第180回:住野よるさん

作家の読書道 第180回:住野よるさん

ネットで評判となり、書籍化されて大ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』。その後『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』と話題作を発表し続ける住野よるさん。詳しいプロフィールやお顔は非公表ですが、読書遍歴や小説に対する思いを、真摯に語ってくださいました。

その4「好きな同時代作家」 (4/5)

  • 告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
  • 『告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)』
    湊 かなえ
    双葉社
    669円(税込)
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――ところでデビュー前、社会人になってからの読書生活はどうだったんですか。

住野:普段読まなかったものに手を出すようになって、わりと文芸系の賞を獲った人を読むようになりました。大学時代の最後のほうだったのか社会人になってからか確かではないんですけれど、その頃に辻村深月さんとかに出会って。辻村さんの『凍りのくじら』がものすごく好きです。湊かなえさんの『告白』を読んだのもその頃ですね。いろいろごたごた言っていたのに最後に憎い相手をあっさり許すという話がめっちゃ嫌いなので、あれは最後まで読んだ時に「やった!」と思いました(笑)。読後感が悪いと言われていたのに、その日1日機嫌がよかったです(笑)。

――なあなあで済ませるのが嫌いということでしょうか(笑)。

住野:「復讐は復讐を生むだけだ」とか言いますよね。「相手にも事情があったんだ」とか。「知るか!」って思います(笑)。

――デビューされてからは、周囲から本の情報はたくさん入ってくると思いますが、読む本の選び方は変わりましたか。

住野:やっぱりジャケ買いもしますね。外側と題名と冒頭を見ます。正直、好きな文体とそうでない文体があるので、冒頭1ページくらいは必ず見ますね。僕のラノベに影響されまくった文体を嫌いな人も当然たくさんいるだろうし、それと同じで自分も苦手としている文体がたくさんあります。語弊があるかもしれませんが、文章から「我、小説家ぞ」って感じがする文章がすごく苦手なんですよ。格調高い文章であってもそれが内容に見合っていればいいんですけれど、ただ偉そうな文章がたまにある気がして。「ドヤ感」が嫌いなわけじゃないんですよ。文章全体に響くドヤ感は自分も目指しているところなんです。

――具体的にどういうものなんでしょう...。

住野:小説すばる新人賞を受賞された渡辺優さんの『ラメルノエリキサ』という本がありますよね。あれは褒め言葉として、毛の先からつま先までドヤ感がみなぎっている作品なんだと思うんですね。渡辺優さんの「こういうところでクスリとしちゃうんでしょ」っていう感じがすごくゾクゾクします。そういうのはすごく好きです。『よるのばけもの』が一番感化されているのはこの『ラメルノエリキサ』ですね。あれを読んですごく純粋なものを感じて、純粋なものが書きたくなったんです。キャラが純粋というよりも、渡辺さんがやりたいことに向かって、そこにただ向かって、障害物があろうがなぎ倒して進んでいるイメージを持ったんです。その純粋さを持たせたものを自分も書きたいと思いました。
小説家になってから、担当編集さんに教えていただいて読む本も増えました。最近新潮社の担当さんに教えてもらって面白かったのが、奥田亜希子さんの『五つ星をつけてよ』ですね。タイトルの星はネットのレビューの星の数のことです。その担当さんが彩瀬まるさんの担当なので教えてもらった彩瀬さんの『やがて海へと届く』は2016年のベストです。
昨年はいろいろいい本との出合いがありました。阿川せんりさんはデビュー同期になるんですが、デビュー作の『厭世マニュアル』がすごく好きで。人とうまく関われなくて、マスクを外せない女の人の話です。自分も働いている頃、駄目な人間だったので、主人公が怒られる場面なんかは読んでいてきつかったんですけど、でも、だからこそのカタルシスがちゃんとある作品です。終わり方も「そっちにいくんだ」という素晴らしさがあって。

――さきほど『星の王子さま』読み返すとのことでしたが、好きな本は繰り返し読むんですか。

住野:いえ、そうでもないです。ただ、シーンや台詞を憶えていて、たまに「このシーンを読みたい」とか「あの言い回しが気持ちよかったからまた読みたい」という時があって、その時は読み返します。

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