第106回:大島真寿美さん

作家の読書道 第106回:大島真寿美さん

大人の女性たちの人生模様から若い世代の成長まで、幅広い作品を発表、リズミカルな文体で現代の人々の人生を鮮やかに切り取っていく大島真寿美さん。実は幼い頃からジャンルにこだわらず幅広く本を読まれてきた様子。心に残っている本は? 劇団を旗揚げし、その後小説家を目指した経緯とは? 大島さんの気さくなお人柄により、とても楽しいひとときとなりました。

その5「"ふわふわ"が小説の種になる」 (5/6)

すりばちの底にあるというボタン
『すりばちの底にあるというボタン』
大島 真寿美
講談社
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ぼくの歌が君に届きますように―青春音楽小説アンソロジー
『ぼくの歌が君に届きますように―青春音楽小説アンソロジー』
天野 純希,大島 真寿美,風野 潮,川島 誠,小路 幸也,丁田 政二郎
ポプラ社
1,575円(税込)
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――今、一日のサイクルはどうなっていますか。

大島:執筆時間は午後。夜ご飯を食べる八時くらいまで。今は書き下ろしが遅れ気味なので、夜ご飯を食べた後もちょっと書いています。読書はお風呂の中とか休憩時間とか、地下鉄や新幹線の中とか、ご飯を食べながらとか。

――ご飯を食べながら?

大島:夢中になる時は(笑)。

――ジャンルを意識されていないということですが、児童書やヤングアダルトはお読みになりますか。ご自身でも若い人が主人公の小説をお書きになりますし。

大島:児童文芸誌を読んだりはしますが、あえて読むわけではないんです。若い人が主人公のものを書く時も、私としては普通の小説を書いているつもり。だから、これは児童文学かなあーと思うこともありますね。最近でも『すりばちの底にあるというボタン』を出しましたが、これもギリギリセーフかなと思っていたり。若い人向けのものは一人称で書かない、というくらいの制約しかない(笑)。ジャンルの意識は薄いですね。

――執筆している小説のために資料を読む、ということはありますか。

大島:今、取り掛かっている書き下ろしが、十八世紀のヴェネツィアが舞台なんです。なので、とてつもない資料の中で書いています。こんなに勉強したのは初めて、っていう。去年、青春小説のアンソロジーで「ピエタ」っていう短編を書いたんですね。その長編をやっているんです。

――『ぼくの歌が君に届きますように』というアンソロジーですね。

大島:五年くらい前に、ヴィヴァルディを聴いていた時に、ふわふわって感触があって。ああ、これは書けるって思ったんですけれど、編集者に「ヴィヴァルディを書きたい」って言っても「えっ」で終わって、「書いてくれ」って言われることはなかったんです。そのアンソロジーの話が来た時、実は断るつもりで目も合わさずに話して、無理だろうと思いつつ「ヴィヴァルディを書きたい」って言ったら「いいですね」って(笑)。書いたらフタが開いちゃってとまらなくなって長編を書くことにして、もう大変なことになってます。それは来年の二月に刊行予定です。

――ふわふわっとした感触があると、小説が書ける、という。プロットは最初に立てないんですか。

大島:書きながら先が少しずつ立ち上がってくるんです。だから最初は自分でもどうなるか分からない。枚数をインプットしておくとだいたいその枚数に調整されるみたい。キャラクターも勝手に立ち上がるんですよ。つまり、あんまり考えずに書いているんですよね。自分が続きを読むためには、自分で書かなくてはいけないから書いている。

――会話がずっと地の文で続いたりと、文体にぐっと引き込むリズム感みたいなものがありますよね。

大島:ルール無視ででたらめなことをやっているなとは思うんです。センテンスも長くなったり短くなったり。でも自分のリズムで書こうとするとああなるんですね。それが狂うと本当に書き進められなくなる。読者の方、読みにくくてすみません。

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