【今週はこれを読め! SF編】初期筒井短篇の社会批判と心理的題材

文=牧眞司

  • 堕地獄仏法/公共伏魔殿 (竹書房文庫 つ 3-1)
  • 『堕地獄仏法/公共伏魔殿 (竹書房文庫 つ 3-1)』
    筒井 康隆,日下 三蔵,木原 未沙紀
    竹書房
    1,430円(税込)
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 ユニークな海外SF翻訳によって、俄然、読者の期待を集めている竹書房が、日本SFにも乗りだした。第一弾は、筒井康隆初期短篇の再編集版。編者はファンにはお馴染みの日下三蔵さんだ。以前に編んだ『日本SF傑作選1 筒井康隆 マグロマル/トラブル』(ハヤカワ文庫JA)と対になる内容とのこと。

 表題になっているうちの一篇、「堕地獄仏法」は、宗教団体、総花学会の支持によって権力を掌握した恍瞑党による全体主義社会を描く。初出は〈SFマガジン〉1965年8月増刊号で、特集《日本人作家・架空事件特集》のうちの一篇である。日本社会の現実的な問題を、架空の設定のもとに映しだす企画だった。

「堕地獄仏法」の反響は大きかったようで、同誌11月号には筒井さん自身が「堕地獄日記」なる記事を寄せ、学会サイドからの非難の一端を紹介している。

「堕地獄仏法」は半世紀も前に書かれた作品だが、作中で政治権力とその翼賛者が言いたてる全体主義の正当化、国家の名のもとでの個人の弾圧、報道への介入は、いまの日本にも蔓延っている。作品全体は諧謔であり戯画なくすぐりも多いが、全体主義者の歪んだロジックと、それに対する主人公(小説家である「僕」)への批判は、きわめて論述的に書かれていて分量も多い。こんかい再読して、そこが一番驚いた。

 同じことが、「やぶれかぶれのオロ氏」についても言える。火星連合総裁オロ氏が記者会見のなかで、ロボット記者からの論理的な質問に、姑息な受け答えをつづけていくなか論理破綻し、見苦しく激昂するさまを描いたスラップスティック作品だ。火星は大国である地球に依拠/従属する政策を取っている。言うまでもなく、これは現実の日本とアメリカの関係そのままだ。

 社会批判が鮮明に出た作品としては、ほかにNHKを題材にした「公共伏魔殿」、過度にビジネス化した大学/予備校を背景とした「慶安大変記」、痴漢冤罪の理不尽を描く「懲戒の部屋」が収録。ただし、現代の日本の状況への痛烈な(そして有効な)な批評性という点では、やはり「堕地獄仏法」「やぶれかぶれのオロ氏」が群を抜いている。

 社会批判と並んで、心理的題材も初期筒井作品にはよく見られる。たとえば、「いじめないで」は、全面戦争後に唯一生き残った男が、戦争の引き金となった中央電子頭脳ジョプを詰問するうち、しだいに嗜虐的になっていく。相手は人格も内面も持たない電子頭脳、しかし人間的な応答をする機能も備わっているところがポイントだ。それがよけいに嗜虐性を刺激する。いっぽう、いくら虐待しても相手はしょせん機械という虚しさもある。その振幅が男とジョプのやりとりを通じて、エスカレートしていく。

 これも半世紀以上前の作品だが、現代人がコンピュータやシステムに苛立つのに通じる。いまAIと呼ばれているシステムも、「いじめないで」のジョプと同じ程度、機械としての融通のなさと、中途半端に人間的反応をする機能を備えている。

「チューリップ・チューリップ」は、発明したタイムマシンの不調によって自分が倍々に増える。物理的に自分を対象化することで、言いしれぬ嫌悪感が募っていく。この作品では「他人よりも自分が癇に障る」が前提だが、わが身として考えてみるとわかる気もするし、そうにはならない気もする。あなたはどうですか?

(牧眞司)

  • 日本SF傑作選1 筒井康隆 マグロマル/トラブル (ハヤカワ文庫JA)
  • 『日本SF傑作選1 筒井康隆 マグロマル/トラブル (ハヤカワ文庫JA)』
    筒井 康隆,日下 三蔵
    早川書房
    1,650円(税込)
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