第6回「マンガ初心者&食わず嫌いに読ませたい名作」

Page 2 社会的メッセージが込められたSF『銀河鉄道999』

社会的メッセージが込められたSF『銀河鉄道999』

銀河鉄道999 (1) (少年画報社文庫)
『銀河鉄道999 (1) (少年画報社文庫)』
松本 零士
少年画報社
637円(税込)
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最近では「マンガは子どもの読み物だ」という偏見は減ってきた印象もありますが、それでもまだ「人前で読むのは恥ずかしい」とか、「卒業しなくちゃいけないのに」などという思い込みもあるようです。しかし、SFやホラーといったジャンルのマンガには、映画や小説を凌ぐ本格派とも言える名作が数多くあります。いまだ「マンガなんてくだらない」と考えている人には、各ジャンルの本格派をぜひ読んでいただきたい。

まずSFジャンルでの代表的な作品から行きましょう。これもアニメの名作としても知られる『銀河鉄道999』(松本零士)。永遠の生命を得られる「機械の身体」を求めて、主人公の星野鉄郎が謎の美女・メーテルとともに銀河鉄道999号でさまざまな星を巡る物語です。SF作品として愉しめるのはもちろんですが、実はこの作品、非常に社会的メッセージ性の強い作品です。

例えば「17億6500万人のルンペン星」という回は、現代人にはぜひ読んでほしい傑作です。「ホームレス」「ニート」などという、当たり障りのない言葉にすり替えられているもの、その本質が容赦なくシビアに描かれている。「おれは人にものごいをして暮らすおれの星がたまらなくいやになった」、「戦って、奪って...そして生きていく気力のある子供たちを育てていく」、「やっと強盗になれたあの人」というセリフの真意をぜひ本編で確かめていただきたい。この回のラストにメーテルがつぶやく「『友情』と『信頼』というこの世で一番尊いものをあげたのよ。やっと強盗になれたあの人は...」という言葉は、もしかすると描かれた当時よりも、現代においてこそ痛切に感じられる一言かもしれません。

名ゼリフが数多く登場するのもこの作品の特徴です。「プロフェッショナル魂」という回では、「学べるときに学ぶのだ。それが最後に生き残って笑える道だ。勉強のチャンスはそうやたらにはない。だから寸刻をおしんで学べ。プロフェッショナルだけが宇宙の無法地帯で生きのびることができるのだ!!」という名言も登場します。

さらに「蛍の街」という回で舞台となるのは「見かけだけの形の美しさにこだわる見栄っぱりの虚栄の星」。体が光る体質かどうかで地位が決まり、才能より見かけのほうが重視される星。そこに暮らす人々が一歩星の外に出て、異なる価値観にさらされたときにどう評価されるのか――。

もちろんSF作品としての素晴らしい展開力や、毎回のように登場するキャラクターの多彩さなど、マンガならではの魅力は言うに及ばず。しかしそこに込められたメッセージの深みとインパクトは、小説や映画など他ジャンルのエンターテインメントに決してひけを取らない。『銀河鉄道999』はそんな力のある珠玉の一作です。

サイコホラーの最高峰『ハッピーピープル』

ハッピーピープル (1) 愛蔵版
『ハッピーピープル (1) 愛蔵版』
釈 英勝
集英社
905円(税込)
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一般的には初心者におすすめしづらいタイプの作品ですが、サイコ/サスペンス・ホラーが好きな方なら、『ハッピーピープル』(釋英勝)もいいかもしれません。画風は気持ち悪くも見えるし、物語の後味の悪さもかなりのもの。以前、フジテレビの『世にも奇妙な物語』でテレビドラマ化されたと言えば、何となく作風が想像できるでしょうか。ほとんどの回で嫌悪を感じさせるほどオチに救いがなく、猟奇的な表現も数々登場するので、そうした表現が苦手な人にはあまりおすすめできません。

しかしほとんどが1話完結というボリュームは好きな方なら、とっかかりとしては入りやすいでしょうし、ストーリーの展開力はさすが。たまに救いのあるオチに巡り会ったときには、意外なほどさわやかな読後感を覚えて、少しトクをしたような気分にも。日常では自覚しようもない、人間が持つ心の闇を突きつけてきます。

実はこの作品が描かれたのは、1980年代のこと。今から20年以上前、僕の"浪人中"(中卒後)、予備校の机のなかにこのコミックスを常備していたら、貪るように読む同級生にボロボロにされてしまった(笑)。あまりマンガが好きじゃなくても、刺さるヤツには刺さる作品だったらしく、意外と食いつきが良かったんです。人間の心の闇は時代に左右されるものではない。『ハッピーピープル』は、そんなことを痛感させる作品です。

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