第158回:中山可穂さん

作家の読書道 第158回:中山可穂さん

人間の魂の彷徨や恋愛を鮮烈に描き出す中山可穂さん。昨年にはデビュー作『猫背の王子』にはじまる王寺ミチル三部作の完結編『愛の国』を上梓、今年は宝塚を舞台にした『男役』が話題に。実は宝塚歌劇団は、10代の中山さんに大きな影響を与えた模様。そんな折々に読んでいた本とは、そして執筆に対する思いとは。

その6「好きな作家&今後について」 (6/6)

  • 檀流クッキング (中公文庫BIBLIO)
  • 『檀流クッキング (中公文庫BIBLIO)』
    檀 一雄
    中央公論新社
    720円(税込)
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――今、一日のサイクルは決まっていますか。

中山:書いてるときは、執筆しかしません。短期集中型なんですよ。数カ月集中した後で、書き上がると旅に出たり、カワセミの写真とかを撮りに行ったりしています。執筆中は資料以外の本は読みません。全精力を使うので、執筆以外のことはまったく何もできなくなります。

――よく読む作家はいますか。

中山:また話が前後しますが、さっき言った作家以外で言いますと、もちろんダブル村上は読んでますし、初期の吉本ばななさんも好きでした。橋本治氏は、短篇集の『愛の矢車草』などで時々同性愛のお話を書いていて、それも好きですね。そういえば栗本薫さんの美少年ものも愛読していました。
旅好きなので紀行文も好きです。沢木耕太郎さんは『檀』や『』とかの評伝や『テロルの決算』とかのノンフィクションもいいですけれど、『旅する力』や『一号線を北上せよ』などの紀行エッセイが特に好きですね。もちろん『深夜特急』は何回も読み返しています。 あと、下川裕治さんの『12万円で世界を歩く』は私にとって画期的でした。貧乏旅行のやり方が書いてあったので。そういうバックパッカーの本を貪るように読んで、旅に憧れたりしました、昔は。行く当ても無いのに「地球の歩き方」を熟読したりしてね。
エッセイでは、伊丹十三。『ヨーロッパ退屈日記』とか『女たちよ!』とか、もう大好きで。佐野洋子さんのもほとんど読んでます。『ふつうがえらい』『がんばりません』『私の猫たち許してほしい』とか大好きでした。景山民夫のエッセイも好きでした。ほかに檀一雄の料理もの。『檀流クッキング』とか『美味放浪記』とかも好きでした。
川上弘美さんの小説もエッセイも好きです。『おめでとう』という短篇集と、『ゆっくりさよならをとなえる』というエッセイ集がいいですね。高橋源一郎さんの『さようなら、ギャングたち』とか、マヌエル・プイグの『蜘蛛女のキス』とか、パトリック・ジュースキントの『香水』も忘れられないです。ポール・ボウルズの『シェルタリング・スカイ』とか。モーリス・ベジャールの自伝とか。そういうのはもう無数にあって、映画同様、挙げていくときりがないんですが。
サラ・ウォーターズはうまいですよねえ。イアン・マキューアンやカズオ・イシグロなんかもそうですが、イギリス人の作家って、ちょっとまどろっこしいところがあって、時々苛々するんですけど。マキューアンは『贖罪』が、ウォーターズは『夜愁』と『半身』が好きです。
アーヴィングは『熊を放つ』とか『サイダーハウス・ルール』が好きですね。ポール・オースターは『シティ・オブ・グラス』と『幽霊たち』と『鍵のかかった部屋』のニューヨーク三部作や、『ムーン・パレス』『偶然の音楽』がいいです。『悪童日記』のアゴタ・クリストフも大好きでした。最近だとコーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』と伊藤計劃の『虐殺器官』も面白かったですね。私、SFって基本的に駄目なんですけど、これは面白かった。山尾悠子の『ラピスラズリ』もよかった。あと小説じゃないんですが、稲垣美晴さんという方がお書きになった『フィンランド語は猫の言葉』も面白かった。ああ、でもきっと、何かもっと大切な本たちがたくさん抜けているに違いありません。蔵書の趣味がないとこういうときに困りますね。

――本を選ぶ基準は。

中山:人から勧められたり、書評で褒められていたら気になります。ジャケ買いすることもありますね。何となくピンと来るっていう。ネット書店でオススメされたものを買ったりもします。家が辺鄙なところで近所に書店がないので、ネットもよく利用しますよ。

――今はどんな作品を構想中ですか。

中山:『ケッヘル』を質・量共に越える大長篇を書きたくて、しかも、ノワールを書きたいんです。2~3000枚くらいで。少し狂った美しい女の殺し屋が主人公の。まだプロットは練ってなくて、ちょっと準備に時間がかかります。でも、そんな長いのどこも出してくれないしね。もうタイトルも決まっています。ちょっと痺れるタイトルですよ。連載させてくれる版元を募集中です。もしどこも出してくれなかったら、いよいよキンドル個人出版デビューということになるのかな。できれば紙の本で出したいのですが。
日本の出版界はどんどん作家を使い捨てにするところで、私も今、かなり深刻な絶滅危惧種ですが、読んでくれる読者のいる限り、何らかの形で作品を発表し続けたいと思っています。

(了)

  • ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)
  • 『ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)』
    コーマック・マッカーシー
    早川書房
    590円(税込)
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  • フィンランド語は猫の言葉
  • 『フィンランド語は猫の言葉』
    稲垣 美晴
    猫の言葉社
    1,728円(税込)
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