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10月29日(水)

夜の光
『夜の光』
坂木 司
新潮社
1,680円(税込)
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 通勤読書は、坂木司『夜の光』(新潮社)。

 作家が化ける、なんて表現をされることがあるけれど、そういう意味では『夜の光』で、坂木司は化けたのではなかろうか。なんだか今までの作品から殻を破り、とんでもない作品を生み出したような気がする。

 日常生活に生きにくさを感じる高校生4人が、それぞれの学校や家庭生活をスパイ活動と名付けつつ、天文部に集まってくる。この集まってくるというのが曲者で、群れるというほど強い関係を持つわけではない。ただそこにいるだけの4人なのであるが、意識化では間違いなく強いつながりを持っている。

 この関係性は私と書店員さんの関係にそっくりである。

 例えば本日訪問した立川のオリオン書房ノルテ店の白川さんとは、このノルテ店オープン以来の付き合いで、その後、本屋大賞実行委員会のメンバーとして一緒に活動もしているのである。だからといって友達というのは気が引ける。いやそれくらい濃い付き合いもしている自負はあるけれど、でも学生時代の友達のような感覚ではない。ならば単なる商売相手なのかといわれたらそんなことはない。それは白川さんに限ったことでなく、すべての書店員さんに当てはまる関係なのだが、それを言葉にするのが難しい。同士、仲間、なんだろう?

 そういうべったりまではいかない人間関係を描いた小説が『夜の光』で、ある意味これは坂木司版<ゾンビーズ>シリーズ(金城一紀『レボリューションNO3』など」になるのかもしれない。帯にある<絶対零度の青春小説>というのは、決して冷めているということを示すのではなく、おそらく冷たいものだって触ったときに猛烈な熱さ感じることを表現しているのではなかろうか。そう、そういう小説だ。


★   ★   ★

 調布、府中、立川、国立と営業するが、前半は休憩や社員旅行やお休みでほとんど担当者さんにお会いできず、このままじゃ会社に戻れないと泣きそうになっていたのだ、途中から形勢逆転、特に久しぶりの訪問となってしまった国立のM書店にてY店長さんとじっくりお話できたのは、うれしかった。

 ちなみに啓文堂書店では、「第2回おすすめ文庫大賞」の候補15作品が並べられていた。果たしてどの本が選ばれるのか楽しみである。

「啓文堂書店 第2回おすすめ文庫大賞候補作」

『ノ−ライフキング』いとうせいこう(河出文庫)
『夜市』恒川光太郎(角川ホラ−文庫)
『廃用身』久坂部羊(幻冬舎文庫)
『天使のナイフ』薬丸岳(講談社文庫)
『それでも、警官は微笑う』日明恩(講談社文庫)
『爆弾魔』大石直紀(光文社文庫)
『ハ−トブレイク・レストラン』松尾由美(光文社文庫)
『東京バンドワゴン』小路幸也(集英社文庫)
『きいろいゾウ』西加奈子(小学館文庫)
『Tengu』柴田哲孝(祥伝社文庫)
『ワ−キングガ−ル・ウォ−ズ』柴田よしき(新潮文庫)
『破弾』堂場瞬一(中公文庫)
『館島』東川篤哉 (創元推理文庫)
『午前三時のル−スタ−』垣根涼介(文春文庫)
『白戸修の事件簿』大倉崇裕(双葉文庫)

10月28日(火)

TOKYO BLACKOUT
『TOKYO BLACKOUT』
福田 和代
東京創元社
1,680円(税込)
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ディズニーランドという聖地 (岩波新書)
『ディズニーランドという聖地 (岩波新書)』
能登路 雅子
岩波書店
840円(税込)
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 久しぶりの勝利の歌を歌えなかったのは残念だったが、土日寝ていたおかげで、いくらか回復傾向に向かったようだ。昨日も今日もいつもどおり営業に出かける。

 昨日訪問した六本木の青山ブックセンターMさんと、恵比寿のY書店Kさんのふたりとも、私の顔を見るなり「今度出る三浦しをんがいいのよ〜」と叫んだのである。

『光』(集英社/11月26日発売予定)

 今までの三浦しをんと全然違くて、吉田修一が『悪人』を書いたときみたいな感じ......おふたりともそんな感想を漏らしていたのだが、私は当然まだ読んでいない。

 ついでにいうと数週間前まで、多くの書店員さんが『TOKYO BLACKOUT』福田和代(東京創元社)で騒いでいた。こちらもそろそろ発売になる頃の本だと思うのだが、乞うご期待!

 さて、その青山ブックセンターでは、「アメリカ」フェアというのが開催されていたのだが、「これが一番売れてます」とPOP付きで紹介されていたのが、『ディズニーランドという聖地』
能登路雅子(岩波新書)だった。確かに面白そうな本である。

 そして本日は青山ブックンセンターの本店を訪問したのであるが、棚替えされていてびっくり。文芸書が真ん中に移動されていた。担当のAさんにお話を伺うと「レジ前でバタバタせず、ゆっくり選んでいただこうと思って」とのこと。なるほど。

 また青山一丁目のR書店ではTさんから面白いジャンルの分け方を教わる。それはどこで読まれる本あるいは作家か? という分け方なのであるが、家本、通勤本、出張本など。

 ○○さんはまだ通勤本作家だけど、そろそろ家本作家になれるかな?なんて感じで話をしていたのであるが、非常に面白い分け方だと思う。

 最後に訪問したのが成城学園の三省堂書店さんだったのだが、ここは営業というより、サイン本作り。日本一無鉄砲な店長Uさんが「『「本の雑誌」炎の営業日誌』のサイン本を作りに来て!」ととんでもないことを言い出し、もちろん断ったのであるが、「私が責任を持ってこの20冊は売り切りますから!」と胸を叩くので、仕方なく、本邦初・営業マンのサイン入り本を作成したのであった。

 もしサイン本が欲しいという奇特なお客様がいらっしゃいましたら、成城学園の三省堂書店さんか、お茶の水の茗渓堂さんへどうぞ。

 熱がだいぶ下がったので、夜は「おすすめ文庫王国2008年度版」の対談まとめを遅くまでやり、けりを付ける。編集部は「本の雑誌」12月号の下版作業中のため、ぴりぴりしている。触らぬ編集部にたたりなし。

10月27日(月)

 先週の火曜日、夜6時過ぎ。営業を終え東京駅八重洲中央口の改札にSuicaをタッチさせようとした瞬間猛烈な立ちくらみに襲われた。思わず改札機に手をつき、中途半端なところで立ち止まってしまい、後ろから来たビジネスマンに舌打ちされた。私は前後左右上下すらわからないまま足を動かし、改札機を抜け出した。しばらくコンコースに座り込み、めまいが治まるのを待った。

 私はそれを空腹による立ちくらみだと思って、意識がしっかりしてからKIOSKに向かい、スニッカーズを買った。「お腹が空いたらスニッカーズ」。中央線に乗り、むさぼるように甘いだけのお菓子を食ったのである。

 その翌日は浦和レッズサポにとって悲劇の一日になるのだが、私は両足が痛いことに気づいた。いや痛いというより、重いのである。まるで囚人につけられる逃亡阻止用のおもりを引きずっているような感じなのである。

 そこでも私は間違いをおかした。その重さを筋肉痛だと思っていたのだ。なぜなら宮田珠己さんの影響ではないけれど、私も有酸素運動をしようとこの1ヶ月、深夜にランニングをしていたのである。それが昨夜、妙に走れるようになった自分にうれしくなり、過去最高タイムで走りまくった影響だと思ったのである。とにかく重い足を引きずりながら常磐線を営業し(ここで訪問した新松戸のR書店のTさんや、K書店のHさんは翌日のサプライズ出版記念パーティーに出席した書店員さんなのであるが、私にそのことをばれないよう相当ひやひやしていたようだ)、埼玉スタジアムに向かったのである。

 埼玉スタジアムはワンダーランドなので、どんな病気も治ってしまう。そこにいる間は足の痛みを感じなかった。

 事件が起きたのは木曜日である。
 足は依然重いのであるが、その重さが全身に達しているのだ。これは筋肉痛ではないのではないか。この日も普通に営業したのであるが、途中息切れがでるほどのふらふらなのであった。夕方会社に戻り、何気なく体温計で熱を測ってみるとなんと39度と表示されたではないか。私は平熱が35度と異様に低いため、この39度は常人でいうなら40度である。とても飲み会どころじゃないのである。

「俺、早退するわ」

 そう言ったときの浜田の顔をいま思い出すと妙に笑えるのであった。
 なぜから私が単なる飲み会だと思って、そのときキャンセルのメールを送ろうと思っていたのは、実はどっきり出版記念パーティーだったからだ。まさか主賓が病気なるというのはシナリオには含まれていなかったのだろう。いつもは「早く帰れ!」という浜田が、「そこの病院はやっているからすぐ行け、いま行け!」と背中を押したのはそういうことだったのだ。

 変に優しいなと勘ぐることなど39度の私には出来ず、病院に向かったのだが、なんと休みであった。私は病院の前で倒れそうになったが、最後の力を振り絞って薬局に向かい、風邪薬を買った。あわててそれを飲んだら、今度は一気に楽になる。楽になるどころか汗が止まらず、まるで真夏のように髪がビショビショになってしまった。どうなっているんだ?(あとで気づいたのだが薬の量を間違っていた)

 とにかくそうやってどっきり出版記念パーティーを乗り越え、金曜日を迎えたのであるが、その金曜日もふらふらになって営業していたら妻からメールが届いた。娘が熱を出したので病院に連れて行ったとのことだった。今日は遠足に行ったはずなのだが、ずーっと先生と休んでいたという。私がうつしてしまったのだろうか。

 家に帰ると娘は既に寝ていたが、額を触ると38度の私でもその熱さにびっくりするほどであった。

「いちおう点滴を打ってもらったんだけど、泣いちゃって大変だったわ」

 妻も相当疲れた様子で、私の食事を用意するとすぐ寝室に向かい、しばらくすると寝息をたて始めた。

 土曜日、私は病院に行き、その後は娘と一緒にずーっと寝ていた。明日の日曜日、我が浦和レッズを応援するため新潟へ向かう予定だったのだが、どうもそれどころではないようだ。相変わらず熱は下がらないし、喉が痛い。その症状は娘もまったく一緒であった。ごめんな。

 iPodで、James Morrisonの新譜「Songs for You, Truths for Me」を聞いていたら、娘が布団に足を入れて来た。その足はまだはっとするほど熱かった。私はiPodを止め、娘の方を向くと

「パパ、私とパパっていつも一緒に風邪ひくよね」

 それはおそらく私がうつしているからなんだろうけど、私は黙っていた。

「本当に仲良いよね、私たち」

 娘はそういって、何か悪戯した後のように笑った。

10月24日(金)

 昨夜は、ネット書店A社のHさんとK出版社のTさんと酒を飲む予定で新宿・池林房に向かったのだが、池林房の扉を開けたら、オーナーの太田トクヤ氏が立っていた。

「今日は貸し切りだからダメだよ」

 Tさんが予約を入れたはずなのに、それはないんじゃないか、ちゃんと調べてくださいよ。腹立ちながらトクヤ氏に食ってかかったが、「入れない」の一点張り。そうやって入り口で揉めつつ、満員だという店内をのぞくと、なぜか本の雑誌社のスタッフとWEB本の雑誌のスタッフが座っているではないか。本の雑誌社のスタッフは、私が会社を出るときにはまだ会社にいたので、まずはじめに私は四次元空間に入り込んでしまったのではないかと思った。

「なんで杉江が来たんだよ」

 発行人の浜本の叫び声が聞こえ、これは私をハブにした「WEB本の雑誌」のリニューアル飲み会が行われているのだと思った。たまたま両者が同じ日に池林房を予約したのだ。その瞬間ふざんけんじゃねーと怒鳴りそうになったが、あまりに情けないので別のお店に行こうと振り向くと、座敷に見慣れた顔がいるではないか。

 そこには日頃お世話になっている書店員さんと出版営業マンと元・助っ人がたくさんいた。
 時空がゆがみ、倒れそうになった。
 そして私は気づいたのである。
 そこが、私の出版記念パーティーの会場だと。

★    ★    ★

 こんな日記を書いたり、その結果本を出してしまったりしたのであるが、私は目立つのが大嫌いである。だから本屋大賞の発表会では裏方に徹し、ほとんど会場に顔を出さないし、実は主賓になるのが耐えられず、結婚式も披露宴もしていないのである。

 それが本が出るとなったとき周囲の人間に「出版記念パーティしようね」と声をかけられたり、ライターであり川崎フロンターレ・サポでもある大橋博之さんから「私が幹事しましょうか?」と申し出をいただいても、いっさい首を縦に振らず、断ってきたのである。

★    ★    ★

 そういう私に業を煮やした人たちが、池林房に集まってくれたようだ。

「泣け〜」と誰かが叫んだが、泣くどころか驚きで胸がいっぱいであった。今までの人生、人を騙す方にばかりいたので、この状況が頭で理解できても、気持ちの整理がつかない。

 それでも僭越ながら挨拶の指名をさせていただき、まずこの本が出る出会いを作っていただいた、地方小出版流通センターの門野さんに、乾杯の挨拶をしていただいた。門野さんはいきなりの指名にも関わらず、大きな声で祝ってくれた。

 そしてここに来ていない人も含めて、あまりに多くの方から届いたプレゼントは、なんと『「本の雑誌」炎の営業日誌』への手書きPOPをきれいにファイリングした「楽しい杉江」というファイルであった。本屋大賞の賞品で一番作家さんが喜ぶのが、会場いらしていただいた書店員さんなどによる手書きPOPなのであるが、まさにそれと同じものが私の目の前にあった。

 1枚1枚めくっていくと、なぜこんな人まで?と驚くような人からも届いていた。一人ずつ名前を挙げてお礼を言いたいところだが、とにかくみなさんありがとうございました。そしてPOP以上におそらくこのファイルを作るのが大変だったと思うのだが、こちらも本当にありがとうございました。

 そこへ編集長の椎名さんから電話が入る。もはや私の目は涙でいっぱいであった。「おめでとう。お前よくやってるよ」とほめてくれた。実はこの日の朝、沢野さんからも気持ちのこもったFAXをいただいていたのだ。私にはもう何も言葉がない。

 中締めの挨拶は、我が師匠のひとりである、リブロの矢部さんにお願いした。矢部さんは「ここに集まった書店員の力をあわせて、杉江君の本が重版がかかるようがんばりましょう」と声をかけてくれた。

★    ★    ★

 本日、そんな話を上智大学の授業を終えた高野秀行さんに話すと「ね、本を出すといいことあるでしょう」と笑うのであった。その高野さんは、ブログで私のことを同士と呼んでくれたのである。

 私は、やっぱり、本の力を信じている。
 とことん信じているのである。

10月18日(土) ぼくのJリーグ・ライフ

 有料道路を自転車で渡ると料金所のおじさんから「ALL COME TOGETHER! 再びあの場所へ、共に闘おう」のポストカードを渡される。

 しかし今年は結局「共に闘う」ことができなかった一年なるのではないか。後半37分、神戸のレアンドロのゴールが決まったときリーグが終わった。まだ終わっていないと怒られるかもしれないが、やっぱり終わったと思う。もちろん闘い続けるけれど......。

 私は、今年初めてスタジアムで泣いた。

10月17日(金)

  例によって上智大学の高野さんの授業。今回はタイの伝統音楽家・アドゥンはタイ人ですさんがゲスト。

   高野さんの授業はアジアを舞台に独特な生き方で活躍される人がゲストとなり高野さんと対談されるのであるが、おそらく高野さんは学生にいろんな生き方があるんだよということを伝えたいのであろう。しかしである。学生がやられる前に私がやられそうなのである。まだ2回なのに、ゲストの方々があまりに強烈に、あまりに自由に生きているのに、もはやノックアウト寸前なのである。これからあと10回も授業があるのだが、おそらくそれらすべてを終えた頃、私は本の雑誌はおろか日本にもいないのではなかろうか。恐ろし過ぎる授業である。

10月16日(木)

ばかもの
『ばかもの』
絲山 秋子
新潮社
1,365円(税込)
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 そろそろ「本の雑誌」のベストテンを決める座談会が開催になるので、今年読んだ本のなかで面白かった本をリストアップしていたのだが、それらのリストを蹴散らすすごい小説が出た!

『ばかもの』絲山秋子(新潮社)である。これはおそらく山本文緒『アカペラ』(新潮社)と同テーマになるであろう小説だと思うのだが、「バカ!」でも「バカヤロー!」でもなく「ばかもの」なのは、そこに愛情があるからだ。心配してくれる人がいるというのが、人間を救う大きな手がかり足がかりなのである。そう考えると誰もが救われ、救うことができる世の中なのではないか。

 そんな小賢しいことなんてどうでもよく「やりゃーいーんだろー、やりゃー」とバサバサと服を抜いてセックスに向かう額子と、「でも俺、下手だろ」と不安げに聞く年下のヒデ。ふたりの出会いと別れが恋愛という枠を超えたところで描かれる傑作である。私はこういう小説が今一番好きだ。

 魂の復刊!『新装改訂版 本の雑誌風雲録』の見本を持って取次店廻り。

 会社に戻りがけにジュンク堂書店新宿店をのぞくと、POPというか看板に『「本の雑誌」炎の営業日誌』がどでかく書かれているではないか。レッズファン。うんうん。ひとり営業。うんうん。小遣い少々。......それは秘密である。

 それはともかく私はこの恩にどう答えたらいいのだろうか。いやこのお店だけではない。本来であれば店頭に並ばず客注対応で済むような本を、多くの書店さんが店頭の、それもとても良い場所に並べてくれている。ときわ書房船橋本店では新刊平台の角に宇田川さんが並べてくれていた。それどころか銀座の教文館ではYさんが名物の銀座通りの面陳棚に並べてくれているらしい。

 私は本当にどう恩返ししたらいいのかわからない。感謝の気持ちを伝えることしか出来ない。
 ありがとうございます。


 夜はジュンク堂書店池袋本店に向かい、『おかしな時代』出版記念、津野海太郎さんと平野甲賀さんの対談。偉大なふたりのはずなのに、「プロになりきれなかった」という発言が飛び出し、いやはやそれなら私はどうしたら良いのか。会場に来ていた坪内祐三さんの質問が素晴らしかった。こちらもさすが坪内さんである。

10月15日(水)

本の雑誌風雲録[新装改訂版]
『本の雑誌風雲録[新装改訂版]』
目黒 考二
本の雑誌社
1,890円(税込)
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サッカーボーイズ  再会のグラウンド (角川文庫)
『サッカーボーイズ 再会のグラウンド (角川文庫)』
はらだ みずき
角川グループパブリッシング
540円(税込)
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サッカーボーイズ13歳―雨上がりのグラウンド
『サッカーボーイズ13歳―雨上がりのグラウンド』
はらだ みずき
カンゼン
1,470円(税込)
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『サッカーボーイズ』の著者はらだみずきさんと来年から「本の雑誌」に連載していただく、サッカー小説の打ち合わせ。ついにここまで辿りついた、とまだ1本も原稿をいただいていないのに、なぜか感慨深い。サッカーグラウンドを中心にした市井のサッカー選手や周辺の連作短編になる予定なのだが、これで連載の2年間と単行本をつくることになる1年、計3年間の楽しみが出来たというものだ。

 興奮を抑えながら『新装改訂版 本の雑誌風雲録』の事前注文〆切日なので、あちらこちらとじぐざぐ営業。夕方会社に戻って締め作業をして、夜は会社の応接まで『おすすめ文庫王国2008年度版』の対談収録。

10月14日(火)

 サッカーのない休日がこれほど平穏だと思わなかった。

 阿佐ヶ谷のS書店を訪問すると店長のMさんから開口一番に「株どうなってる?」と聞かれる。たぶん私が出版営業の職に就いてから15年以上経つが、株のことが話題になったのは初めてなのではないか。もちろん私もMさんも株を売り買いしていない。ただ今回の大暴落が、消費に影響がでるのは間違いなく、その点で確かめられたのだと思う。ずっと向こうにあると思っていた経済が、実は自分のことであるという実感ができつつあるのではないか。たまたま夕刊紙の見出しで、「株価急上昇」と出ていたのを見ていたので、それを店長さんに伝える。

 出版の面白いところは、こういうマイナス局面も商売になるということだ。例えば今現在経済小説が売れているようだし、おそらく今後は不況下、恐慌下での生き方のような本も売れるだろう。また今回の問題をレポートしてものもたくさん出てくるだろう。そういう意味ではどんなときでもビジネスになるネタがあるのだが、大元の財布の中身が空っぽでは買われないのだが。

 吉祥寺のリブロを訪問すると『ぼくは猟師になった』千松信也(リトルモア)のフェアとともに本物の罠が置かれていた。すごい!

10月10日(金)

「本の雑誌」炎の営業日誌
『「本の雑誌」炎の営業日誌』
杉江 由次
無明舎出版
1,680円(税込)
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石塚さん、書店営業にきました。
『石塚さん、書店営業にきました。』
石塚 昭生
ポット出版
2,100円(税込)
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 上智大学の高野秀行さんの授業に向かっていると、無明舎出版の安倍さんから会社宛に届いたメールが携帯に転送されてくる。

「いよいよ今日ですね。おはようございます。地方小には今日届いてますが、そちらには明日、会社着で手配してますが、よろしかったでしょうか。長い間、ご苦労様、といいたいところですが、著者としては、これから疾風怒濤の日々になるかも。体調管理は万全に。」

 いつの日も体調管理だけは万全なのだが、おそらく疾風怒濤の日々は来ないであろう。何せ新刊は年間7万点は出ているのだ。

 しかしなんだ。明日は土曜日だから私の手元に届くのは、3連休明けの火曜日か。それまで待つのはつらすぎる、というわけで高野さんの爆笑授業を受けた後、地方小出版流通センターへお邪魔する。もちろんこちらにあるのは商品だから、私は購入するのである。著者にして一番最初のお客様になってしまったではないか。

★   ★   ★

 というわけで、5月21日に安倍さんとお会いし、打診され、了承し、ゲラと格闘した3ヶ月を経て、『「本の雑誌」炎の営業日誌』(無明舎出版)が出来上がってしまった。

 こちらには2004年以降2008年5月21日までの当日誌のなかから、安倍さんが選んだものが掲載されていている。基本的には、本の雑誌社の人間模様を中心に、サッカーや家族、出版業界のことだ。これだけははっきり言っておくが、出版営業のマニュアル書だと思って注文してはいけない。なぜならしょっちゅうサッカーで直帰しているようなやつにマニュアル書なんて書けるわけがない。そういうものを求めている人は『石塚さん、書店営業にきました。』石塚昭生(ポット出版)を読むことをおすすめする。

 じゃあ誰が読むのか。
 それがわからないのだ......。

★   ★   ★

 先ほどまで一緒にいた高野さんは、「いやー本が好きなら好きなだけ、自分の本ができあがってくる瞬間はうれしいもんですよ」と話していたが、確かにゲラでもなく、またネットでもないこの「本」という物は、私にとってもあまりに重みのある物体であった。うれしいけれど、恥ずかし過ぎる。とても直視できない。直視できないけれど、私が色と認める3色(赤と黒と白)で構成されたデザインはすてき過ぎて、思わず浦和レッズ本として並べたくなってしまうではなかろうか。

 ちなみに私の友人は、帯が最高ですと言っていた。それから私の両親はイラストがいいと言っていた。最後に椎名さんは出版社が良いよなと握手をしてくれた。

 中身をほめる人、絶賛募集中。

10月9日(木)

なみのひとなみのいとなみ
『なみのひとなみのいとなみ』
宮田 珠己
朝日新聞出版
1,575円(税込)
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 本を借りに宮田珠己さんのところへ。

「有名になりたいとかそういう気持ちはまったくなく、ただ金持ちになりなかったのと、他人のお金で旅行に行きたかっただけなので、『WEB本の雑誌』の「スットコランド日記」のボタンをスクロールしないと見つけられないようなところに移動してくれませんか。あと『本の雑誌』の連載も後ろの方でかまいませんので......」

 あれだけ面白いエッセイ『なみのひとなみのいとなみ』(朝日新聞出版)を書いておきながら、宮田さんはどこまでも及び腰なのであった。

10月8日(水)

 浜田に頼んでもらったiMacが届く。しかしそれを置くスペースが机にない。脳内ブルドーザを出動し、机の上のものを一気に捨てる。もしかしたら大事な書類もあったのではないかと思うが、見なかったことにする。

 さてこれから1週間かけてセッティングだと思ったら、何やら今まで使っていたiMacと線で繋げと指示がでる。あわててつなぐとぐぐぐっと音がして、なんと1時間後には今まで使っていた状態が、新しいiMacに転送されているではないか。快適だけど、恐ろしすぎる。こんなのが人間に対応できたら引き継ぎも楽ではないか。

 昨日訪問した横浜のY書店Iさんが「売れる本の情報を探してくるのが大変なんですよ」と漏らしていたのだが、本当にここ数年で書店員さんの仕事は変わってきたと思う。

 ネットやSNSを駆使し、これから出る本や出た本の情報を収集し、どこでどんな風に売れているのか分析する。そしてそれを自店の売り場で展開していく。あるいはそこで知り合った書店員同士で、共同フェアを展開していたりする。また文芸書ではゲラがふつうに配られるようになり、本として出る前にだいたいの予想がつけるようになった。いや『告白』湊かなえ(双葉社)のように、ゲラ配布段階で書店員のプロジェクトチームのようなものが結成され、双葉社と展開や装丁の相談などをしていたりする。もはや本を並べること以上に、そういうことが重要なのかもしれない。いや本を並べるためのそういうことなのか。

 そうなると出版社の営業の仕事も変わってくるのだろうか。

10月7日(火)

おかしな時代
『おかしな時代』
津野 海太郎
本の雑誌社
2,940円(税込)
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 浜本が気合いを入れまくって作った新刊『おかしな時代』津野海太郎著の追加注文が早速飛び込んできて、週末の在庫が心もとないお店に直納する。「いい本は売れるのだ」と浜本は笑っているが、その出版記念イベントをジュンク堂さんで10月16日(木)に開催します。

★    ★    ★

 しかしこの『おかしな時代』は、置き場所がお店によっていろいろ違うので面白い。

 内容的には本や書評のコーナーに並べられるかと思っていたのだが、帯に「そしてサブカルチャーが生まれた。」とあるせいか、サブカルコーナーにおかれているお店が、実は一番多かったりする。

 それも間違いではないのだが、同じ「サブカルチャー」という言葉でありながら、この数十年で、サブカルチャーの意味がかなり変わってしまっているので、なんだか妙に浮いていておかしい。また、あるお店で、どうしても見つからなかったので検索機を叩いて探したところ、演劇コーナーにあって驚いた。いやそれも間違いでなく、アングラ劇団や黒テントのことが書かれているから正しいのだ。果たしてどこに置くのが、一番売れていくのか、現在調査中である。

 渋谷のY書店さんで、どうも棚の隙間から漆黒の闇の匂いがすると思ったら、レッズサポ仲間のS出版のHさんがいた。お互い千葉戦の悲しみを引きずりながら営業しているのだ。頑張れ! 俺たち!

10月6日(月)

 まったく仕事をする気になれず、ぼんやりと過ごしていたら、パソコンもやる気がなくなったらしく、突然電源が落ちる。お前もレッズサポだったのか。

 この半年、週に一度は落ち、悪戦苦闘して復活させていたのだが、今日は何だか治りが悪い。しかも治ってもまたしばらくすると電源が落ち、これはもはや寿命だろう。10年近く使っているiMac。人間の年齢で言えば80歳くらいだろうか。浜本をどうにか拝み倒し、「価格ドットコム」を見るのが趣味の浜田に発注を頼む。

 私の希望は今のiMacなのであるが、新人編集者のタッキーが近寄って来て、「ノートパソコンの方がいいんじゃないですか? 家でも仕事できる」と言ってくるではないか。すると助っ人の青野も寄ってきて「そうですよ。ノートパソコンがいいですよ、外でも仕事できるし」と言い出す。こいつらはよほど私に会社に来て欲しくないようだ。

 一刻も早く私はiMacが欲しいのだが、夜になっても浜田が注文してくれない。
「これ、グラフを見ると毎日少しずつ安くなっているんですよ。新型がそろそろ出るからですかね。うーん、じゃあ、明日もっと安くなるかも。とりあえず様子みましょう」

 浜田はきっと様子を見続けて、今の人生を送っているのだろう。
 たまにはドーンと行ってみようではないか。

10月5日(日) ぼくのJリーグ・ライフ

 中山競馬場に向かうおっさん達の群れに混じり、武蔵野線、京葉線と乗り継いで辿りついたフクダ電子アリーナ。しかしその移動時間よりも短く、我が浦和レッズのゴールにボールが突き刺さっているではないか。開始20秒。なんじゃそりゃ。

 そこから一度同点にしたが、ピッチで繰り広げられる浦和サッカーには、夢も希望もない。「残留」の大段幕を掲げたジェフユナイテッド千葉・市原に2対3で敗北。うなだれる阿部の姿を今年はいったい何度見ただろう。

 私のマブイはどこへ消えていく。

10月3日(金)

 辺境作家・高野秀行さんが上智大学で講義をするというので、勝手に助手としてついていく。私の頭のなかには壮大な計画はあるのだが、それはまだ先の話。教室には50人近い学生が集まり、「面白いことは全てに優先する」と宣言し始まった授業に、時間とともに学生が真剣になっていく姿が興味深かった。

 いや実は私がほんとうに興味深かったのは、学生そのものであり、大学生活である。

 私は大学に行っていない。教科書も買わないで過ごした高校時代を終えて、何かの手違いもあるのではと10校ほど受けたのであるが、大学は手違いを起こすことなく合格発表の掲示板に私の番号が掲載されることはなかった。

 それから浪人生活に入ったのだが、その瞬間に「俺は勉強が嫌いだ」と気づいてしまい、また大学でやりたいことはあるのか?と悩みだし、キャンパスライフなんて糞だと思い込んで、2カ月で浪人を辞め、働き出してしまったのである。

 18歳の私よ、お前は浅はかだった。
 キャンパスライフ、ものすごい楽しそうではないか。

★    ★    ★

 午後からは営業マンに戻る。

10月2日(木)

詩羽のいる街
『詩羽のいる街』
山本 弘
角川グループパブリッシング
1,890円(税込)
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 我が本を出版してくれる無明舎出版のホームページには、安部さんが連載している『今日の出来事』という日記がある。『「本の雑誌」炎の営業日誌』の出版が決まってから毎日覗いているのだが、何だか我が本の出版が近づくに従って文面が暗くなっているのは気のせいだろうか。いや気のせいではない。現に10月1日の日記ではこんなことを吐露しているのである。

「10月のスケジュール表にあれこれと書き込んでいたら、けっこうハードな日々が続くことがわかった。ハードというのは資金繰りも含めての意味だが、先月に引き続き新刊も4冊出る。まだ販促してない新刊もあるというのにどうしよう。販促と新刊のバランスをどうとって行くか、それが問題だ。あせらず冷静に、そして大胆に。」

 そういえば安倍さんに伝え忘れていたことがあった。
 私が就職した会社は不況が訪れるのである。現に前いた会社も本の雑誌社も私が入社するまで社員旅行なぞがあったのに、入社以来旅行どころか散歩もなくなっているのだ。おそらく無明舎出版も私こと疫病神に取り憑かれることになるのではなかろうか。疫病神を振り払うには、お布施代わりに初版部数を増やすという手があるが、大胆に冷静に判断してもらいたい。

 通勤読書は『詩羽のいる街』山本弘(角川書店)。読了後、タッキーにプレゼント。
 沢野さんからリュックがふたつ送られてくる。中には山の道具と帽子が10個。山女化した浜田が喜んでいた。

 お茶の水の茗渓堂へ新刊『おかしな時代』津野海太郎を直納。坂本克彦さんとお話。
『辺境の旅はゾウにかぎる』高野秀行がよく売れるから読んでみたけど、面白いねー」。うれしいかぎり。

 駅前の丸善さんへ。こちらでは昨日から「出版営業マンが"仕事を忘れてしまう"ほど夢中になった1冊」というフェアをやっていて、いつも仕事を忘れてしまう私も自社本と他社本を1冊ずつ推薦させていただいている。このフェアの面白いところは11社の営業マンが参加しているのだが、いちばん売れた営業マンは、その後1ヶ月間棚を占領することができ、好きなフェアをしていいというところ。勝ちたい。

 その後は坂を下って神保町と半蔵門線を営業し、会社に戻る。

10月1日(水)

 9月に8周年を迎えた「WEB本の雑誌」は、リニューアルやサーバーの移行などで大忙し。本日どうにか無事サーバーの移行が終わり、これから新しいコンテンツが随時始まっていきますので、よろしくお願いします。

 夜、聖地巡礼があるので、埼玉を営業。浦和のK書店を訪問すると、すでに聖地へ向かう赤い人がいて気が焦る。仕事、仕事と呟きつつ、さいたま新都心へ避難。

 こちらのK書店では古くからお世話になっているHさんがいるのだが、なんと本日訪問したらマタニティーの制服を着て、棚差しされているではないか。もしやとお伺いすると、そのとおりで、それはそれで大変喜ばしいことなのだが、出産が近づいたら退職されるとのことで、淋しいかぎり。

 直帰して、駒場スタジアムへ。

 これが聖地かと思うような酷い芝で、選手も苦しそうであったが、ここは勝たなきゃいけないだろう! 結局、長谷部と小野を同時に手放したツケを今年は埋めることが出来ずに終わるのか。

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