作家の読書道 第114回:樋口毅宏さん

2009年に『さらば雑司ヶ谷』でデビュー。スピード感あふれる展開、さまざまな映画や小説作品へのパスティーシュを盛り込んだ斬新な手法で読者を翻弄する樋口毅宏さん。最近では『民宿雪国』が山本周五郎賞の候補になるなど注目度が高まる彼は、どのような作品に触れながら小説家への道を辿ったのか。小説同様スピード感あふれるしゃべりっぷりをご想像しながらお楽しみください!

その1「星新一は偉大」 (1/4)

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――樋口さんのデビュー作は雑司ヶ谷が舞台ですが、実際にお生まれも雑司ヶ谷なんですよね。

樋口:はい、鬼子母神病院で生まれました。

――『さらば雑司ヶ谷』と『雑司ヶ谷R.I.P』に登場する新興宗教の教祖、大河内泰は樋口さんのおばあさんとお名前が同じですよね。『民宿雪国』も祖母の鈴木フサさんの故郷を舞台にしたそうですが、確か、幼い頃家のお隣がフサさんの家だったとか。泰さんもフサさんも雑司ヶ谷にお住まいだったということですか。

樋口:そうです。樋口泰は父方の祖母、鈴木フサが母方の祖母です。樋口泰は今でも雑司ヶ谷で元気ですよー。僕以上にしゃべります。父と母は四歳違いで、そろばん塾で一緒だったから、互いに子供の頃から顔は知っていたそうです。僕も小学生の時にその塾に通うことになるんですけど。その後二人はお見合いのような形で結婚したんです。

――今思うと、どんな子供でしたか。例えばインドアかアウトドアか。

樋口:子供の頃は普通に学校の友達や書道教室の友達と遊んでいたんですが、小学校1、2、3年と年齢を重ねていくにしたがって、どうやら自分は運動神経を母胎に置き忘れてきたということに気づきまして、かといって勉強ができるかというと悲しいくらいにできなくて、おのずと本や漫画を読んだりテレビを見たり音楽を聴く時間が長くなっていったのでインドアですね。

――いちばん馴染んだのはどのメディアだったと思いますか。

樋口:最初はやはり子供ですから、漫画でしょうね。『コロコロコミック』が創刊した頃なので『ドラえもん』を。あとは全盛期を迎えていた『少年ジャンプ』に夢中になって。あの頃は『キン肉マン』や『北斗の拳』、『DRAGON BALL』が連載されていたんです。『ジャンプ』を読んでいない子供なんていなかったんじゃないかな。テレビの「8時だヨ!全員集合」や「オレたちひょうきん族」を見ていない子供もいなかったと思う。子供たちの共通項が今よりもはっきりしていたと思います。

――小説を夢中になって読んだ、というはっきりとした記憶はいつ頃になりますか。

樋口:中学生の頃はご他聞にもれず、星新一を読んでいましたね。ちょうど何度目かのブームで、書店でもフェアをやっていて。乱読に次ぐ乱読で、手に入るものはすべて買って読みました。和田誠さんの挿絵が大好きだったなあ。単純にストーリーが面白いと思っていました。数読むうちにだんだん「こういうオチじゃないか」って予想するんだけど、それが毎回覆っていく。あの面白さ。あれだけ無駄をそぎ落とした文章で誰にでも分かる話にしているのに深い。偉大だと思いますね。大人になってから最相葉月さんの評伝『星新一 一〇〇一話を作った人』も読んで感慨深いものがありました。

――好きな作家ができると、その人の作品を追いかけるタイプ。

樋口:今でもそうです。当時は星さんの本は全部買いましたね。ブームだったので手に入りやすかった。

――ご兄弟や同級生で本の情報交換したりとかは。

樋口:兄妹は3つ上の兄と、8コ下の妹がいます。兄は音楽や漫画の好みは共通していたんですが、本はなかったですね。とにかく僕は完全に星新一派で、筒井康隆を読んでいる人はいたけど目覚めるのが非常に遅れて、30歳を過ぎてからでした。

――他の作家の作品で忘れがたいものといいますと。

樋口:高校に入ってからは村上春樹です。高校2年生の頃に『ノルウェイの森』の大ブームがきたんですよ。僕は今も昔も、小説でも映画でも音楽でも、流行になっている作品はちょっと引いてしまうんですが、これはまず上巻を買ったんです。はじめてでした、本を1冊その日1日で読みきったのは。次の日に下巻を買って授業中も読んで、本2冊を2日で読んだんです。そこから村上春樹作品を遡って、デビュー作の『風の歌を聴け』から全部読みました。翻訳ものは除くけど、小説やエッセイは全部。

――どうしてそこまで夢中になったのでしょうね。

樋口:なんででしょう? ボキャブラリーが貧困で申し訳ないけど、本当に面白いとしかいいようがなくて。文学経験のないガキから読書家まで魅きつけるし、間口が広くて深さもある。とにかく驚きました。僕の中の村上春樹のピークは『ノルウェイの森』の後に出した『ダンス・ダンス・ダンス』なんです。それ以降、世界的に認められていきますが。...と言いつつ、『1Q84』の「BOOK1」と「BOOK2」は4日間部屋に籠もって読みました。飯食っている時も、風呂入っている時も読んで、なんだかんだ言って大好きです。あれはみんな文章を真似しちゃうと思うし、僕も影響を受けたと思います。ただ、影響を受けすぎてもダメだなと高校時代にして分かりました。当時、音楽雑誌を読んでいても村上もどきで書いている文章はよく分かりまして。「やれやれ」とか文章に入れちゃったりしていて、そうするともう興ざめ。どう真似をしても村上春樹にはなれないんだし、それなら自分の文体を持たないとダメだなというのはあの頃から分かっていました。

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プロフィール

樋口毅宏(ひぐちたけひろ) 1971年、東京都豊島区雑司ヶ谷生まれ。出版社勤務を経て『さらば雑司ヶ谷』で小説家デビュー。