第87回:山本文緒さん

作家の読書道 第87回:山本文緒さん

昨年6年ぶりの小説『アカペラ』を刊行し、長年の読み手たちを感涙させた山本文緒さん。男女問わず幅広い層に愛されている小説の巧者は、実は幼い頃はあまり活字の本にピンとこなかったのだとか。では、これまでにピンときた作品はというと? 人生で1番好きな本から、ブログ本まで、現在の文緒さんの血となり肉となっている作品たちが分かります。

その3「好きな現代作家と敬愛する"小説の神様"」 (3/6)

ジャンプ (光文社文庫)
『ジャンプ (光文社文庫)』
佐藤 正午
光文社
637円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
5
『5』
佐藤 正午
角川書店
1,944円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)』
村上 春樹
新潮社
637円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
彼女について知ることのすべて (光文社文庫)
『彼女について知ることのすべて (光文社文庫)』
佐藤 正午
光文社
782円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)
『マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)』
池澤 夏樹
新潮社
843円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS

――そして、卒業後は就職して。

山本 : 就職してすぐの頃、まだ小説を書く仕事につこうなんてかけらも思っていなかった頃に、わりと本が好きになって、W村上をたくさん読みました。あとは『月刊カドカワ』。毎号毎号読むのがとても楽しみでした。"月カド"で、現代の作家さんを知りましたね。林真理子さん、森瑤子さん、原田宗典さん、川西蘭さん...。どんどん本を読むのが面白くなっていって、この頃から本を買うのに糸目をつけなくなったんです。漫画も買いつつ。原田宗典さんにファンレターを書いて、返事をもらっちゃいました。

――山本さんがファンレターを! しかも返事が!

山本 : デビューされたばかりの頃だったかな。"月カド"に出ていた短編に感激したんです。あまりの言葉のうまさに、作家じゃないと思ったんです。コピーライターのような職業の人が書いたもののように思えて。そう書いたら「すみません作家です」というようなお返事がきました(笑)。戯曲も書いているので、観に来てくださいって。

――ええっ。

山本 : 行きましたよ。すごく感動しました。でもたまたまその日だけは原田さんはいらしてなくて、ご兄弟の方がいらしたのでかわりに握手してもらいました(笑)。

――それにしても、原田さんはコピーライターでもあったので、その感想はすごく鋭いですね。

山本 : いやいや、本当に失礼なことを書いてしまって。でもすごく新しいと思ったんです。たしか「バスに乗って、それで」という短編だったと思います。

――山本さんが作家デビューされてから、お会いしましたか。

山本 : 「さ、作家になったの?」ってビックリされていました(笑)。

――でもその頃から、文章に対して鋭敏だったわけですねえ。

山本 : でも本当に、自分も作家になってやろうというような下心はまったくなく、単なるマニアだったんです。自分が面白く読めればいい、という。その頃知って、熱烈に好きになったのが佐藤正午さんです。

――佐藤さんの『ジャンプ』の文庫解説は、山本さんがお書きになっていますよね。以前の取材のときも、佐藤さんの『5』が面白かったっておっしゃっていた覚えが。

山本 : デビュー作の『永遠の1/2』から、ほぼ順番に読んでいます。私には"小説の神様"が二人いるんです。東の村上春樹、西の佐藤正午。春樹さんはもう爆発的な人気ですけれど、私は人の感想なんて聞きたくなくて。ひそやかに楽しみたい。自分が読んで純粋に思ったことを、自分の中にしまっておきたい。

――"神様"たるゆえんは。

山本 : うーん、ちょっと分からないというか、うまくいえないというか。シーンシーンのみずみずしさとか、スカしているというとそれでおしまいですが、スカし具合がいいというか。丹念に書かれているんですが、難解な言葉は使ったりせず、さりげなく始まって、とんでもないところに連れていってくれる。

――お好きな作品は。

山本 : 村上さんは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。初版は箱に入っていて、布張りでした。グラシン紙が破れてしまうのがもったいなくて、買ってしばらくは飾っていたので、読み始めるまでに時間がかかりました。すごく幸せでしたね。佐藤正午さんは最近の『5』や『アンダーリポート』も好きだし、『彼女について知ることのすべて』は、人生で一番好きな本です。もう、何度も何度も読んでいます。池澤夏樹さんの『マシアス・ギリの失脚』も1位か2位か、というところですけれど。

――人生で一番好きな本!

山本 : そうなんです。

» その4「字で読む少女漫画を書こうと思った」へ