第99回:冲方丁さん

作家の読書道 第99回:冲方丁さん

小説だけでなくゲーム、アニメーション、漫画と、幅広い分野で活動を続ける冲方丁さん。SF作品で人気を博すなか、昨年末には時代小説『天地明察』を発表、新たな世界を広げてみせました。ボーダーレスで活躍し続ける、その原点はどこに? 幼少を海外で過ごしたからこそ身についた読書スタイル、充実の高校生ライフ、そして大学生と会社員と小説執筆という三重生活…。“作家”と名乗るに至るまでの道のりと読書生活を、たっぷり語っていただきました!

その4「高校時代にデビュー作を執筆」 (4/7)

黒い季節
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冲方 丁
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ベルセルク (1) (Jets comics (431))
『ベルセルク (1) (Jets comics (431))』
三浦 建太郎
白泉社
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ばいばい、アース 1 理由の少女 (角川文庫 う 20-1)
『ばいばい、アース 1 理由の少女 (角川文庫 う 20-1)』
冲方 丁
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マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮 (ハヤカワ文庫JA)
『マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮 (ハヤカワ文庫JA)』
冲方 丁
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――小説を書き始めたのも、高校生の頃ですか。

冲方:絵で食べていくか、小説家になるかを考えていて、高校生の終わりに、自分は活字で生きようと決めたんです。それで、デビュー作を書いて。

――活字で生きようと思って最初に書いた作品が第1回スニーカー大賞を受賞した『黒い季節』だったんですか。

冲方:そうです。川越高校はヘンな学校で、夢を実現するために今から頑張ろうという空気があったんですね。たいてい大学に入るとノリが合わなくて絶望すると言われていて、みんな高校時代のうちに自分が何者になるか、深く考えるようになる。自己実現に対して貪欲な学校だったんですね。だから受験勉強と同時に、この小説を書き上げないと自分は卒業できないんじゃないかっていう気持ちがありました。そんなわけないのに(笑)。毎日小説を書いて、だんだんそっちのほうが重要になっていました。美術部で油絵を描くのはもうやめていましたし。

――あ、美術部では油絵をやっていたんですか。

冲方:文化祭ではベトナム戦争で枯葉剤の影響で生まれた奇形児の絵をいっぱい描いて、「ここまでやるか」と言われました。当時はグロテスクなものに惹かれていたんですね。描き方もドットを1日6時間くらいテンテンテン...と。

――点描画だったんですね。絵で食べていくか、というのはイラストレーター的なことかと思ったら、そうした油絵を描いていたんですねえ。

冲方:あ、それで思い出したんですが、『ベルセルク』一巻だけ全部写しましたね。

――漫画を、ですか!

冲方:それで、漫画は辞めようと思ったんです(笑)。三浦建太郎との才能の差を感じたこともありますが、漫画は自分に向いていないなと思ったんですね。書き写しているうちに内面描写を増やしたくなるんですよ。でも吹き出しを足していくと絵を書き込む隙間がなくなってしまう。このもどかしさは小説でないと解消できないなと思ったんです。それに当時は紙とペンだけ。フォトショップもなかったし、トーンを買うお金もなかったので、トーンのかわりに鉛筆をぼかして描きこんでいました。Gペンが高いので、これ以上削れないようにとビクビクしていて。それもあったんですよ。漫画ってなんてお金がかかるんだろう、これじゃ食っていけないと思ったんです。小説は大枚はたいてワープロを買って書くようになって、しばらくたってパソコンが一般化されてきて。

――お話をおうかがいしていると、すごく充実した高校生活だったのだろうなあと感じます。

冲方:高校生同士でどうやって時間をうまく使うかという話をしていましたね。睡眠時間はこれ以上削れない、とか。懐かしいですね。

――大学に進学して、デビューも決まって。そこからは...。

冲方:18歳で受賞して19歳で本が出てデビューした後、ゲーム会社に勤めたんです。ひとつは会社、社会を経験したいという理由で、もうひとつはコンピュータを勉強したいという気持ちがあったから。LANの仕組みも知りたかったし、出始めたばかりのOUTLOOKのことも知りたかったし。

――む? 大学に進学されたのでは。

冲方:大学に入って翌年、大学に行きながらゲーム会社に入ったんです。その間に『ばいばい、アース』と『マルドゥック・スクランブル』を書いていたんです。大学は出版した本を持っていって単位をもらったりして、4単位しか取っていないのに2年生にしてもらいました。授業も1年のうちに何回かだけ行って、断片的なものから総合的に推測して、試験だけ受けていました。そういうことをやっていて生活のつじつまが合わなくなってしまったので、学校は辞めることにして。辞める理由を伝えなくてはいけないので『ばいばい、アース』を持っていって「仕事が忙しいので辞めます」と伝えたら「そういうことならいつでもいいからまた戻ってきなさい」と言われました。それでそのままゲーム会社に勤めて、ひと段落して小説と漫画に集中しつつ、『マルドゥック・スクランブル』の出版先を探し、出版してSF大賞を取って、その少し前からアニメもやらなくちゃダメだと思って...。デビューした時に決めたんですよ。活字離れということが強く言われているけれどその意味が分からない、活字は万能のメディアなんじゃないだろうか、じゃあ全部経験してみよう、と。小説と、ゲーム、アニメ、漫画の原作と、四媒体を全部経験してみて、それから活字離れとはなんぞやと考えようと思ったんです。結局全部できたのは24歳でしたね。

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