第107回:百田尚樹さん

作家の読書道 第107回:百田尚樹さん

現在、デビュー作の『永遠の0』が大ベストセラーとなっている百田尚樹さん。放送作家として『探偵!ナイトスクープ』などの人気番組を手がけてきた百田さんは、本とどのように接してきたのでしょう。50歳を目前にして小説を書き始めたきっかけ、そして小説に対するこだわりとは。刊行前から噂となっている大長編についても教えてくださいました。

その5「小説を書く」 (5/6)

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――では、百田さんは小説を書こうと思ったのはいつぐらいからなのですか。

百田:29歳くらいの時に、突然僕も書いてみようと思ったんです。それで1年半くらいかけて書きました。2100枚のものを。

――あれ? ちょっと前に「今、手元に2000枚の長編原稿がある」ってツイッターでつぶやいていましたよね。その後出版社からいろいろアプローチがあったようで...。それのことですか。

百田:そうです。手書きで2100枚。書き終えた後、どうすんねんこれ、わしゃ何を考えて書いたんやろと思いましたね。これを出版できる方法はひとつだけ、作家になって、さらにベストセラー作家になるということ。ということは別の本を書かないといけない。やってられるかいなと思いながらも、別の小説を書こうと思っていた頃に、結婚して子供が生まれて。かみさんも働いとったんですが、2人目ができて退職したので、僕が働かなあかんなーと思ってがーっとテレビの仕事を真剣にやりだしたんです。それで小説のことは忘れて、30代から40代はずっとテレビの仕事ばかりです。

――人気番組の『探偵!ナイトスクープ』もずっと関わってらっしゃるんですよね。

百田:はい。一所懸命やってて、子供が大きなって、ハッと気づいたら50歳になってました。知らん間に50か、昔やったら人生50年で終わってたけど、今まで何してきたかな、テレビの仕事も楽しくて面白くて大好きやけど、不満もあるなあと思って。今はDVDがあるけれど、バラエティー番組は1回放送すれば終わりでしたから。あんだけ知恵とアイデアを出し合って作ったのに1回で終わるのはテレビの良さでもある一方で寂しい。それに共同作業ですから、1時間の台本を書いても、演出するのはディレクターで演じるのはタレントや役者で、さらに編集マンや音声さんが関わって、最終的にはプロデューサーに決定権がある。ひとつの番組に自分がどれだけ関わっているのか数値化できないところがあるんです。それもテレビのええところであるけれど、一方で寂しい。その時に、あ、昔小説書こう思ってたな、また頑張って小説を書いてみよう、と思って50歳手前から書き始めたのが、『永遠の0』やったわけです。

――戦時、零戦に乗って命を落とした祖父の真実を、現代の青年が探るというお話。先ほどもおっしゃっていたように戦争が身近だったこと、そして戦争を知っている世代がだんだんいなくなってきていることなどがこのテーマを選んだ理由とうかがっております。

百田:その通りです。書き始めたら割合はやかったですね。3か月くらい。

――はやい!

百田:大人になってからも作文は全然ダメで、放送作家になってからも四苦八苦していたんです。5分くらいのナレーションを書くのに何時間もかかっていました。でも、どんなに時間をかけて書いてもギャラは一緒なんですよね。ならはやく書いたほうが時間単位のギャラが多くなるんで、できるだけ急いで書こうと訓練したので、今は大阪イチはやい放送作家やと思います。ディレクターからも驚異的にはやい、と言われます。「生放送5分前だけど書ける?」「大丈夫や!」って。

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――そうして一気に書き上げた『永遠の0』は、太田出版から出ることとなりますね。

百田:太田出版の社長の岡聡さんと知り合ったのは10年くらい前で、1冊ゴーストライターで本を出した時の担当が岡さんだったんです。それで頼んでみようか、と。その前に最初はある大手出版社に送ったんですけれど、封も切らずに送り返されました。それは恨む気持ちはまったくなくて、読まなくちゃいけないものがいっぱいあるんで相手にしてられへんやろな、と思いました。それで1度だけ飯を食ったことのある文庫の編集者に試しに送ったら、「これはうちでは無理です」と言われてしゃあないなあと思って。1000枚くらいあるので新人賞の規定ははるかに超えているので、世に出すのは無理かと思っていたんですが、じゃあ岡さんに頼んでみよう、でも太田出版って小説ほとんど出してないから無理やろうなと思っていたんです。それでも読んでもらったら「うちで出したい」と言ってくれて。その頃別なルートで他の大手出版社にも頼んでいたんですが、太田出版から返事をもらった後で「編集会議に出すので、通れば出版できます」と連絡がありました。そこは小説もたくさん出しているところだったので、どうしようかなあと思ったんですが、先に言うてくれた岡さんにお願いすることにしました。これでやった、もうベストセラーや、夢の印税生活やと思ったら、本は売れなくて書評にもひとつも載らなくて。執筆依頼もくるやろ思ったらまったく来ませんでした。

――そして次の作品に取り組んでいって。

百田:1年後に出した『聖夜の贈り物』も売れなかったんですが、さらに1年後に『ボックス!』を出したら、出してから3か月くらいの間に10社くらいから執筆依頼が来ました。小説というのはよう分からんけどプロが見たら『永遠の0』は致命的な欠陥があるんかなと思っていたんですが、後から聞くと、みなさん『ボックス!』を読んでから『永遠の0』を読んで、執筆依頼をしてるんですよ。実は『ボックス!』が出た時に北上次郎さんが新聞とかで面白いって書いてくださって、それを見た編集者がまず『ボックス!』を読んで...ということなんですね。『永遠の0』が箸にも棒にもかからんのではなく、読まれてなかったんだ、と思いました。

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