第93回:佐藤友哉さん

作家の読書道 第93回:佐藤友哉さん

19歳の時に書いた作品でメフィスト賞を受賞、ミステリーの気鋭としてデビューし、その後文芸誌でも作品を発表、『1000の小説とバックベアード』で三島由紀夫賞を受賞した佐藤友哉さん。もうすぐ作家生活10周年を迎える佐藤さんの、「ミジンコライフ」時代とは? 小説家を志したきっかけ、作家生活の中で考え続けていること、その中で読んできた本たちについて、ユーモアたっぷりに語ってくださいました。

その6「新作について、今後について」 (6/6)

デンデラ
『デンデラ』
佐藤 友哉
新潮社
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羆嵐 (新潮文庫)
『羆嵐 (新潮文庫)』
吉村 昭
新潮社
529円(税込)
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――さて、最新作『デンデラ』は、とても面白く読みましたが、非常に意外な内容でもありました。

佐藤 : 姥捨て山をベースに、捨てられた大量のおばあちゃんが羆と闘うという物語、自分を捨てた村に何かを思うという物語は、実は文学で仕事をしようと思った時点で、すでに浮かんでいたんです。でも全然進まなくて。『1000の小説とバックベアード』を書いていた間も、周囲の人にはずっとクマクマクマクマ言ってました。それがやっと本になりました。

――なぜに文学を考えた時、老婆と羆だったのでしょう。

佐藤 : 文学を書くと言った時、普通に思いつく文学っぽいもなら誰にでも書ける、と考えました。講談社ノベルスから来た身として、そしてカッコつけの精神のある身としては、そういうものは書けませんでした。今まで自分がやってきたことと、そして文学と関係があると自分が判断しているものを同時に表現する小説を書けば自分も落ち着くし、文学の世界の人たちが求めているものとも合うんだろうと思いました。文学作品では吉村昭の『羆嵐』という、『デンデラ』と同じく三毛別の事件をもとにした小説があります。ミステリの世界では、おばあちゃんが活躍する話はなかなか書けませんし、姥捨てトリックとかも無理ですが、文学なら書ける。そこに今まで自分がやってきた仕事、今まで自分が読んできたホラーやミステリを合体させたら、おばあちゃん50人と羆が闘う話になりました。受け答えになってないと思いますが(笑)、僕が考える文学を一作でいいから書いてみたかったんです。

――極限状態の中で人はなぜ生きようとするのか、という問題もあり、ミステリ的な謎もあり、そしてラストはなぜか感動している自分がいる。構成も見事ですよね。

佐藤 : テトリスみたいに積みあげていったら、こういう構成になりました。積み方は戦略的ですが、その結果は実は戦略的ではない、という意味です。久しぶりに600枚以上の小説を書けました。「枚数は多めでもいいですか?」と聞いて「500枚くらいなら」と言われたんですが、結局777枚書いてしまいまして。それだと掲載時に雑誌の3分の2を使ってしまうので難しいと言われ、ブラッシュアップして今の形になりました。

――しかし、いろいろな読み方もできますよね。オビには「普通小説」とあるんですね。

佐藤 : 文芸誌でなく違うところで掲載されていたら、ホラーやミステリって書かれていたかもしれませんね。

――この先どういう作品を書かれていくのか、まったく予想がつかないのですが、今後の展望を教えてください。

佐藤 : 今年、29歳になるんです。30歳という節目を迎えようとしているし、もう少しでデビュー10年目となります。前向きに考えるより、後ろ向きに、達成したことよりも達成しなかったことを考える時期に入っていますね。それもあって、今年に入ってからはコンスタントに小説を発表してみようと、各誌で連載を始めるようにしました。まっとうなミステリあり、時代小説あり、SFありと、今まで書いていなかったものを意図して書いています。その中で前向きになれるか、あるいは問題を見つけられればと思っていまして。それと今は、30歳問題に取り掛かっています。男の30歳って"男の子"でいられるギリギリの年齢な気がするんです。社会的なものも含め、男の子として許されるギリギリ。30歳になったら青春小説を書けなくなっていく自覚はあるので、それまでに青春汁の残りを全部出しておかないと。30歳すぎてもずっと若者気取り、というのは僕はできないと思うんです。30歳をすぎればよくも悪くも成長して一般的な作家におちいって、普通になっていくんでしょうね。なので、29歳でしか書けない小説の準備をいろいろ進めています。

――しかしそんなに連載を並行させるなんて大変ですね。

佐藤 : もう計画は破綻しかけています(笑)。大変ではありますが、連載は30歳までにやるべき仕事なのでやっておかないと。30歳を過ぎてからのことは、その時の僕が考えますので分かりません。「やっぱ文学っすよ!」と言っているかもしれませんし、「新本格ミステリ最高!」と言っているかもしれませんし、ホラー小説を書いているかもしれません。30歳になれば方向性が作られると思うので、それまで若々しい気持ちで頑張ります。

(了)