【今週はこれを読め! SF編】ヤング・カーティス・ニュートン、青二才からヒーローへ

文=牧眞司

  • キャプテン・フューチャー最初の事件 (新キャプテン・フューチャー) (創元SF文庫)
  • 『キャプテン・フューチャー最初の事件 (新キャプテン・フューチャー) (創元SF文庫)』
    アレン・スティール,中村 融
    東京創元社
    1,320円(税込)
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 人気スペースオペラ《キャプテン・フューチャー》のリブート版。月面チコ・クレーターの秘密基地から出動する知恵と力と勇気のヒーロー、キャプテン・フューチャーことカーティス・ニュートンと、彼につきそうフューチャーメンという構図は元どおりだが、細かい設定が現代風にアレンジされている。たとえば、宇宙開発の歴史がアポロ宇宙船の月着陸の延長線上にあり、太陽系諸惑星への植民はテラフォーミングと人間のゲノム改造によって成されたといった具合だ。ちなみに元シリーズでは各惑星にネイティヴの知的種族が存在していた。

「最初の事件」とあるように、カーティス・ニュートンはまだ若く、経験もまったくない。ここで言う経験とは事件解決の経験に限らず、社会や人間関係全般にわたっている。なにそろ生まれて以来ほぼチコ・クレーターにこもり、生身の人間と接したのは身の上を隠して外出したときくらいで、あとはビデオやゲームから学んだ知識ばかり。物語のなかで惑星警察機構の警視ジョオン・ランドール(元シリーズと同様ヒロイン役を務めている)と急接近するのだが、最初のうちは彼女から「かなり変わっている」と言われている。

 そんなカーティスでも「キャプテン・フューチャー」なる呼称はさすがにバカっぽいと思っていて、そう呼ばないでほしいという場面が幾度となくある。もともとは子どものころに遊びでなりきっていた架空ヒーローの名前なのだ。兄貴役であるアンドロイドのオットー(彼は元シリーズとはやや立ち位置が変わっている)などは、カーティスをからかうためにわざわざキャプテンと呼んだりする。

 カーティスは基本的に善人だが、ナイーヴというか短慮でもある。自分の両親の殺害を首謀した悪党ヴィクター・コルボが月共和国選出の議員として権力を伸ばしていると知ったとき、ためらいもなく「よし、殺しに行こう」と言う始末。まあ、彼を止めもしないフューチャーメンも大概なのだが、それには事情があって......。おっと、伏線にかかわってくることなので半端なタネ明かしは避けよう。

 カーティスはコルボ誅殺を企てるが、いざ実行に移そうというときに大変な事件に巻きこまれてしまう。コルボが仕掛けていた太陽系連合主席ジェイムズ・カシュー暗殺だ。カーティスはあわやというところでカシューを救うが、コルボの尻尾を掴むことはできない。

 調べてみるとカシュー暗殺計画の背景事情は複雑であり、たんに権力を掌握しようとするコルボの野望だけではなく、〈火星の魔術師〉を名乗る裏社会の大物ウル・クォルンが策動しているらしい。そしてウル・クォルンと密接につながっているのが、太古に太陽系を訪れたデネブ人の存在を宗教的に信じる集団"二つの月の子ら"だ。

 かくして若きカーティスの復讐としてはじまった物語が、政治的謀略、さらには月や火星に隠された太陽系外種族の痕跡(超科学)までに広がっていく。カーティスの成長物語でもあるが、彼が主体的にヒーローを目ざしているのではなく、半ばなりゆきのように重要な役を引き受けていく展開が面白い。

(牧眞司)

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