第199回:瀧羽麻子さん

作家の読書道 第199回:瀧羽麻子さん

京都を舞台にした「左京区」シリーズや、今年刊行した話題作『ありえないほどうるさいオルゴール店』など、毎回さまざまな作風を見せてくれる作家、瀧羽麻子さん。実は小学生の頃は授業中でも読書するほど本の虫だったとか。大人になるにつれ、読む本の傾向や感じ方はどのように変わっていったのでしょうか。デビューの経緯なども合わせておうかがいしました。

その6「最近の執筆について」 (6/6)

  • ありえないほどうるさいオルゴール店
  • 『ありえないほどうるさいオルゴール店』
    瀧羽 麻子
    幻冬舎
    2,947円(税込)
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――主にいつ小説を書いたり読んだりしているのでしょうか。

瀧羽:本を読むのは平日の夜が多いです。書くのは、まとまった時間がとれる週末のほうが集中できますね。いやになってきたら、さっきもお話した通り、ちょっと他の人の小説を読んで、元気を出してからまた書きます。

――小説家になってよかったと思う瞬間はありますか。

瀧羽:本の見本ができあがった瞬間は、なによりも嬉しいです。モノとしても、本そのものが好きなので。でも、一切読み返さないですね。自分が書いた内容も結構忘れてしまっていて、後から質問されてあわてることもあります。

――では、小説を書く題材はどのように選んでいるのでしょうか。

瀧羽:依頼が入り次第、考えます。先方が「恋愛もので」「会社もので」「京都を舞台で」など、大まかな方向性を考えておられることが多いので、それもふまえて話し合います。

――じゃあ、『ありえないほどうるさいオルゴール店』は小樽の不思議なオルゴール店の話ですが、あの場合は。

瀧羽:あれは、私から提案しました。さっきの話にも出た編集者のIさんと、次はどんな話を書こうかと相談していた時に、不思議な男の人を登場させよう、かわいいお店屋さんにしよう、というような、漠然としたアイディアは浮かんでいたんです。でも、その後彼女が会社を辞めてしまって、書く機会がないままになっていました。
 2、3年前でしょうか、『乗りかかった船』という造船会社を舞台にした連作短篇をはじめ、お仕事系の小説の依頼がいくつか続いた時期がありました。そんな中で、それらとは別路線の、デビュー作の『うさぎパン』にも通じるようなちょっと不思議な感じのものを、というお話をいただいて。ちょうどいいかなと思って「オルゴール屋さんはどうでしょう」と打診したところ、気に入っていただけて、採用となりました。小樽へ取材にも行って、連作形式で書くことにしました。

――お客さんの心に流れる音楽を聴きとることができる店主が、その人にあったオルゴールをオーダーメイドしてくれる、心温まる連作集でしたね。

瀧羽:ひとつのお店を舞台に、そこを訪れるいろんなお客さんの人生の一部を、短篇として切りとっています。皆それぞれに悩みや屈託を抱えながらも、オルゴールに託された音楽を通して、少しだけ前向きになれるというお話です。この作品に限らず、どこにも救いのない絶対的な不幸みたいなものは、あまり書きたいと思ったことがないですね。世の中ではひどい事件がたくさん起きていますし、ふわふわと楽しいことばかり書いていても現実味がないですが、せっかく物語を作るからには、ひと筋でもいいから光がほしいなと。あと読み手としても、私にとって読書は異世界トリップというか現実逃避というか、未知の世界に旅するための手段という面もあって、あまりにも悲惨すぎる場所をあえてめざす気になれないというのもあります。

――では、今後のご予定は。

瀧羽:11月に児童書を出すことになっています。最初にお話しした、『ノンタン』を出している偕成社からなので、感慨深いです。小学校高学年向けの、小学5年生の女の子が知らない大人との出会いを通して成長していくという、ほのぼのしたお話です。年明けは、レストランを舞台にした家族ものの連作短篇集が2月頃に出る予定です。これはデビュー直後に書いた3篇に、最近になってから書いた3篇を足して、一冊として完成させることになっています。続いて、春か夏くらいには椅子職人のお話も。他に進行中の連載では、農業のお話と、転職エージェントのお話も書いています。

――見事に題材がそれぞれまったく違うという。楽しみですね。

瀧羽:こうして並べてみると、節操がないですね(笑)。以前は同時に複数の小説を書き進める時は、こっちが辛くなったらあっち、と場当たり的に進めていましたが、きっちり時期を分けたほうが書きやすいと気づきました。たとえば月を上旬、中旬、下旬と3分割して、上旬はこれ、中旬にこれ、下旬はこれ、というようなサイクルで回しています。私は飽き性なので、いろんな題材を書くのは、気分が変わって楽しいです。

(了)