第180回:住野よるさん

作家の読書道 第180回:住野よるさん

ネットで評判となり、書籍化されて大ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』。その後『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』と話題作を発表し続ける住野よるさん。詳しいプロフィールやお顔は非公表ですが、読書遍歴や小説に対する思いを、真摯に語ってくださいました。

その5「新作と今後」 (5/5)

――さて、最新作の『よるのばけもの』はどういうアイデアが最初にあったんですか。夜になるとバケモノに姿が変わってしまう"僕"が、夜の学校に行ったらそこで「夜休み」をとっていたという同級生と出会う...という。

住野:はじめてデビューしてから書いた本になります。「夜になると僕は化け物になる」という最初の一文を書きたくて書いたんです。この本は読者さん達との繋がりにしたくて。自分は「夜野やすみ」といったペンネームで「小説家になろう」で活動していたんですけれど、それを知っている子達が「夜休み」って見て、ハッと思ってくれるかな、とか、桜良の話を出しているのも気づいてくれるかな、とか。というのも、中学生、高校生、大学生の子たちがたくさん手紙をくれるんです。時間的な、物理的な問題で返事を返せなくなってきていて、でもちゃんと読ませてもらっているし、声に出せないけれども応援してくれている人たちもいるはずなので、その方たちへの手紙のつもりで書いたんです。なんか今、すごくクサいことを言いましたね、自分でもゾクッとしました(笑)。
自分は「住野よる」というのはバンド名、ユニット名で、自分が「書く係」、担当さん達が「編集する係」、もっといえば読者さん達は「読む係」で「住野よる」だと思っているんですよね。でも、それをみなさんに押しつけることなく考えると、やっぱり自分が住野よると呼ばれているとは思います。でも大ヒットして映画化が決まって...となると自分でも「住野よるって誰だよ」って思い始めてしまって。世間で住野よるとされている自分と、『よるのばけもの』を書いている自分は違うかもしれないってことを伝えたかったのかもしれません。自己満足ですけど。

――現時点の著作3冊とも、自分と向きあう話でもありますよね。

住野:ああそうですね。なんか、自分のことが好きじゃないんですよね。でも認めてあげたいっていう気持ちもあって。すぐ気持ちが不安定になるんですよ(笑)。そしてツイッターで余計なことを言って担当さんから怒られる(笑)。

――今後の刊行予定など、展望は。

住野:次が新潮社さんで、その次がKADOKAWAさんの予定です。新潮社の新刊は『小説新潮』に連載したもので、わりとはやいスパンで出ると思います。日常コメディみたいなもので、『か「」く「」し「」ご「」と「』というタイトルを提案したら「奇をてらいすぎているんじゃないか」という声はあったようですが、パッと見て面白いものでないと手に取ってもらえないと思っているので。ちゃんと意味もありますし。
「こういう作風だ」と思われたくないんですよね。エッセンスとか土台になっているものに共通したものを感じてもらうのは全然かまわないんですが、たとえば『君の膵臓をたべたい』を出して次どうするかという話になった時、「青春感動ものを出す人」と思われたくなかったんです。『君の膵臓をたべたい』が一番好きだという読者さんがいるのは全然かまわないんですが、「あれだけだった」と言われたくないし、デビュー作が代表作だと思われたくない。なので、ある会社で本を出す時に他の会社の担当者さんたちを悔しがらせるくらいのものを出したい、と思っています。
ある担当さんが「自分たちが作る本に一切の手は抜いてはいけない」って言うんですよ。「その本が、その人が今年読むたった一冊の本になるかもしれない。それに足る本を自分たちは作っているのか」ということを念頭に置かれているらしいんですね。そこを、自分もすごく大事にしたいと思っています。願わくはその1冊でお腹いっぱいになるくらい、あるいはその人の心を砕いてしまうくらいの本を出したいです。

(了)