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12月26日(金)

 本日で仕事納め。
 皆様、今年一年ありがとうございました。
 
 来年はとにかく人生で一番頑張るときだと思ってます。
 「本の雑誌」をよろしくお願いします。

12月25日(木)

 明け方、娘に起こされる。

「パパ、サンタ来たよ、プレゼント入ってるよ」

 昨夜「サンタが来るまで起きている」といいつつ、あっけなく寝てしまった娘が興奮気味に話す。

「何が入ってる?」

 私が買って枕元の袋に入れたのだから、中身も分かっているのだが、寝ぼけながら必死に演技したのである。

「えーっとね、やきそばとたぶん私が言ったコナンだと思う」

 即席のやきそばを入れたのには理由があって、昨年のクリスマスに何が欲しいと聞いたのを娘はすっかり何を食べたいと聞かれたのと間違えてラーメンと答えたのであった。それでわざと即席ラーメンをDSのソフトと一緒に包装してプレゼントしたのだが、娘が包み紙を解いたとき目についたのがラーメンだけで泣き出してしまったことがあったのだ。

 まあ今となっては笑い話なのであるが、それ以来うちに来るサンタは少し頭がおかしいということになっている。

 娘はまだ日もろくに昇っていないのに我慢ができず、居間の電気をつけ中身を確かめに行った。
「やったー、コナンいっぱいだよ」

 大きな声で叫ぶと今度は息子の枕元を確認し
「ごうちゃん! プレゼント来てるよ」と息子を叩き起こした。

 頭をくしゃくしゃにした息子が起き上がり、枕元の袋を確認するが、自分では包装紙を開けられず、おねーちゃんに開けてもらっていた。

「おー、レスキューフォースの本ら。サミットで欲しかったんら」となぜか伊豆地方の人のように語尾が「ら」になる息子は、跳ねるように叫んだ。

 しばらく居間で興奮していたふたりはまた寝室に戻ってきた。すると妻の枕元にもプレゼントが置かれていることに気づき、妻を起こした。

「ママ、ママにもプレゼントが来てるよ!」

 演技もへったくれもない、いつでも寝不足な妻は、ふーんと言ってまた布団をかぶった。

 そういえば昨年は大きな袋に家族全員のプレゼントをいれたのだ。それを娘はひとりひとり渡しながら、どうしてパパにはサンタがプレゼントを持ってこなかったんだろうと嘆いていたのであった。結局、今年もパパである私には何もプレゼントが来なかった。
 
 しかし、娘と息子が天窓から日が昇りだした空に向かって、大きな声で願ってくれた。
「サンタさーん、プレゼントありがとう。来年はパパにもプレゼントお願い!」

12月24日(水)

北の人名録 (新潮文庫)
『北の人名録 (新潮文庫)』
倉本 聰
新潮社
500円(税込)
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狂気な作家のつくり方
『狂気な作家のつくり方』
平山夢明,吉野朔実
本の雑誌社
1,575円(税込)
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 通勤読書は文庫になった『北の人名録』倉本聰(新潮文庫)。
 倉本聰氏と富良野の人々の交遊を描いたエッセイ集で、単行本で何度も読んでいるけれど、何度読んでも面白い。

 私は理想が叶うなら北方の雪に囲まれたところで暮らしたい。夜、眠れない日などは布団にくるまって雪山にいる姿を想像したりしているのだが、そのことを先日の忘年会で話したらびっくりされた。他の3氏は、みな暖かいところに住みたいそうだ。なんだろう。

 用があって、兄貴に電話すると、「なんだって? レッズのユニフォームを着て、本屋さんでバイトするんだって? 俺ちょうどその日中井を通るから行くよ」とのこと。なぜか先日のイベントの反応も知っていて、もしかして兄貴は私のストーカーなのではないか。どちらにしても、兄さん、来なくていいです。

 その12月30日のアルバイトに関して、雇い主の伊野尾さんが素敵な告知を作ってくれた。そこにあるとおり、当日一日かぎりの「一箱本の雑誌市」を開催します。椎名さんや沢野さんのサイン本を用意しましたので、ご興味のある方はぜひ。

 告知ついでにもうひとつ告知すると、いつでるんだ? もう出ないんじゃないか! 『アメリカの夢の機械』の二の舞かと言われていた『狂気な作家のつくり方』平山夢明×吉野朔実がついに出でることになり、待望の刊行を記念して公開対談をします。こちらも、ぜひどうぞ。

 一日中社内で、もろもろのデスクワーク。

 そういえば今朝来たとき、コピー&FAX機の電源がなぜか抜けていて、昨日の分のFAXが受け取れなかった。現場検証と聞き取り調査をしたところ、浜本がコードに蹴つまずいて抜けてしまっていたようだ。犯人逮捕。おやつ取り上げの刑に処す。

12月22日(月)

 恵比寿の有隣堂さんへ『おかしな時代』を直納。

 各紙誌の年末ベスト企画で取り上げられ、ここに来てまた売行きがよくなっているのだ。いつもは逆のことばかりなのでとてもうれしい。ちなみにこちらの有隣堂さんでは『THE BEST BOOKS OF THE YEAR 2009』と題して、出版社と有隣堂の有志の方々が選んだ今年のベスト本がPOP付きで並べられていた。

 夜、本屋大賞実行委員会の会議までに時間があったので、家族のクリスマス・プレゼントを買う。今年はDSソフトを却下し、内需拡大路線。娘には最近はまっている漫画『名探偵コナン』青山剛昌(小学館)の3巻〜10巻を、息子にはすっかり心を奪われている戦隊ものレスキューフォースの絵本を購入。妻は本を読まないので、手袋とマフラーを買う。私にもサンタクロースが来ることを祈る。

 雨降るなか、本屋大賞の会議。一次投票が既に始まっているのだが、投票はまだ少ない。
 いつもどおり心休まらぬ年越しだ。

12月19日(金)

くう・ねる・のぐそ―自然に「愛」のお返しを
『くう・ねる・のぐそ―自然に「愛」のお返しを』
伊沢 正名
山と溪谷社
1,575円(税込)
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悶々ホルモン
『悶々ホルモン』
佐藤和歌子
新潮社
1,365円(税込)
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もう1杯!!―『酒つま』編集長大竹聡のチャランポラン酒場歩き
『もう1杯!!―『酒つま』編集長大竹聡のチャランポラン酒場歩き』
大竹 聡
産業編集センター
1,470円(税込)
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 通勤読書は『くう・ねる・のぐそ--自然に「愛」のお返しを』伊沢正名(山と渓谷社)であるが、これは電車のなかで読むような本ではない。いやどこで読んでもビックリすると思うのだが、この本、キノコから野糞に興味を持った著者の、野糞への偏愛ぶりをとことん語ったとんでもない1冊なのである。

 何がとんでもないって、数十年に渡る野糞を克明に記録しているのはもちろん、なんとなんと袋とじで野糞がいかに土に返るかまで収録されているのだ。まさに奇書中の奇書。いやーびっくり仰天すごい本ナンバー1間違いなし! すっかり時の本となった『ぼくは猟師になった』千松信也(リトルモア)と並べるといいのではなかろうか。

 午前中はその糞土師と面識があるという高野秀行さんの授業。お相手が沖縄人だけで撮った映画「琉球カウボーイ、よろしくゴザイマス。」のプロデューサー井出裕一氏であった。「明日のことは考えてない」と今までのこの授業の対談相手が絶対に漏らす一言を漏らしつつも、沖縄と映画に対しての愛情は半端じゃなかった。

 銀座の書店さんを回るとS書店のKさんが「つい一番前に並べちゃった」と指差したのが、『悶々ホルモン』佐藤和歌子(新潮社)であった。

「ホルモン好きでしたっけ?」と問い返すと、そうではなく、あの話題となった『間取りの手帖』(リトルモア)の新作だというではないか。おお! いつの間にかホルモンの人になっていたのか。

 しかし飲み屋本は『もう1杯!!--『酒つま』編集長大竹聡のチャランポラン酒場歩き』大竹聡(産業編集センター)や『東京煮込み横丁評判記』坂崎重盛(光文社)などたくさん出ていて、読んでいるだけで酔っぱらいそうである。

12月18日(木)

QUOTATION Worldwide Creative Journal no.1
『QUOTATION Worldwide Creative Journal no.1』
Gradation Blue
ビー・エヌ・エヌ新社
609円(税込)
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 1月号の「今月のお話」や「編集後記」を読まれた方から励ましのお便りや購読の申し込み、また「たなぞう」などで活発にご意見いただき感謝感謝です。

 私がもっとも尊敬する田口久美子さんは『本の雑誌』2008年12月号「書店じたばた事件帖」の最終回で「それにしても小から大までの書店、取次、出版社、そして読者まで、これからは一蓮托生だよな、と、このごろつくづく思う。」と書かれていたのだが、私も本当にそう思う。

「これからは読者と呼ばずサポーターと呼ぼう」と社内の中心で叫んだつもりが、窓際だった。とりあえず社員、助っ人、編集長一丸となって、サポーターの皆様の期待を越える雑誌および単行本を作って参りますので、叱咤激励ブーイング抱擁購読、よろしくお願いします。

★   ★   ★

 渋谷を営業すると、リブロ渋谷店の売行きベスト1に不思議な本(雑誌?)が掲げられていて思わず手に取る。

『QUOTATION Worldwide Creative Journal no.1』

 カッコいいけれど、私にはなんの雑誌なのかもわからない。しかし1位だ、1位。
 リブロの担当者さんがお休みだったので、売行きが似ている山下書店渋谷南口店さんで話を伺うと、やっぱり売れているそうで「注文してもなかなか入ってこない」とのこと。「まあ売れる場所が限られるんでしょうけれど」と話すが、それにしたってなぜ渋谷で売れているのか気になるところ。

★   ★   ★

 夜、ジュンク堂書店池袋本店に向かい、なんと本日は私自身の出版記念イベント「炎の営業VS魂の編集(笑)」なのである。日頃、入り口で本の販売などしている身なのであるが、本日はなんとど真ん中に座って話さなくてはならない。しかもどうせお客さんは見知った顔で飲み会の延長でいいかと思っていたのだが、知らない人がいっぱいいるし、なぜか作家の大崎梢さんはいらっしゃるし、大宮アルディージャのゴール裏よりも密集しているではないか。参った。

 脇腹についているテンションスイッチをフルに上げ、魂の編集者・新井久幸氏(新潮社・編集部)に肉薄する......つもりが、テンションを上げすぎてなんだかわからないことになってしまった。イベントにいらしていただいた皆様、ありがとうございました。

12月17日(水)

 すでに一次投票の受付が始まった本屋大賞は、今年で6回目。

 元々は飲み会で「1回やってみない?」で始まり、それが思いのほかというか、ぶったまげるほど反響があってやめられなくなり、じゃあ5回を目標に頑張りましょうとなったのである。実行委員一同は、年々増していくプレッシャーや毀誉褒貶、予算不足と戦いつつ、ついにその目標である5回を今春達成したのであった。

 私はてっきりこれで終わりかと思い、伊坂幸太郎さんが帰った後の楽屋でひとり泣いていたのだが、打ち上げ会場に行くと来年の話がそこかしこで語られているではないか。しかもそのそこかしこで語っている顔がやけに楽しそうなのである。もしやこれはやめられなくなるのではないかと出口に向かったのであるが、そこは出口ではなく、実行委員の高頭さんや白川さんがいるテーブルであった。そして気がついたら、私も来年の話を笑顔でしていたのであった。

 11月1日、エントリー書店員さん向けにこのような文章を送り、6回目をスタートさせた。
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6年目も、ありました。

5年を目標に頑張ってきました本屋大賞ですが、やっぱりこれは楽しいお祭りなので辞めるわけにはいかないと、改めて10年を目標に頑張ることにしました。でも初心は変わらず、です。面白い本をお客様に届けたい。もう一押しすれば絶対伸びていく作家や作品を推薦する。そうやって書店店頭を活気づけていく。その繰り返しがこの5年だったわけですが、来春、その歴史に名を刻む作品を決めるのは、みなさん書店員さんであります。ぜひ、奮って投票にご参加ください。
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 しかしである。
 過去5回を振り返ってみると、何かが足りないのである。外文が投票できない。ノンフィクションも受け付けない。絵本も、マンガもない。それは確かに本屋大賞に足りないものであるけれど、そうではなく、もっと不足しているものを感じるのである。

 それは......。
 私の投票なのではないか。
 祭りは踊らな損なわけだから、踊りたいのである。ならばどうすれば良いのか。書店員になればいいのである。

 というわけで、いつも「誰か人いないっすか?」と私を人材派遣会社の営業マンと勘違いし、しかもすっかり私もその気になって助っ人・関口鉄平くんを派遣した中井の伊野尾書店・伊野尾さんに電話したのである。

「もしもし最近、人、足りてますか?」
「いやーなかなか集まらないんですよ、特に年末が......」
「良いのがいますよ」
「じゃあ鉄平君はマジメはマジメなんですが笑顔がいまだに固いんで、今度は笑顔の素敵な人を希望します」
「おお、ちょうど良かったですよ。100万部の笑顔と呼ばれているのがいるんです」
「誰ですか?」
「私です」

 即決で決まるかと思ったが、伊野尾さんは「うーん......」と電話の向こうで唸り続けるではないか。私は鉄平より下なのか。

「ダメでしょうか?」
「杉江さんの日頃の仕事を見ていると......」

 確かに私は伊野尾さんのところでまともな営業をしたことがない。しかしそれは伊野尾さんが野球やプロレスの話をふるからであって私のせいではない。いやそんなことはないか。他のお店でも私はまもとに営業していないのだから。

「でも大丈夫ですよ、私、これでも元・書店員(アルバイト)ですから」
「それってPOSレジどころか、バーコードもない頃ですよね」
「そ、そうですけど、ピッてやるレジはジャスコのセルフレジで毎週やってますから」
「うーん......。じゃ、1回試してみましょうか?」
「試験ということですか?」
「まあそんな堅苦しく考えないでいいですよ。12月30日に入るアルバイトがちょうどいないので、その日どうですか?」

「了解しました」と言って、私は電話を切った。
 12月30日(火)、11時から20時まで、中井の伊野尾書店さんで17年ぶりに書店員になる。お暇な方どうぞ覗きに来て下さい。エプロンの代わりに浦和レッズのユニフォームを着ています。

12月16日(火)

 日曜日。私がもっとも愛する作家、高野秀行さんと宮田珠己さんの合同ファンイベント(対談)が、TKP代々木ビジネスセンターで行われた。もちろん私もそこへ馳せ参じ、お手伝いをする予定だったのだが、それどこではなくなってしまった。

 なぜなら我がサッカーチーム・FC白和の2008年最終戦がその日にあり、しかも今年からはじめたチーム年間得点王にあと1点というところに私がつけていたからだ。高野さんも宮田さんもとっても大事なのであるが、得点王はもっと大事なような気がして、お二人に謝りつつ岩槻のフットサルコートに車を走らせたのである。

 最終節を前にしてチーム内の得点ランキングはこんな感じであった。

27点 松本
26点 杉江
24点 森川
21点 上田

 FC白和はサッカーとフットサルを交互にやっているから得点も多いのだが、本来であれば1位の松本君が25歳のピチピチサッカー青年で、おまけにテクニックもダントツだからぶっちぎりの得点王になる予定であった。しかし彼はメンタルに問題があった。優しいのである。私が大きな声で「くれ〜!」と叫ぶと自分がシュートを打っても100%入る状況であろうと、パスをくれるのである。それを我がチームでは接待パスと呼んでいる。

 この日も接待パスを待っていたのだが、さすがに松本君も得点王を意識しているようでパスをくれない。くれないどころか思い切り素晴らしいシュートを打ったので、私は思わずディフェンダーになって止めてしまった。自殺点でなく、自殺クリアーである。ひどいもんだ。

 それ以外にもいつもは蹴るコーナーキックも蹴らず、ゴール前でじっとこぼれ球を待ち続け、結果3点取り、森川と並んで、得点王になったのであるが、試合は全部負けた。ロッカールームでは、20年来の親友・下沢が「ほんとうに大人げないよ」と嘆き、悪友・勝木は「杉江ちゃん、死んだ方がいい」と怒られてしまった。


★   ★   ★

 大宮を営業。
 都内では「お客さんがいない」と嘆かれることも多いが、この辺りは今のところそうでもなく、前年比とんとんで推移しているようだ。文芸書も各種ランキングものをはじめ調子が良いとか。ジュンク堂書店さんでは『おすすめ文庫王国2008年度版』がすでに去年の売上を越えており、追加注文をいただく。また三省堂書店さんもとても理にかなったリニューアルをされていて、お客さんの評判も上々だとか。

 営業後、息子の4歳の誕生日なので直帰する。
 ディーゼル10のプラレールに狂喜乱舞する息子の姿を見て、この幸せが一生続きますようにと蝋燭の炎に祈った。

12月15日(月)

熱狂のアルカディア―スポーツ・ノンフィクション選
『熱狂のアルカディア―スポーツ・ノンフィクション選』
藤島 大
文藝春秋
1,890円(税込)
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mini家計簿(シルバーピンク) 2009
『mini家計簿(シルバーピンク) 2009』
永岡書店
819円(税込)
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大暴落1929 (日経BPクラシックス)
『大暴落1929 (日経BPクラシックス)』
ジョン・K・ガルブレイス
日経BP社
2,310円(税込)
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 通勤読書は、藤島大の待望の新刊『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)。スポーツを書くことは誰にでもできるかもしれないが、スポーツを読ませることができる数少ない書き手である。

しかも収録されている取材対象者が渋くて素晴らしい。釜本邦茂、吉田義人、前田智徳、宿沢広朗、山田重雄、安田善治郎、エンツォ・マイヨルカ、原進(阿修羅原)、友川カズキ。そういえば我が本を出版してくれた無明舎出版の安倍さんは、友川カズキと親交があるといっていたっけ。

 午前中は「本の雑誌」をとことん面白くするための会議。
 いろんな案が出たが、あとはここからどう具体化していくか。

 午後は雑誌「自遊人」のNさんと打ち合わせ。

 その後は営業。
 この不景気で雑誌も書籍も売れない!と大騒ぎのなか、バカ売れしているものがあるそうだ。

 それはなんと家計簿で、本日訪問したお店どこでも「去年の比じゃない」とか。お店によって売れ筋は違うのかもしれないが、私が聞いたかぎりでは、永岡書店の「mini家計簿」が一番売れているらしい。

 三省堂書店成城店では『大暴落1929』ジョン・K・ガルブレイス(日経BPクラッシックス)がベストテンに入っていたり、裏目でも商売になるものがある、というのが出版業界の面白いところだ。

12月6日(土)ぼくのJリーグライフ

 ゴール裏に設置された大きなモニターには、1対6という屈辱的な文字が表示されていた。
 そこにロスタイムが4分と表示されると、僕の前で観戦していた女性が「ロスタイムなんていらないわよ」と叫んだ。それはおそらく一年間苦しみぬいた浦和サポーターの誰もが思ったことだろう。

 今年の凋落は、何も今年に始まったわけでなく、結果だけで判断してきたここ数年の膿みが出たのであろう。なんとなくこうなることがわかっていた。ただし僕らサポーターはフットボールの魔力以上に浦和レッズの魅力に取り憑かれている人間だから、おいそれとスタジアム通いをやめられない。どんなときでも一緒なのだ。

 どんなときでも一緒にいてくれた、岡野と内舘が本日で浦和レッズを去ることになった。岡野はJ2降格時に、まっさきに全選手に電話し「J2に落ちたから移籍なんて許さない。自分たちの手でJ1にあげよう」と声をかけたことがった。内舘は浦和レッズが初めて優勝したときのキャプテンで、生粋に浦和っ子である。二人とも「浦和からは離れられない」と挨拶したが、僕らサポーターも「浦和から離れられない」。

 社長の挨拶には埼玉スタジアム史上最大のブーイングで、セレモニー終了後には数々のバナーと真っ黒な旗がなびく異様な光景であったが、選手が挨拶に来たときコールリーダーが叫んだ言葉が忘れられない。

「俺たちがついているから」
 そう、We are Reds!

12月5日(金)

自然な建築 (岩波新書)
『自然な建築 (岩波新書)』
隈 研吾
岩波書店
735円(税込)
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 通勤読書は『自然な建築』隈研吾(岩波新書)。
 冒頭から安藤忠雄に挑戦するかのような20世紀の産物・コンクリート批判。そして隈研吾が向かうのは「水、石、木、竹、土、和紙」など、その土地のものを使った建築であった。門外漢の私には建築の善し悪しはわからないけれど、言っていることは充分納得できるもので、面白かった。

★    ★    ★

 本日の上智大学での高野秀行さんの対談相手は、WEB本の雑誌でもおなじみの黒田信一さん。黒田さんの夢見る力(山師的発想力)を前にすると、怪獣を捜している高野さんがまともな人間に見えてくるから不思議だ。

12月4日(木)

北緯14度 (100周年書き下ろし)
『北緯14度 (100周年書き下ろし)』
絲山 秋子
講談社
1,785円(税込)
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 通勤読書『北緯14度』絲山秋子(講談社)。

 私にとって2008年の読書は、いまさら絲山秋子イヤーなのであるが、この西アフリカ・セネガルに60日間滞在した旅の記録も素晴らしかった。

★    ★    ★

 世間の不景気が、不況のどん底にいた出版業界をさらなる底へ叩き落とす。
 ここ数日、営業中に聞いた言葉。

「お客さんが来ないのよ」(書店員)
「11月はほんとうに悪かった」(書店員)
「もうダメだ、助けて欲しい」(書店店長)
「今は同ジャンルの本を出している他社が潰れるのを待つしかない」(出版社社員)

 ある書店は人を減らすことでこの状況をしのごうとしているが、その結果、夜になっても新刊が台車に積みっぱなしになっていたり、棚がガタガタだったりする。いやもしかしたら仕入れ規制がかかっていて注文できないのかもしれない。また出版社は相変わらず出版点数を増やし(やっぱり増えているそうです)宝くじに当たるのを待っている。

 もはや正味がどうしたとか、流通がどうしたとかでなく、たぶん一度ぶっ壊れるのではなかろうか。そしてその焼け野原から新たな出版が生まれるのではないか。私はそのときどこで何をしているだろうか。

★    ★    ★

 それでも忘年会はあり、みんな現実を忘れるように酒を飲む。

 出版業界の飲み会というのは、書店さんや取次店さんを中心に集まることが多いから、ジャンル事に顔を合わせることが多い。ビジネス書の営業マンはビジネス書の他社と集い、PC書はPC書で酒を飲む。ならば本の雑誌社は書評系の出版社と集うかというと、そんな集まりは小さ過ぎてなく、文芸書の隅っこに身を置かせていただいている。あるいは千葉会のように営業地域(沿線)で飲むことも多い。

 だからある程度飲んでいるといつものメンバーになってしまうのだが、本日出席した飲み会は雑誌系の版元と取次店さんばかりで、15年もこの業界にいながら知らないことだから。とても刺激的であった。たとえ焼け野原になっても、本や雑誌のために頑張ろうと思う。

12月3日(水)

ひとつ目女
『ひとつ目女』
椎名 誠
文藝春秋
1,400円(税込)
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 我が編集長・椎名誠が、4回の著者校正の上、10年がかりで本にしたという『ひとつ目女』が、ビックリするほど面白く、昨夜はほとんど寝ていない。

 大戦争後の2060年頃のトーキョーから、主人公はラクダとひとつ目女とともに中国からチベットに向けて旅をする。シーナワールド特有の不思議や生き物や道具などがたくさん出てきて、『アドバード』や『水域』、『武装島田倉庫』など椎名SFに胸を躍らせた人は、必ず興奮の徹夜本になるだろう。

 夜空から椎名編集長の「やるときはやるんだかんな」と声が聞こえて来そうであった。

★   ★   ★

 丸善お茶の水店を訪問し、先月フェア対決で勝利し手に入れた独自フェアが早速展開されていた。名付けて「炎の営業的年末年始に読んで絶対損をしない本19冊+損をするかもしれない1冊」。

 損をするかもしれない1冊というのは無理矢理入れてしまった自著『「本の雑誌」炎の営業日誌』なのであるけれど、それ以外の本は本当に面白い本を手書きPOPつきで展開させていただいてます。担当のYさんがお休みだったので、残念ながら写真を撮ってこれませんでしたが、お近くにお越しの際は、ぜひ覗いてみてください。

 後、千駄木の往来堂さんを訪問。相変わらず素晴らしい棚づくりをされていて、いくつかの本を発見する。やっぱり本屋さんの醍醐味は「発見」だろう。

 北千住から常磐線を営業。

 松戸の良文堂書店さんでは、担当のTさんに無理を言ってやらせていただいたサッカー本フェア「I LOVE Football」がスタートしていた。

 自社本は「サッカー本代表選考会」を掲載した「本の雑誌」2008年8月号しか入っていないのだが、私の愛するサッカー本が一同に平積みされていて感激。しかもTさん手製の統一帯まで付いているではないか。ただし最愛のサッカー本『ぼくのプレミア・ライフ』ニック・ホーンビィ(新潮文庫)や『フチボウ』アレックス・ベロス(ソニー・マガジン)はすでに品切れや絶版になっているそうなので、残念ながら並んでいない。しかし面白サッカー本満載なので、サッカーバカの方、どうぞ!

 柏の営業を終える頃には、日も暮れていた。
 直帰し、ジョギング。

12月2日(火)

 ときより冷たい風が吹くと黄色く色づいたイチョウの葉が、まるで大きな音に驚いて飛び立つ鳥のように空に散る。その葉はやがて娘が立つグラウンドへ落ち、ボールを追う子どもたちに踏まれ、切れ切れになっていく。

 私はゴール裏に置かれたベンチに座って、娘の女子サッカー体験入部の姿を見つめていた。ずらりと並ぶユニフォーム姿の子たちの前で、ひとりピンク色のジャージを着た娘が自己紹介とよろしくお願いしますと挨拶したのは2時間ほど前だ。それから優しそうなコーチの元、アンダー8(小学校2年生)のチームに混じり、鬼ごっこで身体を暖め、ひととおりボールの扱いを教わった。その後、アンダー10(小学校4年生)のチームに混じり、紅白戦が始まったのである。

 娘はボールに数歩近寄っては、実際にボールが転がってくると逃げてしまう。すっかり冷たくなってしまった缶コーヒーを手に、私はじれったい想いで見つめていた。

★   ★   ★

「習字、やめたの」

 娘からそういわれたのは、先々週の土曜日、一緒に風呂に入っているときだった。盛大に泡を立て頭を洗ってあげていたのだが、鏡に映った娘の表情は固かった。習字は妻の意向ではじめ、もうまもなく一年になろうとしていた。また先生からは「スジがいいわよ」と誉められ、級も一気に駆け上がっていたのだ。

「どうして?」
「なんかさ、うるさいんだもん」

 上手になればなるほど、細かい点を指摘されるのは当然のことだが、8歳の娘にはそれが耐えられなかったのだろう。まあ、そんなことはどうだっていい。辞めたければ辞めればいいんだ。娘の頭にシャワーをかけながら、ふと別の提案をしてみた。

「じゃあさ、変わりになにしようか。女子サッカーなんかどう?」
「それはあんたのさせたいことでしょう」

 娘は湯船に使って大きな声で30を数えると、風呂から出て行った。

★   ★   ★

 この2週間の間にどう気が変わったのか娘自身が「女子サッカーをやりたい。早く連れていって欲しい」と言い出した。妻のパート仲間の娘さんが入っているチームを紹介してもらい、今日を迎えたのである。

 相変わらず娘は、グラウンドの真ん中でボールに近寄っては逃げるを繰り返している。
 オシムかファーガソンかどっかのサッカー監督が書いていたが、選手のポジション適正を見るには、何も言わずにピッチに立たせるといいらしい。そうすると無意識に本人が希望するポジションに立つというのだ。その伝でいくと私の娘は、守備的MFか。思い切って上がることもないし、自陣ゴール前を守るわけでもない。私だったら定位置のFWの右を誰にも譲らないだろう。そこでMFから出てくるボールを待ち、ボールが来たら一気にゴールに向かう。下手だけれど点は獲る、それが私のスタイルだ。

「ピッピー!」

 前半終了の笛が鳴ると、娘は駆け足で私の手元にある水筒を取りに来た。肩で息しつつ、今は誰もいないグラウンドを真剣な表情で見つめる。私は伝えたいことがいっぱいあったので、口を開こうとしたのだが、娘が先に口を開いた。

「わかんないんだよねー」
「何が?」
「練習のときはコーチがここにボールを通してとか言うじゃん」
「うん」
「だからそれをすれば良かったんだけど、試合になったら何をしていいのかわからないんだよ」
「......」
「結構難しいね、サッカーって」

 ボールを持ったら周りを見ろ、フリーの選手がいたらパスをしろ、いやその前にゴールまでの道が開いていたらゴールに向かえ、私には言いたいことが山のようにあったのだが、何も言わずに私も娘と一緒にグラウンドを見つめていた。わからないことがわかっているなら、いつかわかるときが来るだろう。

 集合の声がかかると、娘は走ってグランドに向かった。
 後半も私はゴール裏でじっと見ていた。

 娘が一度だけボールを蹴った。

12月1日(月)

旅する力―深夜特急ノート
『旅する力―深夜特急ノート』
沢木 耕太郎
新潮社
1,680円(税込)
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 通勤読書は沢木耕太郎さんの新作『旅する力 深夜特急ノート』(新潮社)。『深夜特急』の愛読者としては、装丁も含めてまさに同窓会のような本であり、ページをめくる手が止まらないのであるけれど、途中からなんだかお尻のあたりがむずむずしてきたのはなぜだろうか。おそらくそれは、読者(私)は初めて『深夜特急』を読んだときから年を取っているのだが、著者である沢木さんはあの頃とまったく変わっていないからだろう。カッコ良すぎるのだ。
 
 ついに出来上がった『おすすめ文庫王国2008年度』の見本を持って、取次店廻り。

 今年の文庫王国は、去年に増してスゴい! 本の雑誌が選ぶ文庫ベストテンやミステリやSFなどのジャンルベストテンに加え、年明けには『獣の奏者』(講談社)がアニメ化される上橋菜穂子さんのオールタイム文庫ベストテンも収録。そしてそしていつかやろうと思っていた企画をすべてぶち込んだ「書店員匿名座談会2008年文庫版元通知表」、「勝手にAB文庫解説『容疑者xの献身』」、各文庫の平均文庫化年月や自給率を調べた「年間文庫来歴調査」、そして鈴木先輩が死ぬ想いで調査したブックオフ×新刊書店文庫棚徹底比較など、まさに最強の文庫王国になったはず。搬入は12月5日、詳細はこちらで。

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