第180回:住野よるさん

作家の読書道 第180回:住野よるさん

ネットで評判となり、書籍化されて大ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』。その後『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』と話題作を発表し続ける住野よるさん。詳しいプロフィールやお顔は非公表ですが、読書遍歴や小説に対する思いを、真摯に語ってくださいました。

その3「小説家を目指す」 (3/5)

  • 塩の街 (角川文庫)
  • 『塩の街 (角川文庫)』
    有川 浩
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    720円(税込)
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  • わたしたちの田村くん (電撃文庫)
  • 『わたしたちの田村くん (電撃文庫)』
    竹宮 ゆゆこ
    メディアワークス
    659円(税込)
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  • キノの旅 (19) the Beautiful World (電撃文庫)
  • 『キノの旅 (19) the Beautiful World (電撃文庫)』
    時雨沢恵一
    KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
    572円(税込)
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  • キーリ〈2〉砂の上の白い航跡 (電撃文庫)
  • 『キーリ〈2〉砂の上の白い航跡 (電撃文庫)』
    壁井 ユカコ
    アスキー・メディアワークス
    616円(税込)
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  • バッカーノ! The Rolling Bootlegs (電撃文庫 な 9-1)
  • 『バッカーノ! The Rolling Bootlegs (電撃文庫 な 9-1)』
    成田 良悟
    KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
    616円(税込)
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  • きじかくしの庭 (メディアワークス文庫)
  • 『きじかくしの庭 (メディアワークス文庫)』
    桜井 美奈
    アスキーメディアワークス
    616円(税込)
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――本格的に小説家を目指し始めたのはいつ頃なんですか。

住野:本当にプロを目指したのは、大学生からですね。大学生になって「将来何になるんだろう」と考えて、「小説家って、人に会わなくてもよさそうだし、いいな」って(笑)。

――そんな消極的な理由(笑)。

住野:自分は何もできないので、「小説を書く」というところに自分の特別性というか、アイデンティティのようなものを求めていたんだと思います。だからこれまでに発表した小説3冊とも、「何もできなくていいよ」という感じが出ているなと自分でも思います。
それと、本を書いて生活できるって最高だなって思ったんですよね。一日中本のことを考えてられるんだ、って。それで、ライトノベルがすごく好きだったので、ライトノベルの賞を獲りたいなと思ったんですよね。それこそ、有川浩さんとか、時雨沢恵一さんに憧れて。

――やっぱりレーベルによってカラーが違いますか。

住野:割と違いますね。僕が読んでいたころの電撃小説大賞なんかは、「なんでもあり」って感じがしていました。それこそ有川浩さんがおられたりする一方で、表紙に半裸の女の子が鎮座しているものがあったりする。面白ければなんでもありという感じがすごくいいなと思っていたんですね。今は僕が読んでいたころからは何年も経っていて、どういう風になっているのかは分からないですし、双葉社さんからデビューする以上によかったことなんてなかったと思っていますが。

――大学卒業後はどうされていたんですか。

住野:卒業してからは普通に働いていました。働きながら新人賞に投稿していました。で、『君の膵臓をたべたい』が出る年に諸事情があって職を失いまして。本が刊行されて、生活できるようになってよかった、と思います。

――うわあ、すごいタイミングだったんですね。そういえば、『君の膵臓をたべたい』は電撃小説大賞などには応募しなかったのですか。

住野:最初は電撃小説大賞に送ろうと思っていたんです。でもページ数が合わなくて。他に応募した小説も全部一次審査で落ちて、4回目くらいで「さすがにもう無理だな」と思っていて。でも、『君の膵臓をたべたい』はどうしても誰かに読んでほしかったので「小説家になろう」というサイトにアップしました。それまで「小説家になろう」の存在も知らなかったんですが、そういうのがあると知って「誰か一人でも読んでくれたらいいな」と思って出しただけだったんです。

――そうしたら大評判となりまして。

住野:「小説家になろう」のユーザーさんが発見してくれたみたいです。発掘することを「スコップ」と言うらしいんですか。その時は全然「小説家になろう」の使い方を分かっていなくて、長篇なのに短篇として投稿しちゃって栞などを一切挟めないようにしちゃって、すごく読みにくかったのに、よくみなさん読んでくださったなと思っています。それを読んでくださった方の中にすでにデビューされていた作家さんがおられて、その方から編集者さんに伝わった、という流れです。

――影響を受けた作家といいますと、やはり有川さんもいらっしゃると思いますが、ほかには...。

住野:はい、有川浩さんは自衛隊三部作がものすごく好きですね。『塩の街』がまだ電撃文庫から出ていた頃に買って読みました。それに、竹宮ゆゆこさんがすごく好きでして。『わたしたちの田村くん』という作品がむちゃくちゃ可愛いんです。それと時雨沢恵一さんの『キノの旅』。一時期は電撃小説大賞の大賞・金賞・銀賞を獲ったものをだいたい読んでいたんです。壁井ユカコさんの『キーリ』や成田良悟さんの『バッカーノ!』の頃です。
大学生時代に読んだものでいうと、ちょっと交流させていただいている桜井美奈さんという作家さんがおられまして。『きじかくしの庭』で電撃小説大賞を獲られているんですが、受賞が発表されて本が出る前に審査員の講評を読んだ時に、そういう作風でも大賞を獲れるんだ、と思ったんですよね。その後作品を読んだら、もう明らかに一般文芸なんですよ。表紙の感じもいつもとは全然違っていて。本当に面白くさえあればなんでもアリの賞なんだなと思いました。『きじかくしの庭』は「小説家になりたい」という気持ちを紡いでくれた作品です。

――ライトノベルと一般文芸というジャンルはどう意識されていたんですか。

住野:もともとライトノベルの賞を獲りたいと思っていたんですけれど、どこまで普通の小説っぽくていいのか、ラノベっぽくなくていいのかという点をすごく考えていました。わりと一時期はもっとラノベっぽいものを応募して落ちていたりしたんです。それもあって、ちょっと作風を変えてみたほうがいいか、などと考えていたんですよね。もともと日常にちょっとある不思議も好きなんです。前にすごく話題になった小説でいうと、梶尾真治さんの『黄泉がえり』みたいな話が好きだったんですよね。

――『君の膵臓をたべたい』の出発点はどこにあったのですか。

住野:題名が最初にあったんです。電撃って、一次選考を通ったらネットに題名だけ載るんです。その時に「なんだこれ」って、騒がれたかったんですよね。騒がれたら、受賞しなくても編集者の人たちの目に留まるんじゃないかと思って。それで最初にタイトルが出てきて、そこから「この言葉で人を感動させられないかな」と思って書きました。書き上げた時、すごく手応えがあって...。
何を言っているのか分からないかもしれませんが、お話を書いている時って、横たわった丸太の上に薄い板が乗っている状況をイメージするんですよ。ぐらぐらしてすごく不安定な状態だけれども、これを書き上げた時は、板が水平になって静止していた状態のものが書けた気がしたんです。

――双葉社から本にしたいと連絡があった時はどんな気持ちでしたか。

住野:「これはなんだろう」と(笑)。自費出版みたいな話を持ちかけられているのかもしれないじゃないですか。でも「一度お会いしてみませんか」とおっしゃってくださって、話を聞くだけ聞こうと思って行ったら、編集者の方が超いい人そうだったので(笑)。

――そこから大ヒットとなりましたよね。急激な変化ですよね。

住野:そうですね。感謝の気持ちはめちゃくちゃ大きいんです。でも『君の膵臓をたべたい』に関してはフワフワした状態というか、「現実なんだろうか」という感覚がまだ続いていて、それが「嬉しい」という感覚なのかどうか、ちょっと分からないんです。読んで「面白かった」と言ってくださる方たちに「ありがとうございます」と言いたい気持ちは嘘じゃないんですが、映画化するとか何万部突破とか、受け止めきれない(笑)。2作目の『また、同じ夢を見ていた』にしても「売れている」という感覚がぼんやりしていて。なので3作目の『よるのばけもの』が本屋さんに並んでいるのを見て、ようやく「自分の本なんだ」と受け入れられるようになりました。

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