第126回:須賀しのぶさん

作家の読書道 第126回:須賀しのぶさん

明治期に一人の少女が大陸に渡り、自らの人生を切り開いていく『芙蓉千里』シリーズがいよいよ完結を迎えた須賀しのぶさん。歴史の知識、アクションあり驚きありの冒険譚はどのようにして生まれるのか。幼い頃からの読書遍歴をうかがってそのあまりの“須賀さんらしさ”に膝を打ちます。作品に込めた熱い思いも語ってくださいました。

その6「壮大な大河ロマン『芙蓉千里』」 (6/6)

――さて、須賀さんの新たな代表作となる『芙蓉千里』の第三巻、完結編がいよいよ6月29日に発売になりますね。明治期に一人の少女フミが大陸に渡り、激動の時代のなかまさに自分の力で世界を切り開いていく大河小説。ハルビンで舞姫として成功していく話かと思ったら、そこから飛び出してどんどんスケールが広がっていくので驚きました。コバルトで書いていた頃からプロットがあったそうですが。

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『永遠の曠野 芙蓉千里Ⅲ』

須賀:コバルトで書いた「流血女神伝」シリーズは、少女小説のセオリーを破りまくってはいるんですが、だからこそ主人公ができるだけ反感を買わないようにかなり気を遣っています。最終的には自分で選択するけど、それまではやっぱり受動的なんですよ。それでも身勝手だと言われたりしましたが(笑)。彼女はあれでいいんですが、でも本当に新世界にとびだしてガンガン冒険するような女の子は、世間など何くそでぶっとばしていくよなあ......という思いもありました。私自身、読書をするときに登場人物に共感などはいっさい求めないので、破天荒だけど嫌われず女子読者が共感できるようなヒロイン、という難題にはずっと頭を抱えていました。ですので、そういう縛りなしで、大好きな時代を舞台にした女子大河ロマンを一度書いてみたい、ということで『芙蓉千里』ができたんです。

――たしかにフミは能動的ですし、そこが読んでいて非常に気持ちがいい。それに実際の世界、しかも激動の時代が舞台となっていて、歴史的背景が盛り込まれているところもエキサイティングでした。

須賀:人間を書くのが小説なんでしょうけれど、気がつくと歴史を書いていて、いかんいかんフミを出さないと、という状態で。年表なども作りましたが、それはもう趣味なんで。

――取材旅行はしたのですか。あと、乗馬や舞いののシーン。闘いの場面の身のこなしなども描写も見事です。

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須賀:ハルピンには行きました。最初は大連を舞台にするつもりだったんです。でも調べたら当時、東北の子たちはウラジオストックからハルピンに行ったと知って急きょ変えたんです。乗馬はやっていたんです。「流血女神伝」を書いた時に主人公が馬に乗れないという設定だったので、これは分からないと書けないと思って習いにいったら楽しくてハマりました。今はもうやっていないんですが。舞いはフラメンコはずっと習っていたくらいです。闘いの場面については習いようがないですが、別の小説で陸戦の場面を書く時には「こうなのかな?」なんて家で匍匐前進していました(笑)。

――さて、『永遠の曠野 芙蓉千里Ⅲ』以降の刊行予定を教えてください。

須賀:『芙蓉千里』第一巻がコミカライズされて新創刊の漫画雑誌『サムライエース』に連載されます。絵は梶原にきさん。6月26日に刊行されるそうです。大河少女漫画が読みたいとずっと思っていたので、やっと夢が叶いました! さきほど触れた「乙女座スラッガー」は夏くらいには連載が終わるので、年度内には出したいなと思っています。今取り組んでいるのはそれと、あとは、『新潮ケータイ文庫DX』で、海軍ものの「紺碧の果てを見よ」を連載中です。大正末期から戦後まで全2巻で書こうと思っています。

(了)