第166回:柚月裕子さん

作家の読書道 第166回:柚月裕子さん

新人離れした作品『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビュー、『最後の証人』にはじまるヤメ検・佐方貞人シリーズも人気の柚月裕子さん。最近では極道とわたりあう刑事の生き方を描く『孤狼の血』が話題に。骨太の作品を次々と発表している著者は、どんな本を読んできたのでしょう?

その3「中高時代は国内外のものを乱読」 (3/5)

  • MyoJo(ミョージョー) 2015年 12 月号 [雑誌]
  • 『MyoJo(ミョージョー) 2015年 12 月号 [雑誌]』
    集英社
  • 商品を購入する
    Amazon
    LawsonHMV
  • 情報取得中
  • 『情報取得中』
  • 商品を購入する
    Amazon
  • 犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)
  • 『犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)』
    横溝 正史
    KADOKAWA
    734円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto

――では中学生時代はホームズ一色で...。

柚月:ホームズとブルース・リーですね。

――まあ(笑)。それは当然、映画を観たのがきっかけだったんですか。

柚月:私が中学の頃はもうブルース・リーは亡くなっていたんですけれど、たまたまテレビのロードショーで『ドラゴンの道』を放送したんですね。ローマのコロッセウムで闘うシーンのある映画ですけれども、それを見て「ああ、こんな格好いい人がいるんだ」って。それからブルース・リーに関する本を集め出しました。当時の友達はみんな『明星』や『平凡』を買っているのに、私は『スクリーン』とか『ロードショウ』といった映画雑誌や、俳優さんの生い立ちや活躍を追って1冊にまとめた本を通販で買ったりして。父の会社の慰安旅行がシンガポールがどこかあちらのほうで、「裕子、お土産なにがいい」って言うから「ヌンチャクがほしい」って答えたら父が複雑な顔をしていました(笑)。結局お土産はチャイナ服っぽいパジャマでした。そんな中学時代でした。

――高校生になるとまた変わったんですか。

柚月:高校の頃は、今度は太宰治や芥川龍之介、三島由紀夫のあたりを読むようになりました。翻訳ものが訳する方で全然変わることに、今度は疑問をおぼえたんです。どれが果たしてオリジナルなのか、「本当のホームズってどれなんだろう」って。本来はそこで英語を習って自分で訳せばよかったんですけれど、英語が苦手だったので翻訳は無理だなと思い、翻訳に左右されない日本のものを読んでみようと思って。それで誰もが一度は通る道である『人間失格』あたりから入り、太宰、芥川、三島を乱読していましたね。

――乱読したということは、面白かったということでしょうか。

柚月:面白いというより、たいへん興味深かったですね。特に中高生の思春期といわれる時代に読んだ『人間失格』は、人間の深い部分を感じたのを憶えています。武者小路実篤の『友情』も。他には横溝正史さんの金田一シリーズも大好きで読んでいましたね。横溝さんに関しては、小学校中学年の頃に一度、チャレンジしたんです。テレビで古谷一行さんが金田一役のドラマを母と一緒に観て、すごく面白いと思って。みんなが「はいからさんが通る」「キャンディ・キャンディ」を見ている頃に、私は『犬神家の一族』とか『必殺仕事人』を見ていたんです(笑)。でも横溝さんの小説は小学生には難しかったので、リベンジの意味もこめて読みました。高校生で読んだらやはり面白かったです。

――怖い話だったり、骨太で男っぽいものだったり、好みがすごくはっきりしているというか。

柚月:あと中学の時に読んでいた漫画で忘れられないのは『漂流教室』。当時教室でみんなは『タッチ』をまわし読みしているなかで、私はおどろおどろしい『漂流教室』を読んでいました。

――やはり怖い漫画を(笑)。ところで、横溝は読んで江戸川乱歩など他の推理作家は読まなかったのですか。

柚月:読んでますよ。『人間椅子』とか。これもやっぱり、子供向けの「怪人二十面相」のシリーズではなく、『芋虫』とか、そっちのほうですね(笑)。  国内ものでは、父が時代小説、歴史小説が好きだったので、父の本棚に行っては網淵謙錠だったり、刀剣小説が好きだったので山本周五郎や吉村昭とかを借りて読みました。澁澤龍彦もありましたね。面白かったのは山本周五郎の『樅ノ木は残った』と、吉村昭の『破船』。他に、父は『オール讀物』が好きで毎号買っていたので、それもパラパラ読んでいました。ちょっと色っぽい大人の四コマ漫画のページもあって、悪いことをしているようなドキドキした気持ちでページをめくっていました(笑)。

――海外の作品では、ルパンは読まなかったのでしょうか。クリスティーなどの海外ミステリーとか。

柚月:そうですね、ルパンや、クリスティーの『そして誰もいなくなった』、エラリイ・クイーンの『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』などの古典といわれる海外ミステリーは読んでいました。でもやっぱり非常に記憶に残るのはホームズですね。
 ルパンは格好良すぎたんです。二枚目というか、女性に対して非常にスマートで、悪党だけどいい男で非の打ち所がないところが、逆に苦手だったのかもしれません。そう思うと、正義の側にいるホームズのほうが人間としては傾いているというか、欠陥が多いんですよね。ルパンのほうが怪盗なのに紳士的な部分が多いなと感じたことはありますね。

  • 樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)
  • 『樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)』
    山本 周五郎
    新潮社
    767円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ・クリスティー
    早川書房
    821円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • Xの悲劇 (角川文庫)
  • 『Xの悲劇 (角川文庫)』
    エラリー・クイーン
    角川グループパブリッシング
    778円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto

» その4「子育てと読書、そして作家に」へ