小説を食べて来たぞ! 「和菓子のアン」茶和会レポート

文=本の雑誌特派員

 3月末の金曜日の昼下がり。光文社の某会議室に20人ほどのうら若き男女が集まった。いや、男女じゃないな......ぐるっと見渡すと女性ばっかり。中に黒一点で座っている、スーツにネクタイの青年は、本誌のガイドでもおなじみ、ときわ書房の宇田川拓也氏、略してウダタクではないか! しかも会議用テーブルの上には黄色と黒の美味しそうな和菓子とお茶が用意されていて、おお、もしや、これはウダタクとの集団お見合い!? な、わけはない。何を隠そう、実はこれから「『和菓子のアン』刊行記念茶話会」が開催されるのである。

『和菓子のアン』は4月20日刊の坂木司の新刊で、デパ地下の和菓子屋「みつ屋」で働くことになった、ちょいと太めのアンちゃんこと梅本杏子が、職場で経験するささやかな事件を通して少しずつ成長していく青春ライトミステリーだ。つまり、和菓子屋が舞台だから、和菓子が謎を解く重要なアイテムとして登場する。そこで、小説中に出てくる和菓子を実際に作って、書店員たちと著者で試食する懇親会をやろうということらしい。ちょいと変わったプロモーションなのである。

 なるほど、和菓子だから、女性が多いのね。と、納得しつつ、用意されたテーブルに着席すると、遅れて入ってきたのは前東京創元社会長の戸川安宣氏(坂木司の育ての親だ)。さらにその隣には長髪のおじさんも腰を下ろして、われわれ本誌取材班のおっさん2名も含めると、一気に男度がアップ。さきほどまで男ひとりでわが世の春を謳歌していたウダタクもちょっぴりオカンムリ? そんなウダタクの視線もものかは、ジャーンと登場したのが、男か女か不明(ですよね?、覆面作家だから)の著者、坂木司、その人だあ。
 
IMG_3440.jpg というわけで、いよいよ茶話会がスタート! ふたつのお菓子が『和菓子のアン』のどこに出てくるものか、著者自らの解説を聞きながら、まずは黒い羊羹のようなお菓子を太い爪楊枝のようなものでぐさっと刺して、口に運ぶと、おお、むっちりした歯ごたえに黒糖の味がほのかにして、甘いこと。いやあ、疲れが吹き飛びますなあ、とか言いながら、お茶をすすって、もうひとつの黄色いまんじゅうのようなお菓子をひと口。これはまた上品なあんこの味がするねえ、と言い合っていたら、なんとこの白あんは白あずきだそうで、普通、白あんというのはいんげん豆から作るらしい。白あずきのほうが高くて品がいい味になるというのである。へー、知りませんでした。
 とかなんとか、和菓子を味わいながら、創作のエピソードを著者から聞いたり、デザイナーの石川絢士氏(戸川さんの隣に座った長髪のおじさん)に装丁の苦心談を聞いたりして、和やかに進行。おまけにまんじゅうの中にまんじゅうが入った某和菓子店の縁起物の名物菓子までいただき、いやはや、和菓子はけっこう腹にもたれますな、とお茶をお代わりして、茶話会は終了したのであった。
 
 ちなみに、このふたつの和菓子は、某有名老舗和菓子店に作ってもらったものだが、製作費は黒が400円で黄色が480円。特注にしては意外に高くないのである。また、この小説には10種類以上のオリジナル和菓子が登場するが、安くできそうなものを選んだわけではなく、老舗和菓子店はあんこに大変なプライドを持っていて、あんこに混ぜ物はダメ! だからこのふたつの和菓子しか作れない、と言われたらしい。

 では、ここで問題。この黒と黄色の菓子は『和菓子のアン』のどこに出てくるでしょう。

 ヒントは、「黒」は黒いあんの地に透明な寒天が流され、黒い色の中にぽつりと鳥が浮かんでいるという地味なデザインが特徴、黄色は白いういろうあんの上に鳥と星の焼き印が水墨画のようにつけられた地味ながらもかっこうのいいところがポイント。ともに七夕の上生菓子で、黒は織り姫と彦星が出会う前、黄色いほうは出会ったあとを表現しているという、すごくロマンチックなお菓子だ。しかも作中で買っていく女子大生がベリー・キュート。さあ、ロマンチックなお菓子の名称も合わせて、『和菓子のアン』で確認しよう!

 そしてそして、茶話会で生菓子を堪能したウダタクの『和菓子のアン』評は、本の雑誌6月号41ページで読んでくれぃ!

「和菓子のアン」茶話会 写真1「和菓子のアン」茶話会 写真2

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