第107回:百田尚樹さん

作家の読書道 第107回:百田尚樹さん

現在、デビュー作の『永遠の0』が大ベストセラーとなっている百田尚樹さん。放送作家として『探偵!ナイトスクープ』などの人気番組を手がけてきた百田さんは、本とどのように接してきたのでしょう。50歳を目前にして小説を書き始めたきっかけ、そして小説に対するこだわりとは。刊行前から噂となっている大長編についても教えてくださいました。

その3「名作映画とボクシング」 (3/6)

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――百田さんは後に放送作家になるわけですが、テレビや映像に興味はあったのですか。

百田:映画も好きでした。毎週楽しみにしていたのがテレビの日曜洋画劇場。40~50年代の白黒映画をめっちゃくちゃ見ました。親父がまた映画好きなんですよ。それでこれはいいから観ろ、と言う。ジュリアン・デュヴィヴィエの『望郷』、シドニー・ルメットの『十二人の怒れる男』、ボガードとバーグマンの『カサブランカ』...。超・名作ばっかりやってたんですよ。あれはすごくよかったですね。ただ、バラエティー番組はあははと笑って見るもので、別世界のものと思っていて、仕事で関わるなんてまったく思っていませんでした。

――さて、高校生活はいかがでしたか。

百田:奈良県に引っ越したんですが、県内でトップを争うくらいのアホな高校にいきまして。成績表も5段階評価の2ばかりでした。こんだけ勉強でけへんのに2ってことは、俺よりアホがあるんかと思っていたら、卒業した後で分かったのが、学校が1はつけないという方針やった。僕の2は実際は1やったという。それで、高校でも全然勉強しないで、当然読んだ本も一冊もない。ただ、映画は好きだったんです。アルバイトもするし多少自分のお金もできるんで、しょっちゅう学校をさぼって映画館に通っていました。昔の映画でこんな名作やあんな名作も見たいと思って探していくと、名画座で上映していたりするんです。会場を借りて自主上映する映画の団体や同好会も結構あったんで、そういうのも探して行きました。当時はビデオも何もないですから、その時しか観ることができない。全部憶えようと思って、1日3回上映なら3回とも観るんです。エイゼイシュテインの『戦艦ポチョムキン』とかは、有名な「オデッサの階段」の場面はカットシーンを全部数えて憶えました。

――乳母車が階段を落ちていくという、有名な場面ですよね。わりと長いシーンですが、それを全部。

百田:その時のクセで、今でも映画を観るとほとんど憶えてしまうんです。ディレクターはみんなそういうところがあると思うんですけれど。ベテランのディレクター同士の会話なんて「あのカットは長いから最後をちょっと切れ」「あのカットの次にあのカットを持ってこい」だとか言っていて、たぶん新入社員はついてこれないと思います。

――エイゼイシュテインのモンタージュ論の本なんかは読んだりしたのですか。

百田:そうそう、ちょうどキネマ旬報社から『エイゼンシュテイン全集』が出たんで、それを買いました。小説は読まないのに、そういうのは読めるんです。2000円しましたね。当時ウエイターのバイトが時給200円くらいだったんで、1日バイトしたくらいの値段でした。高校の終わりから大学に入るくらいの頃は、将来映画監督になりたいなとは思っていました。

――大学でも相変わらず小説は読まなかったのですか。

百田:大学時代に読んだものは10冊もないと思うんですけれど、憶えているのが井上靖の『敦煌』。先輩に面白いから読めといわれて読んだら、本当にすっごく面白かった。でも僕の常で、そのあと井上さんの作品は読んでいません。大学時代はボクシング部だったので、朝から晩まで練習ばかりやっていました。昔から好きでいつかやってみたいと思ってたんです。もともと運動は好きで、自分で走ったりしていました。高校時代もいろんな部活ははいったんですけれど、団体競技が苦手で。個人でやるスポーツがいいなと思っていました。高校にはボクシング部はなかったので、大学で入ってみたら楽しくて、毎日練習してました。そこでしっかり勉強もしていたら文武両道になれたんですけれど、文はなかったですね。ひたすらどうやって相手をどつこうか考えていました。大学には5年もおったんですが、中退しまして。

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