僕はたいして仕事をしていないから、メールも郵便物も貯まってない。
 あるのは飲み会の誘いだけ。

 夏休みを利用して、編集長の椎名さんの本を読み返す。『哀愁の町〜』から始まり、『新宿どかどか団』に辿り着くが、こうなるとクセになるのが椎名本。そこで積ん読になっていて、それを父親が持っていき「すごく面白かった」と感想を漏らしていた『波切り草』(文藝春秋)を読み出す。そして驚く。うわ! これ傑作じゃん。

 舞台は昭和30年代の千葉の小さな漁師町。父親を早くに亡くし、異母兄弟を含め5人兄弟の下から2番目の中学生・松尾勇が主人公。こう書けば椎名ファンには馴染みの設定で、松尾勇は『銀座のカラス』など自伝的小説で椎名さんがよく使う主人公であるから、先の展開も読めるだろう。

ところが、これが第4章の「山の上」から、いつもと違う展開になり、そこから始まる物語は、井上靖の『しろばんば』『夏草冬波』(ともに新潮文庫)のような、優しさに満ちた、しみじみと胸にくる少年小説なのである。そしてこのラスト1行の感動…。ああ、今まで未読でスミマセンでした。

 なんて感動しているうちに夏休みが終わり、目の前にその著者がいる暮らしが始まる。思わずサインをもらおうかと思ったけれど、どうせなら接待費の精算書にサインを貰おう……。うーむ、改めて不思議な会社である。

8月22日(水)

娘があまりにうるさいので、明日から月曜日まで夏休みを取ることにした。
海には連れていっているので、今度は川にでも連れていくか。

通勤読書は『新橋烏森口青春篇』椎名誠(新潮文庫)。『哀愁の町に霧が降るのだ』を読めば当然その続きのこれが読みたくなるし、おそらくこれを読み終えたら『銀座のカラス』そして『本の雑誌血風録』『新宿どかどか団』と再読することになるのだろう。ああ、早くこれら一連の椎名誠自伝的小説シリーズの完結篇になるはずの『新宿遊牧民』が本にならないかなぁ。(「小説現代」連載中)

本日はこれから営業に出て、夜は千葉会。働いているのが楽か、夏休みの方が楽か。うーむ。

8月21日(火)

事務の浜田と経理の小林が「欽ちゃんすごかったね〜」なんて話してやがる。確かに66歳で走った(歩いた)のはすごいかもしれないが、しょせんたった1日じゃないか。こちとらこの酷暑のなか毎日歩いているんだ。恵まれない営業マンに愛の手を。合いの手はいらん。

通勤読書は『猫鳴り』沼田まほかる(双葉社)。ホーラスペンス大賞『九月が永遠に続けば』でデビューされた著者なので、ミステリーかと思って読み進んだら、なんとストレートな猫小説でビックリ。四〇歳を越えて妊娠した子供を一度も会うことなく失った哀しみを抱える夫婦のところに一匹の不細工な子猫が迷いこむ。その猫を中心に、この夫婦とまた別の少年の話が語られていくのだが、第三章は猫を一度でも飼ったことのある人、そして喪ったことのある人には、たまらない章だ。20年間共に暮らした愛猫「小鉄」を思い出してしまった。

猫といえばブックファースト新宿ルミネ1店でバカ売れしていたのが、『まこという名の不思議顔の猫』前田敬子、岡優太郎著(中央公論新社)。こいつも不細工だけどカワイイ。

営業は新宿へ。

紀伊國屋書店新宿南店さんを訪問すると「本の雑誌」9月号の特集から「エンタメ・ノンフフェア」と題して、高野秀行さんと宮田珠己さん、高橋秀実さんの著作が並べられていて感激する。そうなんだよ、やっぱりこうやって全部きちんと同じ平台(棚)に並ぶとスッキリするんだよな。ひとりでも多くの読者が手に取ることを祈りつつ、もっと盛り上がるようにPOPを制作することを誓う。

そのままジュンク堂書店新宿店さんを訪問すると、こちらでもかなりの場所をさいて「エンタメ・ノンフフェア」開催していただいているではないか。9月号の座談会で取り上げた本がドカドカ並んでいてすごく壮観。一見まったく統一性のないような棚であるけれど、皆さんこれが全部「エンタメ・ノンフ」なんですよ〜と叫びたくなる。

そして紀伊國屋書店新宿本店さんの地下に潜ると(仕入れ課訪問)、春秋社のKさんと遭遇。Kさんは、僕の尊敬する営業マンのひとりで、Kさんと書店員さんのやりとりをじっと観察。なるほどこうやって話をすればいいのか。簡単に盗めはしないだろうが、誰も仕事を教えてくれないひとり営業なので、できる営業マンを観察して、勉強していくしかないのである。

その後ブックファースト新宿ルミネ2店の新しい文芸書の担当者さんとご挨拶。するといきなり「僕、椎名さんの大ファンで、椎名さんのサイン会をするのが夢で書店員になったんですよ」なんて無茶苦茶嬉しいことを言っていただく。

作家には村上春樹チルドレンなんて言われる人が多いけれど、実は椎名誠チルドレンも相当いるんじゃないかと思うな。書店員さんにもいっぱいいるし。ああ、上司があまりにデカすぎる…。

8月20日(月)

天気予報の嘘つき!
暑さは先週いっぱいっていったじゃないか。なのに今日も35度越え。
うーむ。

「天気予報士とかけて、藤代三郎と解く。
 その心は、どちらも当たらない」

★   ★   ★

御茶ノ水のM書店さんを訪問。こちらは文庫売り場のYさんが書くPOPが有名で、今も辻村深月の『冷たい校舎の時は止まる』上下(講談社文庫)に素晴らしい推薦コメントの書かれたPOPが付いていた。売れ行きをお伺いすると、無茶苦茶売れているとかで、文芸書担当のYさんと「単行本もこれくらい売れるといいのにね…」なんて思わずこぼしてしまったが、なーに文芸書のYさんだって『さくら』西加奈子(小学館)などヒットさせているのだ。

しかもこのYさん、無茶苦茶の本読みで、本日も訪問すると「ねぇねぇ読んだ?読んだ?」と『ソロモンの犬』道尾秀介(文藝春秋)を指さされ、「いやー実は僕的にちょっとつらいシーンがあったんで、途中で止まっているんですよ」なんて素直に答えたら、「ダメダメ。そこを乗り越えれば大丈夫だから。最後までほんと楽しめるよ」と教えていただける。こういう読書のアドバイスは本当に有難い。また『越境捜査』笹本稜平著(双葉社)もすごい面白かったよと一緒にオススメしていただく。感謝。

ここでお礼とばかりに自分の最近のオススメ本を話せれば良かったのだが、前日読み終わったのが高野秀行さん推薦の『パリ・ロンドン放浪記』ジョージ・オーウェル著(岩波文庫)。これはこれで無茶苦茶面白く、特にパリ篇の貧乏だけど猛烈に明るい感じは、笑いつつ本質を突いてくるまさにエンタメ・ノンフ。しかもジョージ・オーウェルの文体なのか、翻訳のおかげなのか、1933年に書かれたとはとても思えない読みやすい文章なのに驚いた。

おそらくすでに多くの人に読まれていて、今さらこれ面白いっすよ!なんていうと笑われるかもしれないが、この際無知を承知でハッキリ書いておく。『パリ・ロンドン放浪記』は面白い!

でその気にいったパリ篇で著者がするのがホテルの皿洗いなのだが、皿洗いといえば我らが編集長・椎名誠の『哀愁の町に霧が降る』上下(新潮文庫)だろうと何気なく読み出したら、止まらなくなってしまい一気読み。父ちゃん、やっぱり『哀愁の町に霧が降る』は無茶苦茶面白いよ…と夜空に向かって呟いてしまった。

しかししかしそんな本を新刊を並べている書店員さんに紹介するわけにもいかず、どうにか宮部みゆき『楽園』上下(文藝春秋)の話でお茶を濁す。いやこれも充分面白かったんですが。

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その後、秋葉原のY書店さんを訪問し、驚天動地の人事異動話にひっくりかえる。
うーむ、秋はやっぱり大変だな。

8月17日(金)

 早朝、妻に揺り起こされる。
「あんた前日抽選いかなくていいの?」

 明日の試合はアウェーの甲府戦で、甲府はなぜか無謀にも国立競技場で開催するという暴挙に出たため(いやおかげで観戦できるからこちらから見たら幸せなんだけど)前日抽選なんてないのである。しかし妻にはアウェーとも、国立とも言えないので(言ったら行けなくなる)ホームさいスタと申告してあったのである。

しかししかしである。そんなことは夢うつつのなかですっかり忘れている。忘れているどころか結構良い夢を見ていたところを起こされたから怒りを感じたりしてしまった。
「おまえ、明日は国立なんだよ、前抽なんかねーんだよ!」

とほざきそうになった瞬間に頭の中がグルグル回りだす。やばかった。非常にやばかった。ゴールラインギリギリでクリアーしたDFのようだ。

「うーん、ありがとう、ハニー。でも今日は、他の人が行ってくれているんだ」

あわててそう言い直し、改めて眠りについたのである。

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 会社にて見本本の取り扱いでバタバタしていると、携帯電話が鳴る。おお! 今日は地方小のKさんとランチミーティングだったのだ。あわてて新宿に向かい、ライオンで食事。「実体のないものは信用しない」という結論に達す。

 再度会社に戻ってバタバタの続き。その頃、営業仲間の京都の山ちゃんは、300冊の雑誌を3箱の段ボールに詰め、カートに載せて新幹線の人となっていたらしい。何だか昨日搬入予定だった商品が事故で付かず、どうしても今日中に必要な部数を自分で運んで来ていたのだ。

 夕方その山ちゃんから連絡が入る。日帰りなんですが、帰りの新幹線までどこかでお茶をしませんか? 再度新宿に出て、お茶。営業の仕事というのは、こういうトラブル処理のときに能力を問われたりするのだが、本来それはマイナスの穴埋めだから、会社や取引先からまったく評価はされない。すべて普通にやって当然というのがつらいよね、という結論に達す。

 京都に帰る山ちゃんと別れ、辺境作家の高野秀行さんと落ち合う。二人で池林房に向かうと、そこに編集長に椎名さんがいて、辺境作家同士でありなが今までお会いしたことがなかったとかで、お二人を引き合わす。

 目の前に自分の尊敬する作家が二人いるというこの状況があまりに現実感がなく何だか夢のなかにいるような気分。高野さんとは旅の話、本の話などとことん話し込む。高野さんがこぼした「この業界は気づいてもらうまでが本当に大変ですよね」という、まるでご自身がUMA(未確認生物)のような言葉が、深く印象に残る。でも、まだまだもっと知られるべきだと思いますよ、高野さんの本の面白さ。

8月16日(木)

本日も40度越えか。こんな暑い国というのはあるのだろうか。インド、アフリカ、あとは砂漠地帯か。しかしそういうところにいる営業マンはスーツなんて着ているのだろうか?

僕の胸に付いたカラータイマーは、24度で冷やされた会社を出るとすぐにピコンピコンなり出すのである。普通ならば7,8軒書店さんを廻った辺りで蓄積疲労を知らせるために鳴り出すのに、この夏は、1軒も廻る前に鳴り出してしまう。

本日はそんななかでも大変な取次店廻り。駅から遠いんだ、これが。
そして御茶ノ水、飯田橋と廻った時点でもはや僕のカラータイマーは故障したかのように、ビービー鳴り続ける。身の危険を感じ、会社に戻ることにする。

負けた負けた、暑さに負けた。

8月15日(水)

ちょっと涼しくなった…なんて書いたのは誰だ? 40度って何だ? もう日本代表入りはきっぱり諦めるからせめて30度くらいになってくれ。

太陽が照りつけ、アスファルトは半ば溶けかかっているような感じである。それでも営業マンは行くのである。行かねばならぬのである。なぜならそこにお客さまがいて、運が良ければ注文があるからだ。いや違う、単なるマゾかも……。

★    ★    ★

森見登美彦さんや三浦しをんさんといった、今一番人気のある作家さんたちに「どんな本を読んで育ってきたか?」を聞いて歩いたインタビュー集『作家の読書道2』の初回注文〆切日のため、効率も暑さも忘れ、じぐざぐに営業。

今日から取次店さんが動いているので、結構出社されている書店員さんも多く、普通に営業が出来るうれしさに浸る。

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夜、会社に戻って、直射日光が当たり続けた後頭部を冷やしながら、〆の作業。

パソコンで、今年の浦和レッズの人生を左右する大切な闘いをチェック。うおー!!! 永井のゴールで勝利!ぞな!! 頭なんか冷やしている場合じゃないなと会社の冷蔵庫からビールを取りだし、ひとりで祝杯!!! 良かった良かった。けど仕事が終わらない。

8月14日(火)

何だかこの二日間、いくらか涼しくなったような気がするのは気のせいだろうか。風があるからそう感じるのか? 確かアジアカップのコンディショニングレポートだかで、人間は暑さに慣れるまでに6日間くらいかかると書かれていたような気がするのだが、僕自身がこの暑さに慣れてしまったのか? ならばいっそこの暑さを逆手にとって、2010年南アフリカW杯に向けてのトレーニングだと思えばいいのだ。オシムよ、ここにものすごく暑さに強い営業マン…もといFWがいるぜ。

昨日の反省で今日は会社にいるかというとそうではなく、本日も意地を張って営業に出かける、が、昨日同様あまりお会いできない。ガックリ。

僕、そんなにしゃべる営業ではないんだけど、それにしたって一日そこそこしゃべるのだ。それがあまりしゃべれず、それどころか一番楽しみである書店員さんの話を伺えないというのは、とっても淋しい。思わずあっちこっち電話でもしちゃおうかと思ったが、それこそ迷惑だろう。

このままでは淋しさを紛らわすために、思わず家に帰って、妻と会話してしまいそう。しかしそれはマズイのだ。夫婦にとって会話ほど危険なものはないわけで、今週末の本当はアウェーの国立開催甲府戦をホームとウソをついているのがばれてしまうかもしれない。帰宅したらお口にチャックが大切なのである。

仕方なく帰宅間際の助っ人を捕まえて、ベラベラしゃべる。ちょっとスッキリ。

8月13日(月)

22日搬入の新刊『作家の読書道2』もあるし、お盆はどうせどこも混んでいるしと思って、出社したのだが、ああ、今日、明日は取次店さんが休みで荷物が止まっているから結構書店員さんも休んでいるのね。あるいはいらしたとしても、人員が少ないためレジでお客さんの対応に追われていたりで、行けども行けども仕事にならず。こんなことなら休めば良かったと後悔するが、今さらどうしようもない。各駅停車の旅の末、最後の最後で有楽町のS書店Kさんにお会いできたのでトコトンお話。Kさんは「これからはこれかな」といって『悲望』小谷野敦(幻冬舎)を指さす。うー、モリミーもそうだけど「もてない男」がもてるのはなぜなんだろうか。

8月10日(金)

昨夜、梅酒を飲みながら自分の年齢について考えていた。
36歳である。浦和レッズも優勝したし、娘も息子も順調に育っている。そういう意味では何ら不満はない。仕事は、友達と較べるとかなり薄給であるけれど、大好きな本に関わることが出来ているのだからそれだけで有難い。まあ、年に3回くらい猛烈に腹の立つこともあるけれど、まあ、それはどんな仕事に就いても一緒だろう。

そんなことをグルグル考えていて、ハッと気づいたのだが、例えば、今、僕は営業マンであるけれど、年に1冊くらいは自分の企画で、自分も読みたいような本を作り、営業しようと思って実践しているのだが、このまま定年まで働いたとして(そんなに本の雑誌社があるとは思えないけれど)なんとあと24年、24冊しか作れないのだ。24冊!!!って本棚1段分くらいではないか。それが僕の残りのジンセイなのだろうか……。

酷暑のなか、『本の雑誌』9月号「エンタメ・ノンフの秋」座談会で、高野秀行さんが「大好き」と紹介されていた『パリ・ロンドン放浪記』ジョージ・オーウェル(岩波文庫)を読む。実は『ジャック・ロンドン放浪記』ジャック・ロンドン(小学館/地球人ライブラリー)を間違って購入&読了してしまっていたのだが……。

8月9日(木)

極暑のなか営業にでかける。もはやこの日本の真夏の営業という仕事は、冒険や探検に近い。

東京の八重洲ブックセンターを訪問するとKさんから「すぎえ〜。ついにうちのお店から作家が生まれたよ!!」と1冊の本を見せられる。

ちなみにKさんが「すぎえ〜」と呼び捨てにするのは、約15年ほど前、僕がこの八重洲ブックセンターでアルバイトしていたときに、仕事を教わった大先輩だからだ。なかには僕のことを「おすぎ」と呼ぶ先輩もいるのだが、僕自身、そうやって身内のように、呼んでもらえることがちょっと嬉しかったりする。

さてKさんが掲げていたのは、東京創元社のミステリ・フロンティアシリーズの『もろこし銀俠伝』秋梨推喬であった。作家って、ほんまものの立派な本じゃないですか。しかも本屋とか身近なものをネタにしたわけでなく、「中国時代小説集」とは『後宮小説』のような感じなんでしょうか、いやはやスゴイっすね、と盛り上がる。

その後は銀座に向かい、教文館のYさんとお話。

「なんか銀座通りって日陰の方に歩行者が多くないですか?」
「そうなのそうなの。午後2時くらいから教文館側の歩道が日陰になるのよ。そうなるとお客さんも増えるの」

なんて銀座の謎をひとつ教えてもらうが、Yさんのこの夏のオススメは『災いの古書』ジョン・ダニング著(ハヤカワ文庫HM)だとか。「いやー、ほんと面白かったわ。これから全部読まなきゃ」。そういえば僕も最近翻訳ミステリを読んでなかったし、このシリーズも評判だけは聞いていたのだが、さあ、読もう。

その教文館では、東洋文庫のフェアをやっていて(希少本も含む)、目の前でふたりのおばさんが東洋文庫を購入していく姿を拝見し、ちょっと驚く。つうかすごいな銀座…。

8月8日(水)

とあるベテラン書店員さんと話していたら「外文の棚を作り直そうと思って選書したんだけど、ほとんど品切れや絶版で棚がつくれない」とこぼされる。

新刊点数は年々増える一方なのだが、それに押し出されるようにして、出版社は本を断裁し、品切れ・絶版にしているのだからそうなるだろう。新刊書籍は年間8万点を越えているようだが、果たして品切れ絶版本は年間どれほど出ているのだろうか。

新刊ばかりの本屋さんには、本来本屋さんの楽しみであったはずの「発見」は少なくなってしまう。そこで、本屋さんは「新刊」にこだわらず、「本屋」であることに、もっとこだわった方が良いのではなかろうか。

例えば古本を仕入れて、その外文の棚に並べるというのはありなのではなかろうか。新刊と古本が詰まった、そして外文の流れのしっかり把握されたその棚は、そうとう魅力的な棚になると思うんだけど。

また、そのことによってお店の個性も出るし、担当者の能力の違いもハッキリ出てくる。おまけに利益率もあがれば、そういった能力のある書店員さんの待遇も少しはよくなるのではなかろうか。

そうそうこんなことはすでにネット書店アマゾンが新刊と古本の並列表記でやっているわけで、アマゾンの凄さは、実はこういうところなのではないかなんて考えていたりする。

ただし、実際そういうことをしようと考えたときの問題は仕入れと流通か。ようは古本の取次を作ればいいのだ。おっ、買い取り場所が全国にあり、流通網もあるブックオフが、新刊書店向けの古本取次になれば良いのではなかろうか。ブックオフよ、新刊本なんかに手を出さず、古本道に突き進んだ方がいいのではないか。ダメか?

爆裂な暑さのなか、そんなことを妄想する。
本屋さんがもっともっと魅力的な場所になり、書店員さんが楽しく働ける場所になることを祈りながら。

8月7日(火)

通勤読書は『関野吉晴対談集 グレートジャーニー 1993〜2007』(東海大学出版会)。知性と教養あふれるひとたち約30人と関野吉晴さんの対談。あっちこっちのページから大切な部分を書き出してしまう。素晴らしい対談集だ。

本日は社内に残って、編集作業を手伝う。デスクワークが大嫌いなのだが、パソコンに向かってじわじわと直しや調べ物をしていると、なんだか機械設計を学んでいた学生時代を思い出す。地道な作業の先にゴールがあるんだよな。

夜、BIMという会社を設立されたOさんと酒を飲む予定だったのが、待ち合わせ時間まで、ちょっと時間があったので紀伊國屋書店新宿本店さんを覗く。文庫売り場をふらふらしていたら、『最新世界周航記』ダンビア著(岩波文庫・上下)なんてのを発見。僕、探検とか冒険とか就航とか漂流とか航海とかそういう言葉のつく本が大好きなのだ。

あわてて手にとり見返しのあらすじを読むと「十七世紀末の海賊が残した驚くべき手記。カリブ海、南米、フィリピン、中国など世界の海を渡り歩き、敵船拿捕、都市襲撃といった私掠活動を重ねる。つねに危険と背中合わせの航海の様子と、寄港した土地の自然や風俗を、厳密な観察眼でつぶさに記す」とあり、まさに僕好み。即購入し、同好の士、椎名編集長にも報告せねばならぬ。

8月6日(月)

本日も熱暑地獄。

印刷所の営業マンと待ちあわせし、今月の新刊『シャーロック・ホームズ万華鏡』北原尚彦著の見本を受け取る。そして直行で取次店廻る。お盆前搬入のギリギリの日程なのでどうだろう? と思っていたのだが、結構混んでいた。

相変わらず新刊点数は増える一方で、しかも大型書店の出店も続き、果たして出版業界はどこへ向かっているんだろうか。面白い本がいっぱい出るのは読者としてうれしいのだが、それがあっというまに消費され、書店や読者の記憶から消え去られていくのは営業マンとして恐ろしいかぎり。もうちょっとじっくり売ることができないだろうか…。

取次店廻りを終え、某出版社さんを訪問。そこは僕にとってパラダイスのような出版社で、危うくそのままおしかけ営業マンとして居着いてしまいそうになってしまったではないか。いいなぁ……。明日から出社しちゃおうかなぁ。

8月3日(金)

本日も熱暑地獄。

通勤読書は、『青年のための読書クラブ』桜庭一樹著(新潮社)。僕は(東京創元社)で初めて桜庭さんを読んでその面白さに驚いたクチなのだが、今作『青年のための読書クラブ』も充分堪能。特に一話目と二話目が気に入った。あらゆる時代をあらゆる手法で描けるこの才能は何なんだろう。ちなみにこの秋に文藝春秋から出る新作もすでに傑作との声が上がっていて、今年は桜庭一樹から目が離せない。

ジュンク堂新宿店のSさんを訪問すると「『怪獣記』高野秀行著(講談社)めちゃくちゃ面白かったですよ! 電車乗り過ごしちゃいましたよ」と『怪獣記』話で大盛りあがり。うちの会社の本ではないのだが、面白本に国境はない。ついでに9月号の「本の雑誌」特集「エンタメ・ノンフ」もオススメす。

8月2日(木)

梅雨が明けたら、熱暑地獄であった。

ドトールの『フローズン抹茶白玉』が、エクセルシオールカフェの『フローズンマンゴー』が、スターバックスの『ラズベリーカシス フラペチーノ』が、オレを呼んでいる。座りたい。クーラーにあたりたい。冷たい水と氷を一気に飲み干したい。

しかしそんなことをしたら二度とお店から出てこられなくなるだろう。看板を横目に次のお店に向かう。ノーモア温暖化。

通勤読書は、『武士道シックスティーン』誉田哲也著(文藝春秋)。誉田さんといえば『ジウ—警視庁特殊犯捜査係』(中央公論新社)や『ストロベリーナイト』(光文社)の警察小説の書き手というイメージがあったのだが、今回は直球の青春小説。 しかもマイナーといえばマイナーな高校の女子剣道部が舞台で、勝つことだけを重視する香織と不思議ちゃん早苗の対比が面白い。ただし、この暑さのなか面や防具を付けるなんて、考えただけでも気がふれてしまいそう。

京王線の営業を終えて会社に戻ると、事務の浜田から「なんか杉江さんの周り、暑いですね」と言われてしまう。くそぉ。

8月1日(水)

 変な時間に寝てしまった息子を寝かしつけているうちに自分が寝てしまい、目が覚めたのが朝の4時。ヤバイ!! 昨夜が「酒飲み書店員大賞」一次投票〆切日だったのだ。あわててメールをチェックすると当然ながら事務局長の高坂さんから催促のメールが届いているではないか。ごめんなさい、ごめんなさいと松戸方面に向かって謝りつつ、投票を済ます。

 それですっかり目が覚めてしまったので、昨日購入した『サッカーボーイズ13歳 雨上がりのグラウンド』はらだみずき著(カンゼン)を読み出すが、あまりの面白さに驚きつつ、家族が起き出すまでに一気読みしてしまった。素晴らしい!!!

 前作『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』では、小学6年生だった桜ヶ丘FCの面々が今度は中学校に入学し、サッカー部に入ることになるのだが、その中学のサッカー部は顧問がサッカー未経験者でまったく指導することもなく、またそういう環境に嫌気がさしたのが、2年生の部員がゼロ人という、イマイチなサッカー部だったのだ。

 それでも主人公の武井遼介は、うまくなりたい、強くなりたいと、サッカーに真剣に取り組んでいくのだが、小学校のときダブルリョウと呼ばれた片割れ星川良は、中学サッカー部ではなく、Jリーグの下部組織のセレクションに合格し、学校が終わると一目散に帰宅し、片道1時間半かけて別のグラウンドに向かう。

 そう、サッカーには、いろんなサッカーがある。しかしなぜサッカーをやり続けるのか、その答えはひとつしかない。その答えは本書の中にあるのだが、僕は「一緒にサッカーやらないか?」というセリフのところで号泣してしまった。

 これまで『龍時』野沢尚著(文春文庫)や『銀河のワールドカップ』川端裕人(集英社)や『俺が近所の公園でリフティングしていたら』矢田容生(小学館)などいろんなサッカー小説が出て来たが、この『サッカーボーイズ13歳 雨上がりのグラウンド』がベスト1であろう。そして『一瞬の風になれ』佐藤多佳子著(講談社)や『バッテリー』あさのあつこ(教育画劇、角川文庫)と肩を並べる少年スポーツ小説の傑作だと思う。

 なんて言ったら町田方面から「杉江はサッカー本に甘いからな」と言われそうだが、僕はこの『サッカーボーイズ』を強烈にプッシュしていきたい。わざわざタイトルに13歳とあるのだから、おそらく14歳、15歳の武井遼介と元・桜ヶ丘FCの面々が書かれる続編があるのだろう。うう、早く読みたいぞ!!

7月31日(火)

やっと再開のJリーグ。浦和レッズ対サンフレッチェ広島戦の自由席前日抽選に参加してから出社すると、ナツイチ完全読破に挑戦中の助っ人関口鉄平が、すでに出社していた。パソコンに向かって、ナツイチ文庫を片手に原稿を書いていた。

その鉄平に近寄っていき「オレのナツイチなんだと思う。『怪獣記』高野秀行著(講談社)と『映画篇』金城一紀著(集英社)だな。ふたつともダントツだよ、ダントツ。」なんて騒ぎ、30分間に渡って両著がいかに素晴らしいか話続けた。すると鉄平はいきなり「フゴフガフギャー」と意味不明の言葉を発止、鼻血を出して倒れてしまったではないか。大丈夫か? 鉄平。でも『怪獣記』と『映画篇』は、今すぐ読むべきだ!

営業に出かけるが、リニューアル中だったり、担当者さんお休みだったりで、大失敗。こういうときは思い切ってルートを変えるというのが、僕のやり方なのだが、変えたルートもお休み続出で最悪の一日。

会社に戻ると顧問・目黒が突然やってきて驚く。
「あれ? 今日来る日でしたっけ?」
「いや中野で飲み会があって、ちょうどいいかなと思って」

この機会にと、僕のお薦めを目黒に伝えると、あわててメモしているではないか。前は「ふーん」なんて言ってロクに聞いてくれなかったのに。しかも新刊情報の掲載されている『トーハン週報』を必死にめくっているのがおかしい。よほど情報に飢えているんだろうな。

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