第162回:木下昌輝さん

作家の読書道 第162回:木下昌輝さん

デビュー単行本『宇喜多の捨て嫁』がいきなり直木賞の候補となり、新しい歴史エンターテインメントの書き手として注目される木下昌輝さん。第二作の『人魚ノ肉』は、幕末の京都で新撰組の面々がなんと化け物になってしまうというホラーテイストの異色連作集。その発想や文章力、構成力はどんな読書生活のなかで培われたものなのか? 

その5「読書会での本との出合い」 (5/6)

  • 桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)
  • 『桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)』
    朝井 リョウ
    集英社
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  • チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)
  • 『チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)』
    海堂 尊
    宝島社
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  • 夜市 (角川ホラー文庫)
  • 『夜市 (角川ホラー文庫)』
    恒川 光太郎
    角川グループパブリッシング
    562円(税込)
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――その頃の読書生活はいかがでしたか。

木下:デビュー前は、参考のために新人賞を獲った本をめっちゃ読んでいました。獲ってからも、あまり変わらないですかね。自分の参考になる本を選んでいます。

――「この新人うまいな」と思った人はいませんでしたか。

木下:朝井リョウさんはすごいなと思いました。『桐島、部活やめるってよ』にはバレー部の話がありますが、自分もバレー部やったんで、衝撃を受けました。僕がバレー部の話を書いてもここまでのものは無理やろうな、と。桐島が部活辞めてレギュラーになれるかもしれない、本当は少し嬉しいけど、桐島が辞めたことを悔やむような演技ができるんだろうか、みたいな気持ちが書かれていますよね。すごいなあ、こんなこと書けるんかって思いました。作者の年齢を見たらめっちゃ若いしね(笑)。女性キャラの機微も書けるし。あと海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』もすごかったですねえ。看護士がメスを渡すのも重要な仕事や、みたいなことが書かれてあって。僕、実家が町工場で職人さんを見てきたので、そういう職人の技に立体感を持たせるのはすごいなと思ったんです。こういう人を目標にしようって思いました。それと恒川光太郎さんの『夜市』も面白かったですね。これはホラーですよね。『チーム・バチスタ』も『夜市』も、僕の知らない世界を表現して、ある意味で異世界を創作している感じが好きですね。

――デビュー後、ご自身の参考になる本を読んでいるということは、歴史ものとかノンフィクションが多いのでしょうか。

木下:歴史ものが多いですけれど、まあ適当です(笑)。短篇ばかりでまだ長編で結果を出していないので、その勉強や参考として本を選ぶことが多いです。この前万城目学さんの『とっぴんぱらりの風太郎』を読んだら、すごく面白かったですね。「『三国志』のアンソロジーを出すから何か書いて」と言われて、どう書いていいか分からへんから、同じく万城目さんの『悟浄出立』を読んで、これもめちゃくちゃ面白くて。独特の文体がよくて、この文章が読めるのならストーリーはなくてもいいわと思いました(笑)。なんか、司馬遼太郎を読んだ時のような気持ちになりました。そのくらい『悟浄出立』は面白かったんです。
それとは別に、文校に通ってる頃から、読書会というのをやっているんです。月1回あって、みんなが順番に課題本を出して、それについて話すんです。谷崎潤一郎の『痴人の愛』とか、桜庭一樹さんの『私の男』とかですね。古川日出男さんの『ベルカ、吠えないのか』も、こんな世界があるのかと思いました。海外文学では『鍵のかかった部屋』とか、『ヴェロニカは死ぬことにした』とか。人のオススメ本を読めるのは、なにげに役に立っています。僕は、池澤夏樹さんの『スティル・ライフ』にある「ヤー・チャイカ」を推薦しました。

――あ、今も続いているんですか。

木下:続いています。先月は篠田節子さんの『家鳴り』のなかの短篇「幻の穀物危機」というものを。エンタメでも『家鳴り』や『私の男』だと、人によって解釈が違うので活発に意見が出ますね。『チーム・バチスタの栄光』とかだと「面白かった」と言い合って終わってしまうんですけれど(笑)。エンタメでもそういう違いがあるんやと思いますね。

――木下さんはどんな本を課題本に選んだんですか。

木下:「ヤー・チャイカ」は別の読書会で出た時に読んで面白かったので、今やっている会で出しました。真藤順丈さんの『地図男』も挙げました。これは発想がすごい。一冊の中に四冊くらい長編が出来そうなアイデアが詰まっている。昔読んだ筒井康隆さんの小説のような切れ味があって、推薦しました。

――今は専業ですか?どんな風に一日を過ごされるのでしょうか。

木下:専業です。だいたい8時か9時に起きて、洗濯とかしょうもないことをしてから、あとはノマドというんですか、ファミレスとか喫茶店を転々としながら考えます。周囲がざわついているほうがよくて。僕、最初は手で書くんですよ。でも字が汚いので何が書いてあるか分からない(笑)。ひたすら書いて、区切りのいいところまできたらパソコンで自分の字を解読しながら打って、その繰り返しを夜9時くらいまで続ける感じです。

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