
作家の読書道 第106回:大島真寿美さん
大人の女性たちの人生模様から若い世代の成長まで、幅広い作品を発表、リズミカルな文体で現代の人々の人生を鮮やかに切り取っていく大島真寿美さん。実は幼い頃からジャンルにこだわらず幅広く本を読まれてきた様子。心に残っている本は? 劇団を旗揚げし、その後小説家を目指した経緯とは? 大島さんの気さくなお人柄により、とても楽しいひとときとなりました。
その2「筒井さんがナビゲーター」 (2/6)
――中学校時代はいかがでしたか。
大島:SFはずっと読んでいました。ほかにもその時々で面白いと思うものを手にしていましたね。漱石なんかも。とにかく筒井さんは読んでいた記憶がありますね。エッセイなどで薦めている本があると、「筒井さんが薦めているなら面白いだろう」と思って読んでいました。なんだかいろいろ薦めてもらった気がする(笑)。大江健三郎を知ったのも筒井さんがきっかけ。それは高校生くらいだったと思うんですけれど。
――古今東西、いろんな本を教えてくれそう。
大島:そうそう。だからすごく便利なんです(笑)。しかもすごく面白いものしか薦めないんですよね。ちょっと難しいものもあったけれど、分からないなりに楽しめました。
――まわりと比べて、明らかに本好きな少女だったんでしょうか。
大島:家族の間ではそう思われていました。外ではどうだったのかな。大人になって友達と話していて、「子供の頃、引き出し中全部お菓子にしたかった」って言うからびっくりして。私、そんなこと一ミリも思ったことなくて、「そんな欲望ありうるの!」って。私は好きなだけ本が買えたらいいのにって思っていたんです。欲望っていろいろだなあと思ったんです。とにかく私は本ならなんでも好きだったんです。
――活字中毒のような。
大島:そうそう。
――家には相当本があったのではないですか。
大島:ありましたね。怒られたもん(笑)。「なんとかしろ」って言われました。漫画なんかは捨てられちゃうので、それでケンカになったことを今思い出しました。
――将来書く人になる、という気持ちは中学生になってからも変わらなかったのですか。
大島:中三の進路アンケートに「文筆家」って書いて呼び出されました。高校の何科に進みたいのか、といった具体的なことを書かなきゃいけないのに、あまりにも漠然とした大きな夢を書いてしまったわけですね。もう一人呼び出された人がいて、それは「評論家」って書いてた。彼女は今どうしてるんだろう......。
――「作家」や「小説家」ではなくて「文筆家」だったんですね。
大島:何を書くかは分からなかったんです。何かを書く仕事になりそうな気はしていたんですけれど。自分で書いているものも小説ではなかったですね。断片みたいなものだったんじゃないかな。
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――日記や読書記録などは書いていなかったのですか。
大島:そういうのが嫌いだったの。今でもブログなんかが全然できない。何が書きたいのか分からないんです。
――あ、マメじゃないから、という理由ではないんですね。
大島:違うんです。何を書けばいいのか分からない。自分の何を人々に知らせればいいのかって思う。エッセイはまた別ですけれどね。あれは虚構といえば虚構でもあるし。
――高校時代の読書生活では、ではどんな本を読みましたか。
大島:橋本治さんの『桃尻娘』! 大好きでした。読んだきっかけは、図書室か人からか、借りたということだけは憶えています。その頃庄司薫さんの『赤頭巾ちゃん気をつけて』にハマる人が多かったんですよね。私は「赤頭巾ちゃん」よりも『桃尻娘』だわって思っていて。文体も書いてあることもすごく好きで、そこから橋本さんの本は追いかけました。途中でちょっと途切れる時期もありましたが、新刊の『リア家の人々』も読みましたし。あとは谷崎潤一郎。谷崎作品が入っている幻想文学全集を読んで、そこに入っているほかの作家を読んでみたり。宮沢賢治も入ってたな。でもハマりませんでした。澁澤龍彦とか稲垣足穂とかは、フリークになる人もいますけれど、そんなにハマらなかった。あとは赤瀬川源平さんもすごく好きでした。尾辻克彦名義のものも読みました。あの文体が好きだったんですよ。不思議な文体。
――好きな人がいるとずっとその人を追いかけるほうですか。
大島:バラバラなんです。追いかける人もいるし、そこから他の作家に広がっていく人もいるし。集中型ではなく分散系であることは確か。乱読で、執着なくぱーっと読んでぱーっと忘れちゃう。途中で展開が分かって私すごいなって思っていたら、前に読んだ本だった、なんてことも。でも『桃尻娘』と赤瀬川さんの本は繰り返し読んだので憶えています。
――自分で書くことは続けていたのですか。
大島:そうですね。そうそう、高校の先輩に山田正紀さんがいらっしゃるんです。講演会は嫌いという方なんですけれど、義理人情なのか、高校に来てくださったんです。その時にQ&Aの時間があって「作家になりたいんですけれど、どうしたらいいんですか」って質問した生徒がいて。そうしたら「新人賞に応募すればいいんです」って。そこで私はそうか、新人賞に応募すれば作家になれるんだって思ったんですよ。それがインプットされていて、それから十年くらいたったときに、新人賞に応募しよう、よく漫画を読んでいた集英社にしようと思ったわけです。
――文章修行の方法などではなく、そんな具体的なアドバイスが。
大島:もう、嫌で嫌でしょうがなくってはやく舞台を去りたいってオーラが出ていたんです。その後、その時のことをエッセイに書いて、山田さんにお送りしたら「まさにそうだったんです」ってお返事がきました(笑)。私はその頃山田さんの作品を読んで、すごい、神だ、って思っていたので、神様が目の前で喋っている、って思って見ていたんですけれど。