第177回:竹宮ゆゆこさん

作家の読書道 第177回:竹宮ゆゆこさん

『とらドラ!』『ゴールデンタイム』などのライトノベル作品で人気を集め、5月に〈新潮文庫nex〉から刊行された『砕け散るところを見せてあげる』も大変評判となった竹宮ゆゆこさん。無力ながらも懸命に前に進もうとする若者たちの姿を時にコミカルに、時に切なく描き出す作風は、どんな読書体験から生まれたのでしょう。インタビュー中に、突如気づきを得た様子も含めてお届けします。

その6「最近の生活&読書&作品について」 (6/6)

  • ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)
  • 『ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)』
    いとう せいこう
    新潮社
    680円(税込)
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  • 砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)
  • 『砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)』
    竹宮 ゆゆこ
    新潮社
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――それはよかった、と言っていいんでしょうか(笑)。話は変わりますが、一日の時間割って決まっていますか。

竹宮:規則正しいです。朝6時から7時の間に起きて、一回外に出るんです。できればジョギングをしたい。なぜなら、村上春樹のライフスタイルに憧れているので。で、運動してセロトニンをバンバン出して、完全に覚醒した状態で8時か9時までには仕事を始めて、すごく濃厚な午前中を過ごしたいんです。という朝型でありつつ、もっと超朝型人間でありたいと思っていて。午前中しかまともに頭が働いていない感じがするんですよ。お昼ごはんを食べちゃうと弛緩しちゃう気がします。締切に追われると一日中仕事をしたりもしますけれど、本当は午前中だけで仕事を完成させたい。だから理想としは、朝4時に起きたいんです。

――午後は何をしていますか。

竹宮:何もしてないですよ。お昼ごはんを食べた後は、明日の朝への助走に入っています。寝つきをよくするために散歩して、身体を動かす。午後のすべてをかけて翌日の朝、ものすごくクリアな自分でありたいんですよ。ま、とはいえ、それって本当に理想的な成功パターンで、普通に過ごしていると夜型人間になってしまうんです。

――本はいつ頃読んでいるんですか。

竹宮:午後ですね。だらだらと楽しみながら読む。どこから読んでも楽しいという本ってすごくいいなと思っていて。「お風呂入ろう」と思った時にさっと持っていってパッと読めばもう楽しくて、何度も繰り返し読んでも、どこから読んでも楽しいという本。いとうせいこうさんの『ボタニカル・ライフ』とか、サライネスとか。考えてみたら『うる星やつら』も『サザエさん』も植田まさしの漫画も全部そうですね でも「この日の午前中は、もう本を読むという午前中にしよう」という時もあります。だから、テレビを観ながらパラパラってめくっている時もあれば、やっぱり絲山さんの本を読む時なんかがそうなんですが、こっちも期待値もすごいので100%を目指して、きっちり向かい合って読む時もあります。もともと多読できるタイプではなく、そんなにするっと理解できる人間でもなく、むしろ一冊一冊をしつこく読むタイプなんです。絲山さんの『薄情』は、すごくよかったです。

――谷崎潤一郎賞を受賞しましたね。

竹宮:そうなんです。読んだ時に「素晴らしいです絲山さーん」と思い、受賞を知って「そりゃそうですよ絲山さーん」って思いました。でも、100%には達していなくて、作品のポテンシャルに対する自分の不甲斐なさを......ってすみません、またこの話に戻ってしまいました。

――最近、読む本はどうやって選んでいるのですか。

竹宮: 担当編集者さんのお薦め、というパターンが多いですね。それで、堀江敏幸さんの『雪沼とその周辺』とか宮部みゆきさんの杉村三郎シリーズとかを薦められました。あとはカズオイシグロ。大江健三郎の『叫び声』を薦められて読んだ後は結構語り合いました。担当編集者さんの男性目線と私の女性目線とではかなり感想が違っていて。今は『火星の人』を読んでいます。すごく面白い。

――さて、6月に刊行された『砕け散るところを見せてあげる』が大変話題になっていますよね。高校3年生の少年がいじめられたいた1年生の後輩女子を助けようとしたものの、彼女から激しく拒絶されてしまう。それでも気にかけているうちに、少しずつ2人の距離は縮まり、やがて彼女の深刻な事情が分かってくる。後半には大きな驚きがあります。

竹宮:〈新潮文庫nex〉の2冊目を出すためのプロットを考えていた頃、ふとこの小説のアイデアが浮かんだんです。プロットを作ることよりもそのアイデアを膨らませることが楽しくなってしまって、結局そちらのアイデアで小説を書くことになりました。これを書いている間は、朝目覚めると「今日もあの原稿が書ける!」と思えて楽しかったです(笑)。

――そのアイデアに驚かされたわけですが、その驚きがあることによって、人の思いというものは連なっていく、ということが分かってぐっとくるものがありました。タイトルもインパクトがありますね。

竹宮:タイトルを決めるのは難航したんです。よく「何が砕け散るんですか」と訊かれるんですが、いろんなキャラクターのいろんな気持ち、人生や将来に対する思いが砕け散るところを、著者である私が見せてあげる、という意味のつもりです。

――この作品でライトノベルの読者以外の人にも認知度を高めたと思いますが、今後の刊行のご予定は。

竹宮:11月に文春文庫から『あしたはひとりにしてくれ』という小説を刊行する予定です。これも高校生の男の子が主人公です。書き終えてから気が付いたのですが、これは『砕け散るところを見せてあげる』と対になっているような話になっています。

(了)