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11月23日(日) ぼくのJリーグライフ

 清水エスパルスに2対1で敗れ、混迷を極めた2008年Jリーグでの優勝は、ほぼなくなってしまった。

 試合中、やたらに「集中!」と「プレス」と叫んでいた近くのオヤジは、試合終了とともに「おまえらやればできるんだからちゃんとやれよ」と声を荒らげてた。

 しかし目の前で繰り広げられたサッカーはどうみても残り3節のサッカーではなく、キャンプ中のチームのようなサッカーであった。私はただただJ2に落ちなくて良かったと思った。

 肩を落とし、帰り道をとぼとぼ歩いていると観戦仲間のニックがぶつぶつ呟いていた。
「トンカツ弁当食べたのに」
「......」
「ペットボトルを握っていると絶対点を取られないはずだったのに」
「......」
「パンツだって赤い必勝パンツだったのに」
「......」
「でもいいや、浦和レッズがあれば」
「......」
「大阪で爆発しましょうね」

 そうなのだ、我々は今週末、ガンバ大阪戦なのだ。
 そこに浦和レッズがあるかぎり、選手を鼓舞し、応援するのがサポーターなのだ。
 行くぞ! 大阪。優勝なんて関係ねー! オッパピー。

11月21日(金)

アジア新聞屋台村
『アジア新聞屋台村』
高野 秀行
集英社
1,680円(税込)
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 例によって例の通り、毎週金曜日のお約束、高野秀行さんの授業を聞きに上智大学へ。

 すっかり私もキャンパスに溶け込み、20歳も下の女の子たちともメル友に......なれるわけはなく、未だほかの学生さんとは会話もしていない。せっかくこんな素晴らしい環境にいるのに、私は何を真面目にテープを回しているのだろうか。人生は一度しかないのだから、興味の趣くまま楽しく行きた方がいい、というのがおそらくこの高野さんの授業の隠されたテーマだと思っているのだが、私はいっこうにその方向に向かわない。携帯電話の待ち受け画面に映る娘と息子の写真をじっと見る。

 授業は今までの6回のなかで一番授業らしい授業で、『アジア新聞屋台村』(集英社)に出てくる小池昌さん(現・NPO在日外国人情報センター代表)によって、フィリピンという国の成り立ちや映画事情等がよどみなく話されとても頭が良くなった気分になる。

 しかし話がフィリピンのポルノ映画事情にうつり「これが日本と違うんですね。特にカメラワークが異なり、舐めるように撮っていくんですよ」と、これから90分その話を続けて欲しいと思ったところで、授業終了の鐘がなってしまったのは、痛恨であった。教室にはプロジェクターがあるので、来週の授業はその映像から始まると期待したい。

 高野さんと別れた後は、シュワッチとウルトラ営業マンに変身し、荻窪や阿佐ヶ谷を営業。昨日、渋谷のブックファーストHさんから「今年のベストワン本です」とお褒めいただいた『おかしな時代』津野海太郎が、中央線沿線でじわじわと売れ続けていて、追加の注文をいただく。うれしい。『ミシュランガイド東京2009 日本語版』は、夕方でもまだ結構あった。頑張れ★3つ。

11月20日(木)

 午前中、ブワーっという勢いでデスクワークをし、午後から小田急線を営業。

 夜、私の出版営業という仕事の礎を作った『出版幻想論』(太田出版)の著者、白夜書房の藤脇さんと営業について対談させていただく。一方的ながら師弟対談と思っていたのだが、記者の方が「まあざっくばらんに営業についてお話いただければ」とテープを回し出したとき、藤脇さんは「ざっくばらんというわけにはいかないよな」と身を正したのであった。

 その瞬間、私のなかの本気スイッチが入り、必死に藤脇さんに食らいつこうと思ったのだが、やはりまだまだ経験足らずというか考え足らずで、教えを乞うような対談になってしまった。まだなだ修行が足りない。ただし目指すべき営業の姿が見え、うれしかった。夢のような時間を提供していただいた業界紙「新文化」に深く感謝しながら、うまい酒を飲む。

11月19日(水)

 実は超<本の町>となっている新宿を営業する。

 私がここのところ注目しているのは新宿ルミネ1にあるブックファーストさんで、こちらの入り口には売上ベストテンが掲げられているのだが、このベストテンが他のお店とかなり違って面白いのである。他のお店では絶対ランキング入りしないような本が唐突に入っていたりして、本日もその棚の前で唸ったのであった。

 また同じルミネはルミネでも、ルミネ2の方はまた違ったベストテンになっていて、この違いも面白い。本屋さんというと一見どこも同じように見えるかもしれないが、同じお店なんてまったくないのである。その違いを作っているのは、何を隠そうお客さんなのである。

 その後、訪問した紀伊國屋書店新宿南店を訪問すると我が2008年最愛の小説『ばかもの』絲山秋子(新潮社)に大々的なPOPが立っているではないか。その瞬間、POPのもうひとつの効用に気づいたのであった。

 それは通常POPの効用というのは「この本面白いですよ」とアピールすることによってお客さんに買ってもらうというものだと思うのだが、このように自分がすでに読んでいて気に入っている本に対して「この作家のファンで本当に良かった」と愛情あふれるPOPが立っていると、お店と自分(お客さん)との距離感がぐっと縮まるのではなかろうか。そして、そのお店が「贔屓」のお店になることがあるのではなかろうか。

 ところが紀伊國屋書店新宿本店さんを訪問すると、担当者の方がやはり『ばかもの』を絶賛されていた。うう、どこを贔屓にすればいいんだ。

 さて圧巻だったのはジュンク堂書店新宿店のフェア「ワガシャノリキサク」である。何気なく展開されているが、こんなフェアをやるにはそうとうな労力が必要なはずである。素晴らしい。

 果たして営業をしていたのか、本屋巡りをしていたのかわからなくなってしまった。
 迷える本好きよ、新宿へ。

11月17日(月)

 とある書店チェーンの本部を訪問する。

 本部というのは、支店全体の管理というかフォローをしているところで、売れ行き良好書など単店で手配が難しいものなどを出版社の交渉し手配していたりするのだが、出版社側の思惑としては、各店回るのが大変なので、本部でまとめてもらおうという魂胆があったりして、取次店がなかなか配本してくれないのを補うためにも、本部営業というのがこのところ活発になっていたりする。

 しかし本日訪問した本部では、「自分は14年近く売り場にいて、売り場は自分の大事な城だった、そこへね、本部経由で勝手に本を送りつけたりすると、それは出版社の心証が悪くなるだけだし、本気で売ろうなんて意識は生まれないですよ。最低でも主要店だけは回ってほしいし、できることなら全店きちんと見て回って、その結果その本がどのお店にどれだけ必要なのか自分で判断してみて欲しい」ときっぱり言われてしまった。

 私は手元に『おすすめ文庫王国2008年度版』のチラシを持っていたのだが、その方のおっしゃるとおりで、自分がどこか甘えたり楽をしようとしていたことに気づく。営業の基本はどこまでいっても実際に訪問することなのである。足が痛くなろうが、心が折れそうになろうが、やっぱり基本を忘れてはいけない。大いに反省し、その後、頑張って書店さんを回る。

 夜、はらだみずきさんと連載第1回の原稿で打ち合わせ。
 その後は夢のような飲み会に参加。感動あまり失禁しそうになる。

11月14日(金)

 例によって例のとおり高野秀行さんの上智大学の授業を拝聴する。今回のゲストは盲目のスーダン人、モハメド・オマル・アブディンさんであったのだが、対談開始早々から駄洒落を連発し、そんな駄洒落で笑ってたまるかと思ったのだが、あまりに私のツボを押してくるので、1時間近く腹がよじれっぱなしだった。

 しかもその後食事に行った際、私が寿司(生魚)を食えないということが話題にあがり、私はてっきりアブディンさんと、日本人はなんて野蛮なんだという話で盛り上がろうと思ったら、アブディンさんは寿司の食べ歩きが趣味というほどの寿司好きで、スーダン人から寿司を食えないことを馬鹿にされるという本末転倒な展開になる。しまいには「炙りサーモンなら食べられるんじゃないですか」なんて言われ、私のいろんな概念はガラガラと崩れ落ちるのであった。

 今日の授業で、5回を終えたのであるが、よくよく考えてみると私の今までの人生37年で、スーダン人と話したのも、盲目の人と話したのも、ムエタイをやっている人と話したのも、タイ人と話したのも、みんなみんな初めての経験であった。

 たった2ヶ月の間で、これだけいろんな人と出会い、しかもみんな「見る前に飛べ」みたいな人生を送っている人ばかりで、すっかり私は感化され、帰宅後、妻に、会社を辞めてもいいか?と聞いてしまったが、もちろん無視された。

 そろそろ高野さんとつき合うのを妻から禁止されそうな気がする。

11月13日(木)

輝けるミクロの「野生」―日向のニホンミツバチ養蜂録 (みやざき文庫 47)
『輝けるミクロの「野生」―日向のニホンミツバチ養蜂録 (みやざき文庫 47)』
飯田 辰彦
鉱脈社
1,890円(税込)
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 今月の新刊『よりぬき読書相談室 疾風怒濤完結編』本の雑誌編集部編(本の雑誌社)の見本を持って取次店を回る。給料日前発売の混み出す時期にも関わらず、取次店の窓口は空いていた。そういえば先月も空いていたのだ。

「不況であまりに本が売れないから、出版社も出し控えているんじゃないの」
「ボーナス時期の12月に狙っているんじゃないですか」
「もう新刊を出す体力すらなくなったのかも」
「今までが異常なだけで、健全ですよ」

 取次店の方、出版社の人に話を伺うといろんな意見が返って来た。実際の数字がわからないので、本当に新刊点数が減っているかわからないのだが、果たしてどうだろうか。

★   ★   ★

 地方小出版流通センターのKさんから『輝けるミクロの「野生」 日向の日本ミツバチ養蜂録』飯田辰彦(鉱脈社)を教えていただく。養蜂を追ったルポ。もちろん即購入。夜は遅くまで『おすすめ文庫王国2008年度版』の編集作業。

11月12日(水)

美しい日本のふるさと 九州・沖縄編
『美しい日本のふるさと 九州・沖縄編』
清永 安雄
産業編集センター
2,100円(税込)
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 吉祥寺を営業すると「何となく新宿に出来たブックファーストさんの影響が出ているような気がする」といわれる。確かに京王線利用者には便利な位置にあるのだ。また経理の小林は小田急線で通勤をしているのだが、「今までブックファーストのカバーをつけた人はそんなに見かけなかったんですけど、急に増えた気がします」と話していた。ターミナル駅に書店さんができると、その影響は広範囲に出るのであろう。

 弘栄堂書店さんで『美しい日本のふるさと 九州・沖縄編』清永安雄(産業編集センター)という写真集を発見。営業中ながら即購入。私は今、この手の風景に猛烈に弱いのである。

11月11日(火)

ボロ家の春秋 (講談社文芸文庫)
『ボロ家の春秋 (講談社文芸文庫)』
梅崎 春生
講談社
1,260円(税込)
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『おすすめ文庫王国2008年度版』の編集作業と、今月の新刊『よりぬき読書相談室 疾風怒濤完結編』の事前注文〆作業が重なり、カオス的状況に突入する。しかし昨年文庫王国を作ったときは、これ以上面白い文庫王国は作れないんじゃないかと思っていたのだが、今年の文庫王国は去年を上回るできになりそうで今から店頭に並ぶのが楽しみだ。

 図書館で借りた『ちくま日本文学全集 梅崎春生』(筑摩書房)が、やっぱりあまりに面白いので本屋さんで買おうと思ったのだが、なんと現在復活されているシリーズには梅崎春生が入ってないではないか。むほ。講談社文芸文庫の『ボロ家の春秋』はまだあるようなで、ひとまずそちらを買おう。

 なんて話を池袋J書店Iさんにしていたら、「椎名さんも昔、梅崎春夫を読んでいた」って書いてましたよねと言われ、もしや自分はかつてその文章を読んで『ちくま日本文学全集 梅崎春生』を買っているのではないかと思い、実家に電話をして母親に本棚を確認してもらったら、あったではないか。偉いぞ、20代の俺。

 会社に戻って、編集作業をしようと思ったが、今度は本屋大賞の投票用紙の送付などもろもろ雑用が滞っていることが机の上の状況により判明。とにかくそいつを片付ける。おそらく年末までこんな感じで過ごすことになるのだろうな。

11月10日(月)

桜島,日の果て 改版 (新潮文庫 う 3-1)
『桜島,日の果て 改版 (新潮文庫 う 3-1)』
梅崎 春生
新潮社
500円(税込)
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 唐突に読み出した『桜島・日の果て』梅崎春夫(新潮文庫)が、その解説で町田康が「読むと頭が痺れたみたいになる傑作である。」と書かれているとおりの傑作で痺れる。内容はもちろん、簡潔でいて、的確な文章にやられてしまった。

 五反田のB書店Sさんを訪問し、最近の面白本の話などしていたのだが、あがって来たのが私のまったくのノーマーク『マザーズ・タワー』吉田親司著(早川書房)だったので、あわててメモ。

 その後は旗の台の松田書店さんへ訪問。相変わらず独特な視点で棚作りをされていて、お茶を飲みながらお話を伺ったのだが、あっという間に2時間が過ぎていた。その独特な方法を一言で現すと「目」になるのだが、その発想は出版社にも多いに利用できることなので、これから私も「目」を大切にして営業と編集をして行こうと思う。

 夜、本屋大賞の会議......だったのだが、皆さん忙しく延期に。なんだか年々みんな忙しくなっている気がするけど、それはなぜなんだろうか。

11月8日(土)

ふたりはともだち (ミセスこどもの本)
『ふたりはともだち (ミセスこどもの本)』
アーノルド・ローベル
文化出版局
998円(税込)
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 私の妻は、土曜の午前中はパートで働いているので、1時過ぎまでは、私が二人の子供の面倒をみている。しかし家で面倒をみるのは大変なので、天気がよければ公園へ、悪ければ図書館へというのが習慣になっているのだが、この習慣はまた別の習慣を生んだ。娘が本好きになったのだ。

 今日も図書館へ向かい、児童書のコーナーに進んでいくと、先を行く娘が突然振り返った。
「パパ、アーノルド・ローベンの本を借りたいんだけど」
「アーノルド・ローベン?」
「教科書にね、『おてがみ』って話が載っていて面白かったのよ」

 自慢じゃないが私は子供時代にまったく本を読んでいないので、児童文学や絵本作家の名前をまったく知らない。「アーノルド・ローベンね、調べてくるよ」と娘と息子を児童書のコーナーに座らせ、私は検索機に向かった。しかしいくら著者名に打ち込んでも出てこない。おそらく娘の思い違いだろうとあきらめ、そのことを娘に話すと「違うよ! アーノルド・ローベル。ンじゃなくてルだよ」と真剣に怒り出すではないか。そして自分でやるよと検索機をたたき出す。するとたくさんの著作が上がってくるではないか。

 アーノルド・ローベルを知っている人は、私がここまで書いているものを読んで、大笑いしているだろうが、今度はそのアーノルド・ローベルの本がどこに置いてあるのかがわからない。我が家が通っている図書館はなぜか絵本は画家別で並べられており、そもそもこれらの本が絵本なのか、児童書なのかもわかっていなかったのだから完全にお手上げである。

 こうなったら聞くしかないと、児童書の棚を整理していた司書の方に伺うと、「そこですよ」とちょっと笑いながら窓際の棚を指差した。なんとそこにはしっかり「アーノルド・ローベル」のネームプレートがあったではないか。そのネームプレートはまさに私の無知の象徴であった。

 娘はうれしそうにそこにあった4、5冊の本を借りて家に帰ったのである。そして、その夜、娘はそれらの本を読みながら私にこう話しかけてきたのであった。

「パパ、ほんとにこの本面白いよ。パパも後で読んでみなよ。それからこれ何度も読みたいから今度買ってね」

11月7日(金)

元職員 (100周年書き下ろし)
『元職員 (100周年書き下ろし)』
吉田 修一
講談社
1,365円(税込)
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闘う女。―そんな私のこんな生きかた (徳間文庫)
『闘う女。―そんな私のこんな生きかた (徳間文庫)』
下関 崇子
徳間書店
580円(税込)
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 通勤読書は講談社100周年記念「書き下ろし100册」の1冊である『元職員』吉田修一。作品とはまったく関係ないが、文庫も新書も新刊も区別の付かないお客様が増えているところへ「書き下ろし」というのは、果たして売りになるのだろうか。書き下ろしは今も偉いだろうか。

 上智大学へ。今週は無事授業が行われ、高野秀行さんの対談相手は元ムエタイ・ボクサーでフリーライターの下関崇子さんだった。そのなかで話された、「例えばレストランで、頼んだものと違うものが出て来たとしても、結果としておいしければいいじゃん」という考え方に、私は心をわしづかみされ、思わず泣きそうになってしまった。本当にこの授業はヤバい。私のパンドラの箱を開けそうである。

 授業の後、高野さんとともにオープンしたばかりのブックファースト新宿店へ。店内を見回し最初に出た言葉はともに「宮田珠己さんを連れてきたい」だった。迷路のような棚構成なのである。

11月6日(木)

ときどき意味もなくずんずん歩く (幻冬舎文庫)
『ときどき意味もなくずんずん歩く (幻冬舎文庫)』
宮田 珠己
幻冬舎
560円(税込)
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 夜、丸善お茶の水店で行っていた出版営業マンが"仕事を忘れてしまう"ほど夢中になった1冊」フェアの結果発表会。11社の営業マンが自社本と他社本の1冊づつPOP付きで展開し、一番売れた営業マンは12月1日から1ヶ月好きなフェアができるという特典がついていたのである。

 そしてなんと私が優勝してしまったではないか。しかも我らがタマキングこと宮田珠己さんの『ときどき意味もなくずんずん歩く』幻冬舎がぶっちぎりの1位である。『三島由紀夫レター教室』三島由紀夫(ちくま文庫)よりも売れているぞ!!

 というわけで表彰状までいただいて大喜び......のはずであったのだが、担当のKさんから「最低坪2万円は売れないと」とか「書き入れ時の12月のフェアだよ」とか「我々は命がけで棚を作っているんだ」などと猛烈なプレッシャーをかけられ、とても『「本の雑誌」炎の営業日誌』の20面積みはいかがでしょうか? なんて言えなくなってしまった。参った。

 それはともかくこのKさんの本に対する熱意はどこから生まれてくるのだろうか。私ごときの本が好き、なんてレベルとはまったく違うのである。今度改めて、なぜそこまで本に人生をかけたのか聞いてみようと思う。

11月5日(水)

サバイバル登山家
『サバイバル登山家』
服部 文祥
みすず書房
2,520円(税込)
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サバイバル!―人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書)
『サバイバル!―人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書)』
服部 文祥
筑摩書房
798円(税込)
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 ついに出た! 『サバイバル登山家』(みすず書房)の服部文祥の新刊が!!!

『サバイバル! 人はズルなしで生きられるのか』ちくま新書である。

 早速読み出したのだが、いやー面白いのなんの。物に頼らず、地球とフェアに向き合おうとするサバイバル登山。人間の人間たる部分を浮き彫りにするのであるが、その登山の発明者であり、探求社である本人が書く文章もまさにフェアなのである。他の人間だったら格好悪くてさらけ出せないようなこともしっかり書いているのである。

 例えば最近は米をちょっと多く持っていってしまうとか、ばったりあった「山と渓谷」の編集者に砂糖と油を恵んでもらおうとしたり。だからといって決してサバイバル登山がくすんだりするかというとそうではなく、もはやそれらを超えた思想なのではなかろうか。いやー素晴らしい。それとリュックの中に詰まっていた家庭の匂いに感じ入るシーンなど、なんだか泣きそうであった。

 営業は神保町や田町、五反田などをジグザグ営業。あとがきで「営業をとりあげられ」なんて書いたが結局自著も営業している私はいったい何者なのだろうか。書泉グランデさんや五反田のあおい書店さんで追加注文をいただく。うれしいけれど、謎だ。

 夜は、その出版のお祝いと私に絶対パスをくれないチームメート勝木の第2子出産祝いを兼ね、有楽町で酒。空きっ腹の上、気をまったく使わずに酒を飲んだので大酔っぱらいになってしまい、帰りの電車で思わず吐きそうなる。しかし、その瞬間、相棒とおるはカバンから颯爽とゲロ袋を取り出したのにびっくりし、ゲロも止まる。

 どういう人生を送るとカバンにゲロ袋が常備されるのだろうか。今までもとおるのカバンによって救われたことが多々あるが、まさかゲロ袋まで入っていたとは。お前はドラえもんか。

10月31日(金)

建築家 安藤忠雄
『建築家 安藤忠雄』
安藤 忠雄
新潮社
1,995円(税込)
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 通勤読書は、『建築家安藤忠雄』安藤忠雄(新潮社)。ほぼ全著作読んでいる身からすると、それらの増補改訂版的な意味合いが強いが、初めて安藤忠雄を知るには良い1冊になるだろう。特に最後の一文にはシビれてしまった。

 金曜日は高野秀行さんの授業なので、上智大学に向かうが、いつもに比べて四ッ谷を歩く学生が少ない。3連休を前にして、学生も有休をつけて休んだりするのだろうか。

 門をくぐると、学祭の準備をしているではないか。焼きそば屋さんやパン屋など模擬店の準備で大にぎわい。高野ゼミもムベンベ焼きやウモッカせんべいでもやれば良かったのにと思いつつ、教室に入ると誰もいなかった。

 おかしいではないか。もう授業開始まで10分もないのである。いつもは4、50人の学生でにぎわっている教室がどうしたことか。もしやまたサプライズパーティーだろうか。粋なことをするな高野さんは......。

 そのときいつだか高野さんと交わした会話を思い出す。
「じゃあ毎週金曜なんですね、大変ですね」
「一度だけ学祭で空くんだけど」

 学祭で空くとはどういうことだ。あわてて高野さんからもらっていたカリキュラムを見ると、この日10月31日は空白になっているではないか。サプライズパーティーではなく、今日は授業がないのか......。

 私を専門学校卒だと思ってなめてはいけない。学祭だって授業は出来るのではないか。というか学祭なんて私には関係ない。私はこの授業を楽しみに1週間頑張っているのである。嗚呼。

 気持ちを切り替え、午前中から営業に勤しむ。銀座や池袋をひたすら営業する。
 夜は遅くまで文庫王国の対談まとめ。

10月30日(木)

 東横線を営業。
 自由が丘の青山ブックセンターのKさんとお話していると、棚の向こうからアフロヘアーに派手なダウンを着た青年が、手を振って来た。その異様な風貌は2年前に助っ人を卒業していったタテノ君に間違いない。

「どうしてここにいるんだ?」
とKさんとの話を終えて、慌ててタテノ君に聞くと
「どうしたもこうしたもこっちがびっくりですよ。撮影の仕事が終わってここなら杉江さんの単行本があるだろうと思ってお店に人に聞いたら『今、杉江さんが営業で来てますよ』って言うんだもん。」
と言うではないか。

 これが女の子だったら間違いなく運命の赤い糸を信じただろうが、相手はアフロヘアの男である。残念。

 新横浜の三省堂書店さんでは、山本文緒の『恋愛中毒』(角川文庫)が、売上ベストテンにランクインしていた。名作であるから売れるのは当然かもしれないが、文庫化されてすでに5年以上経っているのである。担当のYさんに話を伺うと「ずーっと売れているんですよ」とのことだが、きちんと手書きPOPが立てられ展開されいていた。

 夜は、神楽坂で、来月から物流部門に異動になる営業マンの壮行会。

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