第180回:住野よるさん

作家の読書道 第180回:住野よるさん

ネットで評判となり、書籍化されて大ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』。その後『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』と話題作を発表し続ける住野よるさん。詳しいプロフィールやお顔は非公表ですが、読書遍歴や小説に対する思いを、真摯に語ってくださいました。

その2「エンタメ性を大切に」 (2/5)

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――中学生以降の読書生活はいかがでしょう。

住野:中学時代と高校時代の読書の記憶がわりとごっちゃになっているんですけど、西尾維新さんをよく読みました。『クビキリサイクル』の表紙を見て、完全にジャケ買いでした。で、読んでみたら面白かったんですよね。その頃まさに自分自身が中二病だったと思うんですけれど、そういうものが本当に大好きで。ラノベが中心でした。『よるのばけもの』で矢野さつきが言っていることじゃないですけど、パッと見て面白そうな小説がいいんですよね。

――今振り返るとあの頃は中二病だったと思うんですか、それとも当時からそういう自覚はあったんですか。

住野:今現在も中二病ですね(笑)。『よるのばけもの』がまだ本になる前に友達に読んでもらったら、「重力を無視するとか火を吐くとか、この主人公の男の子が"こういうことできたらいいな"と考えていることが中二臭い」って言われました(笑)。
大学時代に出会ったのは越谷オサムさん。『陽だまりの彼女』を読み終わった時に、好きすぎで吐き気がしました。身体に影響を及ぼすくらい好きなんです。そもそも、読書家の方にだけ向いている内輪向きの本ってあんまり好きじゃないんですよ。でも、越谷さんの本のエンタメ性って、年に1冊しか読まない子達に届けようとされているなと思うんですよね。越谷さんが描く女子高生って、水を弾く肌が見えるようで、それもすごいなと思うし。

――読書家に向けた内輪の本とは、どういうものでしょうか。私は読書がすごく好きなのですが、あまり読まない人と本の感想を話していると、「それは読書家だから分かるんだよ」などと言われることがあるので気になります。

住野:うーん。この間、すごく感じたことがあって。まったく本を読まない友達がいるんですけど、その人に自分が面白く読んだ本を一冊あげたんです。文芸的であるのにエンタメ性もすごいなと思う本で、読んでくれて「おもしろかった」と言ってくれたので「よかった、普段本を読まない人にも通じるんだ」と思ったんです。でもそうしたら次に、「でもこれは売れないだろ」って言うんですよ。なんでかというと、「だって、エンタメじゃないもんな」って。それで、自分が「これくらいがエンタメだ」と思っている幅って、普段読まない人にとってはあまりにも広いのかもしれないと気づいて。それで、自戒をこめてというか、本当に普段本を読まない人、その1冊が一生ではじめて読む本になるような人に勧めても大丈夫なものを書こう、と改めて思いました。そういう人がちゃんと最後まで読めるものを、って。やっぱり越谷さんや有川さんは飽きさせない工夫を凝らされていますよね。エンタメがちゃんと最初のページから打ち込まれているというか。ああ、そうか、自分が思っていたのは「飽きさせない工夫がされている本かどうか」ということかもしれません。

――なるほど。それが人生初の本になるであろう人に勧められる小説があっていいし、逆に本を読みなれた人が噛みごたえを感じる小説があっていいし、そこはそれぞれですよね。

住野:そうですね。この間担当さんがおっしゃられていてもっともだなと思ったのが、文芸作品の中でどっちが上でどっちが下とか言っている場合じゃない、と。自分たちが相手にするのはスマホだって(笑)。

――おっしゃる通り(笑)。ところで海外小説はほとんど読まないのですか。

住野:海外小説は「訳す」という作業を通しているので、本当に作者がいいたいようになっているのかなと思ってしまうんです。もちろん、すごくうまい訳もあると思うんですけれど。
日本の小説でも、日本で暮らしていないと分からない文脈はたくさんありますよね。たとえば『君の膵臓をたべたい』を他の国の人が読んだ時、桜ってものを見たことのない国の人は、日本人ほど桜に散りゆくものの儚さを感じないと思うんです。そういう文脈が外国の小説にもあるだろうし、それを自分が理解できるのかなっていうのがあって。それでつい、日本の小説を手に取ってしまいます。

――住野さんの作品は海外で訳されていないんですか。

住野:台湾で訳されていて、褒めてもらえているみたいで嬉しいです。

――異なる国でも、伝わるものは伝わるんですよ、きっと。では国内の古典的な作品などはいかがですか。

住野:有名なものはぽつぽつと読んでいるんですよ。『坊ちゃん』とか。でも、やっぱり読んでいるのはほぼ現代小説です。

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