第106回:大島真寿美さん

作家の読書道 第106回:大島真寿美さん

大人の女性たちの人生模様から若い世代の成長まで、幅広い作品を発表、リズミカルな文体で現代の人々の人生を鮮やかに切り取っていく大島真寿美さん。実は幼い頃からジャンルにこだわらず幅広く本を読まれてきた様子。心に残っている本は? 劇団を旗揚げし、その後小説家を目指した経緯とは? 大島さんの気さくなお人柄により、とても楽しいひとときとなりました。

その4「作家デビューした頃」 (4/6)

――大島さんは単行本デビューは集英社から出た『宙の家』ですが、その前に「春の手品師」で文學界新人賞を受賞されていますよね。

大島:『すばる』は最終選考に残ったんですけれど受賞しなかったんです。でも、発表の前に声はかけてもらって、書かされてはいたんです。でも賞は取れなくて、その頃たまたま矢川澄子さんにお会いする機会があって「落ちちゃったんです」と言ったら「他のを書いてまたどこかに応募しなさいよ~」って言われて、そういうものなんだと思い、『文學界』に出したんです。それは集英社の人には言っていなくて、冗談みたいな気分だったんですね。そうしたらそれが受賞しちゃって。集英社の人に言ったら、集英社の単行本のオビに「『文學界』でデビュー」と書かれて(笑)。うやむやな感じになってしまいました。

――デビューする前の頃は、どんな本を読んでいたのですか。

大島:谷崎なんかを読んでいたのがその頃ですかね。現代小説も読みました。村上春樹さん、村上龍さん、高橋源一郎さんたちがわーっと出てきた頃だったので。相変わらず乱読でした。

――小説を書こうと思ったとき、ジャンルやスタイルに関して影響を受けたと思う作品はありませんでしたか。

大島:全然ないんです。「宙の家」も、何を書こうと思って書いたわけでもなくて。書いた一行が呼ぶ次の一行を書いていったという感じなんです。ジャンルも意識していなくて、どの雑誌に出せばいいのかも分かっていなかったですね。

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――読書生活に変化はありましたか。

大島:出版社から送られてくる本や文芸誌が増えたので、それを妙に律儀に読んでしまうんです。自分で選んで好きな本を読む時間は減りましたけれど、でも楽しいので満足していますね。編集者に「こんなに文芸誌を読んでいる人はいない」って言われるくらい隅々まで読んでしまう。半身浴しながらじっくり読んでいるので。

――そうして読んでいる中で、気になる作家といいますと...。

大島:舞城王太郎! 訊かれると思って考えておいたの(笑)。文芸誌で読んで知って、すごく面白いと思ってずっと追いかけているんです。最近読んでよかったのは『ビッチマグネット』。ここ何か月かの中でいちばん面白かったです。橋本治さんと舞城さんってつながる気がしているんです。世界との向き合い方というか。男性作家が書く女の子って、嫌だなと思うことがあるんですが、橋本さんにも舞城さんにもそれがないんですよね。

――そういえば、海外小説はあまり手にとらないのでしょうか。

大島:海外モノはミステリをよく読んでいましたよ。『幻の女』のウィリアム・アイリッシュは別名義のコーネル・ウールリッチの作品も読んでいました。フォーサイスとかグレアム・グリーンとかのスパイものとかも。チャンドラーも読みましたね。そういえば、ジョルジュ・シムノンも好きでした。あとは二十代の頃にはスティーブン・キングががんがんに書いていた頃なのでずっと追っかけていました。

――では、日本のミステリも読まれていたのですか。新本格とか。

大島:読む読む。綾辻行人さんの館シリーズは読んでいましたね。北村薫さんとか。

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