【今週はこれを読め! SF編】SFというジャンルを問い直しつづけた年刊傑作選の、これが最終巻。

文=牧眞司

  • おうむの夢と操り人形 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)
  • 『おうむの夢と操り人形 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)』
    東京創元社
    1,404円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 2008年刊行の『虚構機関』から12巻を数えた《年刊日本SF傑作選》もこれが最終巻。前年に発表された作品のなかから(しかも掲載媒体を問わず)、優れたSFを選びぬくという途轍もない労力をたゆまずにつづけてきた編者のおふたりには、感謝の気持ちしかない。このアンソロジーのおかげで現代日本SFの見通しがぐんと良くなった。傑作の紹介だけにとどまらず、SFというジャンルを問い直す契機を与えてくれた。

 この巻でいえば、斉藤直子「リヴァイアさん」や日高トモキチ「レオノーラの卵」が、従来のジャンルSFの枠組みからハミ出す、それどころか物語的にも収まり切らない不思議な読み味の作品。前者は屋上のアドバルーンをめぐるナンセンスなやりとり、後者は説明抜きに語られる卵を産む女の様子が、なんとも印象的。

 説明なしに異様な状況が語られ、物語としてもすっきりと終わらない。そういう"気がかり"を残す点では、西崎憲「東京の鈴木」も際立っている。警視庁に「トウキヨウ ノ スズキ」を名乗る人物から謎めいたメールが届き、それをなぞるように政商、汚職首相、国会議員などに奇妙な惨事が降りかかる。メールと事件のあいだの因果関係は立証できず、スズキにいかなる思想があるかも判然としない。人間の意識を超えた何かが起こって、歴史が少し動く。そんな感覚が全篇に立ちこめる。

 円城塔「幻字」は日本SF大賞を受賞した『文字渦』の一篇。古橋秀之「四つのリング」は『百万光年のちょっと先』の一篇。三方行成「スノーホワイト/ホワイトアウト」も『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』の一篇。古橋作品と三方作品は、以前にこの欄で取りあげた(http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2018/02/13/113718.html)(http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2018/12/04/105218.html)。また、飛浩隆「「方霊船」始末」は『零號琴』のスピンオフ作品、長谷敏司「1カップの世界」は『BEATLESS』の前日譚である。

 SFに連作や枝篇が多いのは、作品背景の設定(架空世界)に重きが置かれるジャンル性ゆえだ。面白いのは自作だけにかぎったことではなく、先行作品の本歌取り、あるいはトリビュートやアリュージョンという文化も、SFには色濃い。

 本書収録作では、宮内悠介「クローム再襲撃」がウィリアム・ギブスン「クローム襲撃」を村上春樹の文体でリトールドしたパスティーシュ。坂永雄一「大熊座」は、あきらかにテリー・ビッスン「熊が火を発見する」を意識しつつ、R・A・ラファティ流のトールテイルを紡いでいる。いっぽう、田中啓文「三蔵法師殺人事件」は、アニメ『悟空の大冒険』を駄洒落ドタバタギャグにアレンジした怪作。

 これらのように特定作品に霊感源があるわけではないが、柴田勝家「検疫官」は、徹底した管理によるディストピアの系譜(オーウェル『1984』など)を受けついでいる。ここで禁止されるのは「物語」だ。

 高野史緒「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」は、量子論的現実観を背景としたオルタネイト・ヒストリー/仮想現実テーマの作品。編者のひとり大森望さんが指摘するように、題材的にはライバー「あの飛行船をつかまえろ」やキース・ロバーツ「ケイティとツェッペリン」を髣髴とさせる。ストーリーで読ませるだけではなく、歴史的ディテールと文体の豊かさで読ませる点でも、ライバーやロバーツに負けていない。

 昭和初期を設定した高野作品に対して、宮部みゆき「わたしとワタシ」は昭和末期の日常を扱っている。四十代半ば独身女性の「わたし」がタイムスリップして、高校生の「ワタシ」と出会う。ふたり(同一人物だけど)の考えの落差が面白い。

 表題作として採られた藤井太洋「おうむの夢と操り人形」は、ブームが去った人型ロボットを斬新な発想で再利用、新しいビジネスを立ちあげる。物語としてはビジネス面に終始せず、日常生活のなかでロボットを利用する人間の感情や感覚の変容が描かれている点が興味深い。

 本書の目玉のひとつは水見稜の新作だ。「アルモニカ」はワセダ・ミステリ・クラブのOB誌に発表されたもの。動物磁気説に基づく治療術と、玄妙な体鳴楽器アルモニカをめぐる歴史綺譚。これもまた、歴史的ディテールの豊かさで読ませる作品だ。

 小説作品のみならず、漫画を積極的に採録するのも《年刊日本SF傑作選》の特長だ。この巻には、肋骨凹介「永世中立棋星」と道満晴明「応為」を収録。

 肋骨作品は、将棋・AI・宇宙開発ブームによって生みだされた将棋AI「棋星」の悩みを描く。アシモフのロボット工学三原則を踏まえた新展開が面白い。

 道満作品は、江戸の浮世絵師が現代のエロ漫画との出会ってしまう。独特な可愛さのある画風が好ましく、コマとコマの間合いが絶妙。

 このアンソロジーのトリを務めるのは、第十回創元SF短編賞受賞作のアマサワトキオ「サンギータ」。題材はネパールに実在する生き神クマリ。宗教的因習とタガの外れたバイオテクノロジーとの混淆によって、エキセントリックな物語が展開される。クライマックスの破壊的カタルシスが圧倒的。この一点をめがけて、周到に伏線を張り巡らせる構成力に舌を巻く。つぎつぎにたいへんな才能があらわれるな、このごろの日本SF。

(牧眞司)

« 前の記事牧眞司TOPバックナンバー次の記事 »