
作家の読書道 第87回:山本文緒さん
昨年6年ぶりの小説『アカペラ』を刊行し、長年の読み手たちを感涙させた山本文緒さん。男女問わず幅広い層に愛されている小説の巧者は、実は幼い頃はあまり活字の本にピンとこなかったのだとか。では、これまでにピンときた作品はというと? 人生で1番好きな本から、ブログ本まで、現在の文緒さんの血となり肉となっている作品たちが分かります。
その6「6年ぶりの中編集『アカペラ』」 (6/6)
- 『アカペラ』
- 山本 文緒
- 新潮社
- 1,512円(税込)
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――『アカペラ』は小説としては6年ぶりですね。表題作はじっちゃんと暮らす女の子の話、「ソリチュード」は20年ぶりに帰省した男が主人公、「ネロリ」は病弱な39歳の弟と静かに暮らす50歳の姉が登場する、珠玉のような3編。久々の刊行に、ご自身はどのような思いを抱かれたのでしょうか。
山本 : うまいく言えませんが、よく書けたな、というか。すごくうれしい! というだけではないですね。私、一作一作書くたびに、めそめそ泣くんです。できない、できない、って言って、いい大人が。可愛くもないし、同情もされないんですけれど。つらい思いをしないとできないものだな、他の作家さんはみんなどうしているんだろうって思う。こんなにつらいことを毎回耐えているなんてすごすぎる。もう、作家になんかなっちゃダメだと思います、つらすぎます! もちろん、いいこともありますけれども。
――つらい思いをされた分なのか、本当にジワリと心にしみこんでくる3編でした。反響もすごかったですよね。
山本 : 昔からのファンの方がとっても喜んでくださって、ああ、自分が思っている以上に休んでいたんだなって思いました。何年も何年も新刊が出ないなって、待っていてくれたんだなって実感しました。
――男性読者・杉江氏は「ソリチュード」がいい! と熱く語っているんですよ、山本さん。杉江さん、ダメ男の話だからですか。
杉江 : いや、僕はもともとダメ男の話って好きではないんですよ。でも「ソリチュード」は本当に好きです。そう思うと、この主人公はダメ男なのか、どうなのか...。僕の印象では、男性は「ソリチュード」、女性は「ネロリ」が好きって言います。
山本 : 作者には分からない何かがあるんですね...。
――これからも男性読者を意識することはないんでしょうか。
山本 : やはり女の人に読んでほしいですね。今なら、アラフォーくらいの世代の人たちに、こましてやろう、という気持ちがあります(笑)。そこに向かって媚びているんです。
――なのに男女問わず幅広い世代から愛される。それが山本作品ですよね。
(了)