第99回:冲方丁さん

作家の読書道 第99回:冲方丁さん

小説だけでなくゲーム、アニメーション、漫画と、幅広い分野で活動を続ける冲方丁さん。SF作品で人気を博すなか、昨年末には時代小説『天地明察』を発表、新たな世界を広げてみせました。ボーダーレスで活躍し続ける、その原点はどこに? 幼少を海外で過ごしたからこそ身についた読書スタイル、充実の高校生ライフ、そして大学生と会社員と小説執筆という三重生活…。“作家”と名乗るに至るまでの道のりと読書生活を、たっぷり語っていただきました!

その3「リレー小説、読書会」 (3/7)

――高校に進学してからは。

冲方:高校は川越高校という、『ウォーターボーイズ』のモデルとなった学校だったんです。全部活がヘンなことをしていましたね。男子校なので基本的には女の子にモテるためにはどうしたらいいだろうというのが第一命題(笑)。それぞれの知力を尽くしてバカなことをやっていました。僕は美術部と同好会に入っていました。当時バーチャルリアリティーという言葉が流行っていたので、仮想現実同好会という名前だったんですが、まあメディアを学ぶということが主旨でした。当時は活字離れということが言われていたんですが、僕らのリアリティからすると小説もゲームやアニメや映画も全部並列してあって、活字離れというより、漫画や小説の違いがなくなってフラットになってきた、という感覚だったんです。アニメを見る人はアニメしか見ない、という発想なんてなかった。僕たちの感覚では、ゲームにしろ小説にしろ、何かしらコンテンツに関わる仕事をいつかしたいから、今のうちに鍛えておこう、という。みんなで作ったものを披露しあっていたんですが、絵を描いてくる奴もいたし小説を書いてくる奴もいたし、自分でゲームを作っちゃう奴もいた。「ぷよぷよ」のパロディで、下から上に浮いてくるようにDOSで組み直した「ぷかぷか」というのを作ってくる奴がいて、それは大人気でした。"何でもいいからやりましょう"同好会だったんですね。アウトプットとインプットをセットでやっていたんです。見たもの読んだものから影響を受けたら、じゃあやってみよう、という。ごちゃごちゃした模様をじーっと見ていると文字が浮かんでくる立体視ってありますよね。それで新入生歓迎のチラシを作って「内容はここに書いてある通りだから」って言って「読めません」って言われて(笑)。

――冲方さんはどんなことをしていたのですか。

冲方:7人くらいでリレー小説をやりましたね。毎週どんどんリレーでつないでいくんです。みんな意地になって、自分が書いたストーリーにみんなを引っ張り込もうとする。それでものすごい分量になって、最終的には1万ページくらいに(笑)。第一部が完結して第二部スタートになっても、意地になって続けていましたね。

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――どういう内容だったんですか。

冲方:巨大な学園という舞台と主人公キャラを設定して、あとは自由にいろんなキャラクターや事件をどんどん差し込んでいったんです。みんな自分が面白いと思う方に引っ張りたがるから、いきなりほのぼのしたラブコメになったと思ったら、次の奴の番でその相手の女の子が突然殺される(笑)。突然不可思議な力に目覚めたり、天変地異がおきたり、UFOが降ってきたりもしましたね。タイトルが「カオス! カオス! カオス!」で、何をやってもいいよ、ということで。一応、ルールは作ったんです。主人公キャラは殺してはならない、世界を崩壊させてはならない、夢オチにしてはならない、など。でもルールギリギリまで攻めるんですよね。死んではいけないけれど冷凍睡眠ならいいだろう、とか。そうしたリレー小説のほかは、読書会みたいなことをしました。でも男子校でそれをやると、みんな我を主張するんですよね。みんな自分が面白い、最高だと思った本を持ってきて、他の奴が持ってきた本はぶっ叩く(笑)。

――どんな本が多かったのですか。

冲方:バラバラでした。江戸川乱歩を持ってくる奴もいれば、火浦功先生のような、今のライトノベルのはしりのような本を持ってくる奴もいたし。夢枕獏さんの「キマイラ」シリーズや「餓狼伝」シリーズもあったし、菊地秀行先生も多かった。「『魔界都市〈新宿〉』は是か非か」ということを高校生の分際で言っていたんですよね(笑)。『グイン・サーガ』はみんなに「やめろ」と言われました。「読みきれないからせめて外伝にしてくれ」って(笑)。僕自身は、だんだん小説以外に、思想書みたいなものを読むようになりました。ヘーゲルの『哲学史講義』とか。キェルケゴールの『死に至る病』は何を言っているのか分からないので、全部書き写しました。「何が言いたいんだお前は!」とムカつきながら(笑)。ニーチェの『ツァラトゥスラはかく語りき』は読んだのかな、写したのかな...。本屋に行って何か教えてくれそうな本を選んでは読んでいましたね。

――書き写すんですか。ノートに、ですか。

冲方:大学ノートにボールペンで。縦書きを横書きに写すんです。縦書きを縦書きで写すのだと、だんだん作業をこなすだけになってしまってちゃんと読まないんですよね。縦書きを横書きに写すのでないと頭を使わない。あとはスティーブン・キングはハマりました。『クリスティーン』や『ダーク・ハーフ』は写したんですよ。自分の場合、ハマる=模写なんですね(笑)。ついついやってしまうんですが、『トミー・ノッカーズ』は死ぬほど写しても終わらなくて、『IT』も1巻の途中まで写した時に残りが3巻あると聞いてやめました。僕の高校時代はこれで終わってしまうと思って。

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