【今週はこれを読め! エンタメ編】豪華ショートショート集『超短編! 大どんでん返し』
文=松井ゆかり
チョコレートのアソートボックスとかたくさんのネタが並んだお寿司桶とか、いろいろな種類が揃ったものってうれしいですよね。本書はまさにそんな本。アンソロジーといっても30人もの作家の作品が1冊で読める本って、なかなかないと思います。そんな夢のような企画が可能になったのは、掲載作品がほぼ4ページという「超短編」だから。
しかも、執筆陣が豪華! 特にミステリー好きなら、"30人の執筆陣の中に知っている名前がひとりもいない"などという読者はまず存在しないのではないでしょうか。昨年末のミステリーランキングで話題をさらった『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(東京創元社)の著者でアラナイ(=アラウンドナインティ)作家の辻真先さんといった大ベテランから、「平成のエラリー・クイーン」の異名を取る青崎有吾さんや「鬼畜系特殊設定パズラー」の称号を持つ白井智之さんなどの若手まで、年齢層も作風もバラエティ豊かです。
4ページで読者をびっくりさせる、これは至難の業でしょう(帯には「1話4分。あなたは30回、だまされる!!」と書かれていますので、1ページを読むのに1分間かかるという計算でしょうか)。短編というのは、文章量が少ないからといって楽というわけではなく、難易度の高い筆力が要求されることと思います。無駄な描写に割く紙幅はないし、ミステリー作品においてはフェアネスの問題も考慮に入れなければならないし。
かように短い作品のあらすじ的なことを書くのも野暮ではありますけど、例えばトップバッターの乾くるみさんの「なんて素敵な握手会」はこんな感じ。語り手の男子視点で綴られるのは、アイドルの握手会の様子。アイドル関連には詳しくない身でも「なるほど、握手会とはこういうものか...」とわかったような気になっていると、「あ、え、そういうこと!?」という驚きが待っています。ちょっとした描写の工夫ではあるんだよなあ...でも素人では思いつかないし、読んでいてもそうそう見破れないものですよね。約4ページの短編、という条件でこんなにテイストの異なる作品が形になるのだから、小説家ってすごいです。
好きな作家の作品が読めるからというのもよし、反対にまだ読んだことがないけど気になる作家が名を連ねているからというのもよし、もちろん短編やショートショートが好きだからという理由でもよし。私は最推し作家であるところの蘇部健一さんの久々の新刊ということで本書を手に取りましたが(「トカレフとスタンウェイとダルエスサラーム」は蘇部先生らしさを堪能できる一編)、他にも好きな作家の方ばかりで楽しめました。最後に置かれた長岡弘樹さんの作品にぐっときて『教場』シリーズをちゃんと読まねばと再認識させられたのも、大きな収穫です。みなさんもぜひ、この一冊で読書の幅を広げてみられてはいかがでしょうか。
(松井ゆかり)